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「犯罪対策特殊捜査班サヴァンズ」第1話ブラックアウト前編

サヴァンズは、サヴァン症候群を持つ7人の天才からなる犯罪対策チームで、主に犯罪予測を行っています。
チームの中心メンバーであるクライスは、卓越した記憶力を持ち、情報を瞬時に把握する能力があります。
また、彼の教官である女性も特別な能力を持ち、周囲の情報を鋭く察知する力があります。
彼らはサヴァンの特性を活かしつつ、犯罪に必要なスキルを習得しており、クライスは博物学や犯罪史を用いて犯人を追跡します。
他のメンバーも様々な特異な能力を持ち、共に凶悪犯罪に立ち向かう物語です。

第1話「ブラックアウト」あらすじ
都市全体を覆う大規模な停電が発生した瞬間、同時に複数の犯罪が勃発する。
銀行のセキュリティシステムはダウンし、高級ジュエリーショップが襲撃され、さらに重要な政府施設が不正アクセスを受ける。
都市は混乱に陥り、警察も対応に追われる中、サヴァンズの出動が決定される。

チームは、これが単なる停電による混乱を狙った偶発的な犯罪ではなく、綿密に計画された犯行だと推測する。
ウオンは、都市の電力網と地下施設の複雑な設計図を瞬時に記憶し、犯行の中心に位置するであろう場所を特定する。
その地下施設は、都市の電力供給に関わる重要な場所であり、そこが攻撃の出発点と考えられる。

一方、クライスは、過去に電力会社と関連した新聞記事や公開データを高速で分析し、停電と一連の犯罪が計画的に仕組まれていたことを示す証拠を見つけ出す。
彼の記憶力と洞察力により、電力会社内部に潜む協力者や、犯人が停電を起こした理由が明らかになり、最終的に都市全体の停電が犯行グループによる意図的な妨害工作であることが判明する。

犯行の目的は、停電の混乱に乗じて特定の政府データを盗み出し、そのデータを使ってさらなる攻撃を行う計画だった。
クライスとウオンの連携で、サヴァンズは犯行グループの本拠地を突き止め、次の攻撃を阻止すべく急行する。

クライマックスでは、停電を利用した逃走ルートを利用する犯人グループと、サヴァンズチームが地下迷路で激突。ウオンの図形記憶とクライスの情報解析を駆使し、犯人の企みを暴き出す。


「犯罪対策特殊捜査班サヴァンズ」メンバーのプロフィール


1. クライス・ハーヴェイ(主人公)

  • 年齢: 32歳

  • 役割: チームリーダー / 記憶解析エキスパート

  • 能力: 世界最高レベルの記憶力を持つサヴァン症候群。見たもの、聞いたものを瞬時に脳内に正確に再現できる「完全記憶保持(エイドティックメモリー)」を持ち、書物やデータの膨大な情報も一度見れば忘れない。特に活字に強く、新聞やデジタル情報など膨大なデータを短時間で読み取ることができる。

  • 背景: 幼少期から驚異的な記憶力を発揮し、学界でも注目されたが、犯罪捜査に興味を持ち、サヴァンズの中心人物として活動。冷静沈着で分析力に優れ、チームの頭脳的存在。

  • 性格: 無口でクールだが、内には強い正義感を持つ。何事にも計算的で、他者の意図や動機を素早く見抜く。

2. ウオン・リー

  • 年齢: 28歳

  • 役割: 暗号解読 / 設計図解析の専門家

  • 能力: 「図形記憶(Visual Memory)」の天才。あらゆる地図、設計図、複雑なパズルを一度見ただけで正確に記憶することができる。また、サブスキルとして暗号解読に優れ、難解なコードやパスワードを瞬時に分析し解読する能力を持つ。

  • 背景: 中国系アメリカ人。少年時代から数学や図形の才能に秀でていたが、暗号解読の才能が買われて特殊捜査の道に入る。爆発物処理やセキュリティシステムの解除も担当する。

  • 性格: 理屈っぽいが陽気な性格で、難しい状況でもユーモアを忘れない。クライスとのコンビネーションは抜群。

3. アリシア・モルガン(通称「千里眼の魔女」)

  • 年齢: 40歳

  • 役割: 教官 / 五感分析エキスパート

  • 能力: 彼女は「フルスキャン」と呼ばれる異常な五感を持っており、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚のすべてが常人の数倍優れている。犯行現場に立つだけで、目に見えない証拠や人の気配、匂い、音の微細な違いを瞬時に察知することができる。まるで千里眼や透視能力を持っているかのような鋭い洞察力で、犯人の意図を感じ取る。

  • 背景: 元はFBIの優秀な捜査官。彼女の能力を恐れた一部の仲間たちから「魔女」と呼ばれていたが、犯罪捜査に特化したスキルを買われサヴァンズに転身。過去のトラウマも抱えるが、チームを守るために尽力する。

  • 性格: 非常に知性的で、母親のような存在。冷静かつ厳格だが、チームのメンバーには深い信頼を寄せている。

4. サミュエル・「サム」・ジョーンズ

  • 年齢: 35歳

  • 役割: 情報操作 / ハッキング担当

  • 能力: 「カメラ・アイ」と呼ばれる超視覚記憶を持つ。犯行現場の一瞬の映像や監視カメラの映像を一度見るだけで完全に記憶し、後で再現することができる。さらに、情報ネットワークやデジタルセキュリティの突破を得意とするハッカーでもある。

  • 背景: かつては犯罪組織のハッカーだったが、国家に協力することで罪を免れ、その能力を生かして捜査班に加わった。犯罪者としての裏社会の知識も豊富で、その経験が捜査に役立つことが多い。

  • 性格: 不良気質で皮肉屋だが、仲間意識は強い。独自の正義感を持っており、サヴァンズの一員として社会に貢献することに誇りを感じている。

5. エマ・ロドリゲス

  • 年齢: 26歳

  • 役割: 化学分析 / 毒物専門家

  • 能力: 「スーパーテイスト(超味覚)」の持ち主。微量の成分や化学物質を味覚で分析し、犯行現場で使用された毒物や薬物、その他の化学物質の痕跡を特定する能力を持つ。また、化学や毒物の知識も豊富。

  • 背景: 大学で化学を学んでいたが、彼女の特殊な能力が犯罪捜査に役立つことが判明し、サヴァンズにスカウトされた。彼女の分析力は、凶悪犯罪において重要な手がかりを見つけることが多い。

  • 性格: 活発でポジティブな性格。チームのムードメーカーであり、困難な状況でも笑顔を絶やさない。

6. ミカエル・グリーン

  • 年齢: 30歳

  • 役割: 音声分析 / 記録解読担当

  • 能力: 「絶対音感」を持つ彼は、音の微細な違いを感じ取り、音声データや犯行現場の物音から犯人の動きを追跡する。録音された電話や監視カメラの音声から、犯人の身元を特定することができる。

  • 背景: 音楽家としてキャリアを積んでいたが、犯罪捜査における音声分析の分野に転向。音の世界で犯人の痕跡を追うことに長けている。

  • 性格: 真面目で寡黙だが、音楽への情熱を持ち続ける。正義感が強く、冷静な分析でチームを支える。

7. クロエ・ベネット

  • 年齢: 24歳

  • 役割: 色彩分析 / 目撃証言の再現

  • 能力: 「四色覚」を持つ彼女は、普通の人間には見えない色の違いを見分けることができ、偽造された証拠や犯行現場に残された微細な手がかりを発見する。また、目撃者の証言に基づき、犯人の特徴を正確に再現するスキルを持つ。

  • 背景: 美術の専門家であり、色彩に関する深い知識を持っている。サヴァンズでは犯行現場の細部を分析し、証拠を色彩から導き出す。

  • 性格: 温厚で優しいが、犯行現場では非常に鋭敏な目を持つ。サヴァンズの妹的存在で、皆に愛されている。

ライバル的犯罪組織「ファントム」

1. リーダー: ヴィクター・“ファントム”・カスパー

  • 年齢: 45歳

  • 役割: ファントムのリーダー / 戦略家

  • 能力: 天才的な戦略家で、相手の動きを何手も先に読んで行動する計画性を持つ。高度なサヴァン症候群を持つ人物たちを集め、組織を率いる。表舞台にはほとんど姿を現さず、徹底した隠密行動と情報操作を行うことで、自分の存在を幻のように隠し続ける。複雑な犯罪計画を緻密に練り上げ、実行に移すカリスマ的リーダー。

  • 背景: 元は政府のトップエージェントだったが、国家に対する強い不信感から裏社会に転落。サヴァンズのライバル組織「ファントム」を結成し、政府や大企業のシステムを狙ったサイバーテロや、金融機関への襲撃を繰り返している。

  • 性格: 冷酷で無情。自分の利益のためなら部下さえも切り捨てる一方、完璧な計画を愛し、そのために最善を尽くす。彼の目的は国家や社会の転覆であり、サヴァンズを倒すこともその一環と考えている。

2. ヘレナ・クイン

  • 年齢: 34歳

  • 役割: 情報収集・ハッキング担当 / 電脳の女王

  • 能力: 世界有数のハッカーで、電子データやネットワークに関するあらゆることに精通している。サヴァンズのサム・ジョーンズとは旧知の仲であり、かつては共に犯罪活動を行っていた過去がある。彼女は政府や企業のシステムを破壊し、重要な情報を盗み出すエキスパートである。また、視覚的にデータを処理し、膨大な情報を瞬時に把握する能力を持つ。

  • 背景: 天才的なハッカーとして若くして裏社会に入り、その技術で組織を支えている。サヴァンズのサムとはかつて恋仲にあったが、裏切りにより袂を分かち、それ以来、敵として対立している。

  • 性格: 冷酷かつ計算高い。感情を見せることは少ないが、サムに対して複雑な感情を抱いている。

3. レイ・デグランジ

  • 年齢: 40歳

  • 役割: 暗殺者 / 潜入とサイレントキルの達人

  • 能力: 音もなく移動し、目立たずに標的を排除する「サイレントキル」の専門家。彼の殺害方法はすべて痕跡を残さない。身体能力が非常に高く、どんな環境でも音を立てずに潜入し、暗殺を完遂する。また、武器の扱いや格闘技にも精通しているため、敵対者にとっては恐怖の存在。

  • 背景: 軍の特殊部隊出身で、元は国家のために働いていたが、家族を失ったことをきっかけに国家に対して強い憎悪を抱き、裏社会に転向。ヴィクターに忠誠を誓い、ファントムの暗殺者として活動。

  • 性格: 寡黙で冷徹、感情を表に出さず、任務に徹底して忠実。

4. エゼキエル・ホフマン

  • 年齢: 38歳

  • 役割: 爆破・破壊工作担当

  • 能力: 爆発物の扱いに長けた爆破のエキスパートで、ファントムが引き起こす大規模な破壊活動の多くを指揮している。化学や工学に精通しており、どんなセキュリティをも突破できる破壊工作を行う。計算された精密な爆発を仕掛けることで、ターゲットを徹底的に破壊する能力を持つ。

  • 背景: 工学の天才であり、かつては兵器開発の研究者だったが、倫理に反する兵器開発を断ったことで迫害を受け、裏社会に転向。ファントムに加わり、その技術力を犯罪活動に利用している。

  • 性格: 過剰な自信家で、破壊の美学を持つ危険な人物。自分の作る爆発に陶酔しており、制御不能なほどの破壊力を追求する。


狂気の天才盗賊: ヴァルデス・レナード

1. ヴァルデス・レナード

  • 年齢: 30歳

  • 役割: 天才的盗賊 / 芸術的犯罪の実行者

  • 能力: 「完璧な盗み」を信条とする芸術的な犯罪のプロフェッショナル。彼の強みは、計画の緻密さと、変装、潜入、脱出の技術に長けていること。特に、心理学に基づく犯行計画を練り、相手の動きを読み切って罠を張ることに優れている。体操選手並みの身体能力と戦闘スキルを持ち、どんなセキュリティシステムも突破できる。

  • 背景: 幼少期から天才的な才能を発揮し、10代で大規模な美術館からの絵画盗難事件を成功させたことで名を轟かせた。その後、国家機関や大企業から盗みを働き、その大胆不敵な手口で世界中に知られるようになった。彼は犯罪を「アート」として捉え、自分の犯行に誇りを持つ。

  • 性格: 狂気的な完璧主義者で、自分の犯罪を「芸術」と見なしている。冷徹で傲慢だが、その魅力的なカリスマ性から、多くの信奉者がいる。犯罪の動機は物質的な利益ではなく、自らの名声と達成感を得ることにある。

2. ヴァルデスの特徴

  • 変装の達人: 身元が特定されることはなく、変装技術を駆使してどんな姿にも変わることができる。彼は現場に姿を現すたびに違う顔と身分で現れ、正体を突き止められた者は皆無に等しい。

  • 犯行のサイン: 犯行現場には必ず自分の象徴である黒いバラを残すというルールを持っており、これが彼のサインとなっている。そのため、黒いバラが現場に残されると、警察やサヴァンズは「ヴァルデスの仕業」と直感する。

  • 計画の緻密さ: 彼の犯罪計画は、数か月、時には数年にわたって綿密に練られる。無駄な行動や偶然の要素を排除し、あらゆる予測の上で行動するため、彼の犯行を阻止するのは極めて困難。

3. 性格と動機

  • 自己陶酔的な犯罪者: 彼は他者の命を奪うことを極力避けるが、犯罪そのものを「自己表現」としてとらえており、追い詰められると冷酷さを見せる。相手の計画や心理を見抜き、弱点を突くのが得意。

  • 目標: 彼の究極の目的は、全世界が認める「史上最高の犯罪者」としての称号を手に入れること。そのためにはどんな犠牲もいとわないが、無駄な殺傷を嫌うポリシーを持つ。


1話 「ブラックアウト」

 すべては、暗闇から始まった。
 突然、都市全体が闇に包まれ、今まで聞こえていた街の雑音が一瞬で消え去った。
ビルの窓からは灯りが消え、車のヘッドライトさえも薄暗い影になった。
私は机に広げたファイルを見つめ、心の中でカウントダウンを始める。

5、4、3、2、1——まるで予測したかのように、電話が鳴った。

「クライス、緊急だ」アリシアの声が冷静だが、どこか緊張が混じっている。

「停電だな」私は答える。

「その通り。そして、同時に複数の犯罪が発生している。私たちの出番だ」
 私は即座に立ち上がり、机の上に広がる新聞の切り抜きをもう一度視界に収める。
1週間前、都市の電力網に対するサイバー攻撃の兆候が見られるという小さな報告書を見たとき、私はそれがただの予測だと思っていた。
しかし今、目の前でそれが現実になろうとしている。

 私の名はクライス・ハーヴェイ。
サヴァンズの一員であり、チームの記憶解析担当だ。
世界最高の記憶力を持つとされるが、その能力がどれほどの重荷であるか、誰も知るまい。
目に映るものすべてを記憶し、いつでも正確に引き出せる能力。それは時に祝福だが、時に呪いでもある。

 アリシアからの指示を聞きながら、私はこれまで収集した情報を頭の中で整理する。
電力会社に関する全データ、都市の配電網、そして最近のサイバー攻撃に関するニュース記事。
すべてが一つのパズルのピースとなり、私の脳内で形を成していく。

「ウオンの準備はできているか?」
私は尋ねる。

「彼はもう設計図を見ている。電力網の解析に集中させているわ」アリシアが答える。

 ウオン・リー、彼の図形記憶力はチームの中でも唯一無二だ。
あらゆる地図や設計図を完全に記憶し、いつでもそれを頭の中で再現できる。彼の力があれば、私たちは都市全体の電力網を隅々まで把握し、どこで何が起きているのかを突き止めることができる。

 私は車に乗り込むと、急いでチームの本部に向かった。
停電の原因を突き止めるのは急務だが、それ以上に気になるのは、これが単なる停電にとどまらないという直感だった。

暗闇の中で、何か大きな事件が同時に動き出している。
誰かが意図的にこの混乱を引き起こし、そしてその背後には、長年私たちが追い続けている「ファントム」の存在が見え隠れしている。

車のエンジン音が低く響き、暗闇に包まれた街を疾走する。
街路灯が消え、人々は道端で混乱しているのがわかる。
クラクションの音、遠くで聞こえるサイレン。
非常事態だ。こんな大規模な停電が都市全体で起こること自体、何かが背後で仕組まれている証拠だ。

 「サヴァンズ全員、すぐに本部へ集合だ。」
 アリシアからの一斉通達が無線を通して入る。
彼女の指揮下で、私たち特殊捜査班サヴァンズはこれまで数々の困難な事件を解決してきたが、今回の事件はその中でも一際厄介なものになりそうだと感じる。

 私は思考を切り替え、ウオンが既に電力網の設計図を見ていることを思い出す。
彼の能力なら、複雑な地下配線も一瞬で頭の中に刻み込まれているはずだ。私はウオンに信頼を寄せている。
彼の記憶力は驚異的で、暗号解読も得意だ。
今回も彼のスキルが鍵を握ることになるだろう。

 だが、それだけではない。今回の停電は単なる電力供給の問題ではないはずだ。
停電と同時に複数の犯罪が発生しているという事実。
この動きの背後に誰がいるのか、それを知ることが急務だ。私の頭の中では、過去の事件や関連するデータが次々と呼び起こされ、整理されていく。

 「ファントム——」
 その名を思い浮かべるだけで、背筋に冷たいものが走る。
ファントムは組織犯罪の影の立役者であり、数々の難事件に深く関与している。
しかし、彼らの正体は依然としてつかめていない。
彼らのリーダー、ヴィクター・カスパーは、私と同じく天才の頭脳を持つ男だと噂されている。
彼がこの停電の裏で暗躍しているのだとすれば、事態はさらに複雑化する。

 車が本部に到着すると、私はすぐにビルに飛び込んだ。
廊下を進むと、既にウオンとサム、そしてアリシアが集まっていた。
ウオンは巨大な設計図をデジタルスクリーンに表示し、その上で指を走らせていた。

 「ウオン、進展は?」
私はすぐに問いかけた。

 彼はスクリーンに目を向けたまま答える。
「都市全体の電力網は極めて複雑だが、犯人が狙ったポイントはここだ。主要な電力供給施設を短時間で複数箇所、同時に停止させている。恐らくサイバー攻撃だが、物理的な侵入もあったかもしれない。地下の変電所を狙ったのは間違いない」

 ウオンの指が電力供給ルートの交点を指し示す。
その地点は、都市の心臓部とも言える場所だった。
私はその場所を見て、記憶を探る。そこは以前、あるテロ計画が仕掛けられた場所でもあった。

 「その地点、前にテロ組織が狙った場所だな。電力網の脆弱性を突いて都市機能を停止させるという計画だった」
 私の言葉にウオンが頷く。
「そうだ。今回も同じ手口が使われている可能性が高い。だが、今回はそれだけじゃない。複数の犯罪が同時に発生している。これは偶然ではなく、計画的なものだ」
 「ファントムの仕業か……」サムが低い声でつぶやく。
彼はサヴァンズのハッカーであり、サイバー攻撃の専門家だ。
もしファントムが絡んでいるとすれば、サムのスキルが必要になることは間違いない。

 「サム、すぐに犯人の通信ログを追跡してくれ。アリシア、現場での情報収集を頼む。君のフルスキャン能力が必要だ。現場には何か隠された手がかりがあるはずだ」私は指示を出し、すぐに作戦を開始する準備に入った。

 アリシアが頷く。
「了解。現場に行ってみる。私の感覚がこの闇の中で何かを捉えられるかもしれない」
 アリシアのフルスキャン能力は信じられないほどの精度を誇る。
彼女の五感は常人の数倍も鋭く、目に見えないものをも感じ取ることができる。
彼女が現場に赴けば、見逃していた重要な手がかりが浮かび上がるかもしれない。

 私たちはすぐに分担し、それぞれの任務に取り掛かることになった。
私は再び車に乗り込み、現場に向かう。
ウオンとサムが本部でサイバー攻撃の分析を進める間、私はアリシアと共に、物理的な証拠を探すために動くことになった。

 道中、私は頭の中でこれまでの情報を再確認する。
このブラックアウトが起こるまでの数週間、私はあらゆる記事や報告書を精査していた。
その中に、何か見落としている手がかりがあるはずだ。
すべての情報を正確に思い出すことは容易だが、それをどう繋げて事件を解決に導くかが難題だ。

 突然、車の無線がノイズを発し、アリシアの声が入る。
「クライス、現場に到着した。何か感じる……けれど、これは……」
 彼女の声に不安の色が混じる。
アリシアが動揺することは滅多にない。
それが何を意味するのか、私は直感的に感じた。
現場には何か予期せぬものがあるのだ。助手席の資料を手に取り、私はアクセルを踏み込んだ。

私は車を駐車スペースに滑り込ませ、素早く降りた。
アリシアは既に現場の変電所近くに立っており、あたりをじっと見回している。彼女の顔には険しい表情が浮かんでいた。
何かが引っかかっているのだろう。私もその直感を信じて近づく。
「何を感じる?」
私は彼女の隣に立ち、目の前の暗闇を見据える。
停電のせいで、周囲はほぼ真っ暗だったが、非常用のライトが薄暗い光を放っていた。

「ここにはただの停電じゃない、何か……違う波長のものがある。物理的な破壊ではないけど、空気中に奇妙なノイズが感じられるの。まるで誰かが私たちを観察しているかのような感覚があるわ」
アリシアは囁くように言い、肩越しに視線を巡らせた。

 私は彼女の感覚を疑う理由がない。
アリシアの「フルスキャン」能力は、ただ鋭い五感の延長ではない。
彼女の感覚は、普通の人間が感じることのできない微細な変化を捉える。
電波の干渉、空気の揺れ、音の周波数……そのすべてが彼女の感覚器官を通してフィルタリングされ、私たちに隠された手がかりをもたらす。

 「サイバー攻撃の痕跡か?」
私は質問を投げかけた。

 「それも一部かもしれないけど、何かもっと個人的なもの。監視している視線……いや、それ以上に近い。何か、私たちの動きを知っている者がいるみたい……」
アリシアは考え込むように目を閉じた。

 私は彼女の言葉を聞きながら周囲を観察した。
すると、変電所の隅に不自然に放置された古い監視カメラが目に留まった。暗闇の中でほとんど目立たないが、その角度は私たちを捉えているように見える。

「アリシア、あのカメラを見てみろ」私は彼女の注意を引き、カメラを指さした。
 彼女はすぐにカメラに視線を移し、頷いた。
「このカメラ、普通じゃない……電力が完全に落ちているはずなのに動作している。それに、最近のモデルじゃない。何か裏があるわ」
 私は無線を取り、すぐにサムに連絡を入れた。
「サム、現場で異常な監視カメラを発見した。電源が落ちているはずなのに稼働している。ハッキングできるか?」

 無線の向こうで、サムがすぐに応じた。
「了解、すぐに接続を試みる。カメラの位置を正確に教えてくれ。」
 私はカメラの位置をサムに伝え、彼のスキルに頼ることにした。サムはサヴァンズの中でも特にサイバー戦に強く、これまで多くのセキュリティシステムを破ってきた。
彼なら、犯人が何を意図していたのか解明してくれるはずだ。

 アリシアと私はその場で待機し、サムがカメラにアクセスするのを見守った。数分後、無線からサムの声が響いた。

「カメラにアクセスできた。だが、このカメラは通常の監視カメラじゃない。ただの映像データじゃなく、何か別の機能が埋め込まれている。生物の動きを検知して記録するセンサーが付いている……これは罠だ」
「罠?」私は即座に警戒した。
「どういうことだ?」
「このカメラは犯人が私たちを誘導するために仕掛けたものだ。ここでの行動を監視して、次の動きを読まれている可能性が高い。クライス、気をつけろ。犯人はただ待っているわけじゃない。何かを仕掛けている。」

 その言葉を聞いた瞬間、私の脳内でパズルのピースがはまる音がした
。これはファントムのやり口だ。
ヴィクター・カスパーの仕掛けた罠だ。
彼は常に先手を打ち、こちらの動きを見越して行動する。
そして今、私たちはまさにその罠にかかっている。

 「アリシア、ここを離れるぞ」
私は彼女の腕を掴み、すぐにその場から撤退しようとした。

 しかし、その瞬間、背後から静かな足音が聞こえた。私は即座に振り返り、暗闇の中に人影を捉えた。
その影は私たちをじっと見つめている。
身に着けた黒いフードの下で、輝く瞳だけが露出していた。

 「君がクライスか……噂に聞くほどの天才かどうか、確かめてやろう」
 低く、冷たい声が響いた。
その声の持ち主——間違いない、彼はヴィクター・カスパーだ。ファントムのリーダー、そして狂気の天才盗賊。

 私は無意識に拳を握り締めた。
ここで彼と対峙することになるとは予想していなかったが、彼がわざわざ姿を現すということは、それだけ自信があるということだろう。
カスパーは私たちの行動を見透かしている。彼は一歩先を行っている。

 「どうする、クライス?」
カスパーは静かに笑いながら言った。
「君の記憶力は素晴らしいと聞いている。だが、それがどれほどの役に立つか見せてもらおうじゃないか。」

 私は一瞬迷った。
カスパーを目の前にして冷静さを保つのは難しい。
彼の存在そのものが脅威だ。
しかし、私には仲間がいる。アリシア、ウオン、サム——私たちはこれまで数々の難事件を乗り越えてきた。ここで恐れるわけにはいかない。

 「ファントムのリーダーが自ら現れるとは、意外だな」
私は冷静を装いながら答えた。
「だが、お前の計画を阻止するためなら、俺たちは全力を尽くす。」
 カスパーはその言葉に何も答えず、ただ微笑むだけだった。

そして、次の瞬間、彼は背を向け、闇の中へと消えていった。
私たちは動けなかった。
彼の動きは俊敏で、まるで霧のように姿を消した。

「クライス、どうする?」
アリシアが緊張した声で尋ねた。

 「追うわけにはいかない。今は状況を整理するんだ。奴がどこへ向かうのか、次の一手を読まないと」私は彼女に冷静に指示を出し、無線を再び手に取った。

「サム、ウオン、カスパーが姿を現した。奴は何かを企んでいる。全員、本部に戻って作戦を練り直す」


私たちはすぐに本部へ戻るために車に乗り込んだ。

運転席に座り、アリシアは助手席に身を寄せてきた。
彼女の顔には緊張と不安が混じっているが、私は彼女に安心感を与えなければならない。

 「大丈夫、アリシア。私たちはこれまで多くの困難を乗り越えてきた。今回もきっと乗り越えられる。」
私が言うと、彼女は小さく頷いた。

 「でも、カスパーは特別だわ。彼の頭脳は私たちの何倍も先を行っている。彼が次に何を企んでいるのか、全く予想がつかない……」
アリシアの声は不安に満ちていた。

 「それが彼の強みだ。しかし、私たちには彼の動きを読める力がある。ウオンの記憶力、サムのサイバー能力、そして君の直感。これらを組み合わせれば、必ず突破口が見つかる」
私は自分自身にも言い聞かせるように言った。

 本部に到着し、私たちは急いで作戦室へ向かった。

ウオンとサムが待っていた。二人とも緊張した面持ちで、私たちが戻るのを待ち構えていた。
「どうだった?」
ウオンがすぐに尋ねる。
「カスパーが姿を現した。彼は私たちの動きを監視している。現場には罠が仕掛けられていて、奴の次の狙いはおそらく私たちを陥れることだ。」
私は二人に状況を説明した。
「そのカメラが何かの手がかりになるかもしれない。サム、あのカメラからデータを取り出せたか?」私はすぐにサムに質問した。

「うん、解析中だけど、データはかなり複雑だ。だが、ここに異常な数のアクセスログが残っている。このログを追うことで、カスパーの動きが掴めるかもしれない」
サムはモニターを操作し、詳細なデータを表示させた。

 私はモニターに近づき、情報を精査する
。カスパーの行動パターンや通信のトレースがあった。
彼が都市のどの地点に頻繁に出入りしているのか、明確な傾向が見えてきた。

「ここだ。この地点は、さっきの変電所から直線距離で約二キロほどの場所にある。ここは以前にもファントムの活動が確認されたエリアだ」
私は指をさして説明した。

「もしカスパーがこの地点を狙っているのなら、次の計画はここで実行される可能性が高い。すぐに行動に移るべきだ」
ウオンが言う。

「行こう、今すぐに」
私は決断を下した。
ファントムのリーダーが再び現れる前に、先手を打たなければならない
。私たちの手でこの事件を終わらせる必要がある。

 車に乗り込み、私たちはすぐに目的地へ向かった。
移動中、私の頭の中にはカスパーの冷たい笑顔が浮かんでいた。
彼は私たちの動きを完全に読んでいるのかもしれない。
彼の存在が、この事件をますます深刻化させていく。
 目的地に近づくにつれて、周囲の空気が変わるのを感じた
。街の明かりはほとんど消え、停電の影響で周囲は不気味な静けさに包まれている。私たちが向かう先には、かつてない危機が待ち受けているように思えた。
 「クライス、周囲の警戒を強めて。私たちの行動が筒抜けだと思う」
アリシアが警告を発した。
彼女の感覚が冴えわたっている。
私たちが近づくにつれて、彼女の直感が鋭くなっているのだろう。

 目的地に到着すると、建物の周囲には人影が見当たらなかった。しかし、私は何かが lurking(ひそんでいる)気配を感じていた。

「サム、データを解析して。もしカスパーの仕掛けた罠があるなら、それを見抜かなければ」私は指示を出す。

「了解、すぐに行く」サムは手元のデバイスを操作し、周囲のネットワークをスキャンし始めた。

 そのとき、私はアリシアが何かを感じ取っているのを見た。彼女の表情が緊張に満ち、体がわずかに震えている。

「何か来る……」
アリシアが言った瞬間、周囲が暗闇から動き出した。
複数の影が私たちの方に近づいてくる。暗闇の中で光る目が、私たちを見つめている。

「クライス、奴らだ!」ウオンが叫ぶ。
 その瞬間、カスパーの仲間たちが姿を現した。
彼らは暗い服装で武装しており、無表情のまま私たちに向かってくる。カスパーが私たちの行動を察知し、先手を打ってきたのだ。

「みんな、戦闘準備!」私は声を張り上げた。

 私たちサヴァンズは、強い絆で結ばれている。
どんな状況でも互いを信じ、協力し合うことで乗り越えてきた。今こそ、その力を試されるときだ。
 私たちは急いで身を構えた。
周囲は戦闘モードに突入し、私たちの意志は一つにまとまっていた。
敵が近づくにつれて、私の心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。

「この瞬間を待っていたぞ、クライス!」冷たい声が響く。カスパーの声だ。彼が現れ、私たちを挑発するように微笑んでいる。

 「君たちには、私の罠から逃れることはできない。
運命の歯車は回り始めているのだ!」
彼は言葉を続けた。私たちを無視するように、彼は仲間たちに指示を出した。
「行け!この都市を混乱に陥れ、サヴァンズを打ち負かせ!」

 私たちは一斉に敵に向かって突撃した。心の中には仲間への信頼、そしてこの危機を乗り越える強い決意が渦巻いていた。


続く。


あとがき
最近は、話のネタとして1000文字ぐらいのあらすじのような形で元のアイディアを自分で作ってそれをChatGTP4oなどに、指示を出してあらすじを書いてもらうやり方で進める場合が多い、最近、分かった事がある。
ホラー、怪談系なら、生成してもらった後でも、修正、加筆が出来るが、探偵推理もの、今回のアクションが入った場合、まったくと言って良いほど、手を入れることができないのだ。
ホラー、怪談系のように、慣れがないため、背伸びして作品作りをするとまだまだ、勉強不足が身に沁み、もっと時間を掛けて次回は探偵推理やアクションものに挑んでいきます。
ここまで読んで頂きありがとうございました。

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