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現代版最小人間の怪 《最小人間の夜》 —人類のあとを継ぐもの—
あらすじ(現代版)
人類の未来を揺るがす"進化の末裔"との出会い。
環境学者・野村(のむら)は、山中で生態系の調査を行っていた。
ある晩、彼のドローンが奇妙な生物を捉える。
それは、身長3センチほどの"人間"だった。
興味本位で捕獲を試みるが、その小人は流暢に語り出す。
「私たちは次の人類。君たちはもう、終わる側だ。」
小人たちの社会を目の当たりにした野村は、彼らの知能と技術力に戦慄する。
彼らはどこから来たのか? 何を目的としているのか? そして、小人たちが示唆する"人類の終焉"とは——?
人類と最小人間の境界が揺らぐ、SFホラーミステリー。
登場人物プロフィール
◆主人公:野村 公一(のむら こういち)
🔹 年齢:37歳🔹 職業:環境学者(動物生態学・進化生物学専門)🔹 性格:理論的・冷静・好奇心旺盛だが疑り深い🔹 容姿:
身長175cm / 細身 / 黒縁メガネ
無精ひげを生やしているが手入れはしている
野外活動が多いため日焼けした肌
大学教授だった父の影響で、幼い頃から科学に没頭
過去にフィールドワーク中の事故で助手を失った経験あり
その時のトラウマから「得体の知れないもの」を否定する癖がある
◆タツ(最小人間)
🔹 年齢:???(人間換算で30歳程度)🔹 職業:最小人間の知識者(いわゆる学者的存在)🔹 性格:論理的で知的 / 皮肉屋 / だがどこか哀愁がある🔹 容姿:
身長3cm / 灰色の肌 / 目が異様に大きい
丸い顔で髪は短いが整っている
声は異様に低く、響くような話し方
彼の種族は長い間、人類の影で生き続けてきた
人類が滅びると確信しており、それを当然の流れと見ている
しかし彼自身はどこか"人間に未練"がある
◆坂本 美咲(さかもと みさき)
🔹 年齢:32歳🔹 職業:ジャーナリスト(フリーライター)🔹 性格:行動力がある / 執念深い / 知識欲が強い🔹 容姿:
身長160cm / ショートカットの黒髪
いつもラフな格好(アウトドアブランドの服を好む)
疲れると目の下にクマができやすい
以前、人類未踏の洞窟探検で消息を絶った登山家の記事を書いたことがある
野村とは大学時代の知り合い(当時は恋人未満の関係)
野村が見た"最小人間"の話を聞き、取材を申し出る
◆最小人間の女:ユナ
🔹 年齢:???(人間換算で20代後半)🔹 職業:最小人間の"次の指導者"候補🔹 性格:優雅で神秘的 / どこか冷淡 / しかし人間に興味を持つ🔹 容姿:
身長3cm / 長い黒髪 / 灰色の肌 / 目が光を反射しているように見える
他の最小人間よりも美しいとされている
人間を"次の進化"へ導くべきか迷っている
野村に興味を持ち、彼を試すような態度をとる
実は、彼女自身は"人間だった記憶"がある……?
◆謎の博物館職員:村上(むらかみ)
🔹 年齢:50代🔹 職業:国立博物館の学芸員(歴史・民族学専門)🔹 性格:温厚そうだが何かを隠している / 言葉を選ぶ🔹 容姿:
中肉中背 / 白髪混じりの髪をオールバックにしている
スーツを着ているが、どこか不釣り合い
静かに微笑むが、目だけが笑っていない
最小人間の存在を知る数少ない人間
博物館にある"顔の乾燥標本"について何かを知っている
彼自身が"人間"なのかどうかも、最後まで曖昧なまま
◆その他のキャラクター
🔹 野村の助手(故人)
数年前に野外調査中に事故死
しかし、最小人間の村で"彼に似た姿の存在"を見かける
🔹 最小人間の集団
彼らは"本当に生まれつき小さいのか"不明
かつての人間が変異した存在かもしれない
登場人物の関係図
野村 公一(主人公) ├→ タツ(最小人間) ……「君たちは滅びる」と語る ├→ 坂本 美咲(ジャーナリスト) ……「それ、スクープになるかも?」 ├→ ユナ(最小人間の女) ……「あなた、人間でいたいの?」 └→ 村上(博物館職員) ……「最初から、そんなものはなかったですよ」
現代版最小人間の怪 《最小人間の夜》 —人類のあとを継ぐもの—
第1章:霧の山中
森の奥深く、静寂が支配する世界。ここには人間の気配などない。
俺——野村 公一(のむら こういち)は、ひとり山中を進んでいた。
動物生態学を専門とする俺にとって、この場所は調査対象であり、時に安息の地でもある。だが、この静寂には何か異様なものを感じていた。
今朝、ドローンを飛ばして森林の様子を確認していた時、奇妙な映像が映り込んだ。
小さな影。
身長にして、せいぜい数センチ。獣でも鳥でもない——人型だった。
気のせいかもしれない。
そう思いつつも、俺はカメラの記録を見返した。
何度確認しても、それは"人間の形"をしていた。
生態学者としての直感が、危険を知らせる。
それと同時に、研究者としての好奇心が、それを否定する。
俺は、確認しに行くことにした。
ドローンが捉えた場所まで足を運ぶ。
そこには、小さな水たまりができていた。足元に気をつけながらしゃがみ込むと——何かが動いた。
目を凝らした俺は、息をのむ。
そこには、"それ"がいた。
身長3センチほどの、人間が——。
第2章:対話
「……なにかの、錯覚か?」
自分にそう言い聞かせながら、俺は慎重に近づく。
だが、"それ"はまるで警戒することなく、じっとこちらを見上げていた。まるで、俺を見透かしているかのように。
「——やっと気づいたようだな。」
——声?
俺は耳を疑った。
"それ"は、小さな口を開き、流暢な日本語を話した。
「お前たち人間は、いつもそうだ。自分たちが最も賢く、最も優れていると思い込んでいる。だが、それも長くは続かない。」
「……どういうことだ?」
「我々は次の時代を担う種族だ。お前たちは、もうすぐ終わる」
俺は完全に思考を停止していた。"それ"はまるで、この世界の摂理を語るかのように淡々と話し続ける。
名を問うと、"それ"はこう名乗った。
「タツだ」
第3章:最小人間の村
タツは俺を、自らの住処へ案内すると言った。
「……お前を案内したところで、どうせ信じられないだろう?」
そう言うと、タツは静かに微笑んだ。
「だったら、見せてやるよ。お前の目でな。」
俺は迷った。
こんな得体の知れないものに着いて行くなど正気の沙汰ではない。
だが、もしこれが新種の生物であるならば、研究対象としてはこの上なく貴重な存在だ。
結局、俺はタツの後を追った。
しばらく歩くと、森の奥にぽっかりと口を開けた洞窟が現れた。
その中へ入ると——そこには、信じがたい光景が広がっていた。
小さな人間たちが、数百人も暮らしていたのだ。
俺は、自分の目を疑った。
洞窟の奥には、規則的に並んだ小さな住居があった。
岩を削って作られたものもあれば、木の枝や草を編んで作ったものもある。中には、明らかに"人間が作った"痕跡のあるものも見えた。
彼らは、俺を見ても騒ぐことはなかった。
ただ静かに観察するように、こちらを見つめている。
「……なんなんだ、これは。」
「我々の社会だよ。」
タツは当たり前のように言った。
「そんな顔をするな。お前たち人間も、かつては小さな集落を作り、狩りをし、暮らしていたはずだ。」
「だが、お前たちは"人間"じゃないだろう。」
俺の言葉に、タツは薄く笑った。
「そう思いたいか?」
俺は言葉を失った。
しばらく洞窟内を歩いていると、タツは俺をひとつの住居に案内した。
「ここに座れ。」
俺は差し出された席——というか、小さな石の上に腰を下ろした。
目の前には、同じく小さな人間たちが何人か集まっている。
「彼女を紹介しよう。我々の次代の指導者、ユナだ。」
ユナ、と呼ばれた女は、他の者たちよりも少し整った顔立ちをしていた。
髪が長く、背中まで流れるように伸びている。
その瞳は、人間のものとは少し違った。
まるで、光を反射しているように輝いている。
「あなたが、"野村 公一"?」
透き通るような声だった。
「……そうだ。」
「タツから聞いているわ。あなた、人間でいたいの?」
妙な質問だった。
「当たり前だろう。」
「そう……。」
ユナは、意味ありげな微笑を浮かべた。
第4章:進化の真実
「人間は、滅びる運命にあるの。」
ユナは、淡々と言った。
「君たちは環境を破壊し、資源を食いつぶし、争いを続けている。そうして自らの生存圏を狭め、やがて自滅する。」
「……環境問題については俺も研究しているが、それとお前たちが関係あるのか?」
「あるわ。」
ユナは指をかざした。
「私たちは、あなたたちの"次"だから」
俺は、背筋に寒気を感じた。
「お前たちは"突然変異"か?」
ユナは、くすりと笑った。
「違うわ。私たちは"適応"したの、」
「適応?」
「環境が変われば、生きる形も変わる。大きな体を持つ者たちは、やがて生きられなくなる。だから、私たちは小さくなった。」
「そんな進化論があるか。」
「あるわ。でも、それはあなたたちの知る進化論とは違う。なぜなら……。」
ユナは俺の目をじっと見据えた。
「私たちは、かつて"人間だった"のだから。」
第5章:異常な研究
「……ふざけるな。」
俺は無意識に拳を握りしめていた。
「そんな話、信じられるわけがない。」
「信じるかどうかは自由よ。でも——あなたの体も、もうすぐそれを理解するわ。」
「……なんだと?」
「あなた、少し小さくなっているわよ。」
その瞬間、俺は血の気が引いた。
言われてみれば、足元の地面が少し近く感じる。
洞窟の入り口で目測したときより、天井が高く見える。
「そんなはずは……。」
「最初は気づかない。でも、じきにはっきりと変化を感じるわ。あなたも"次の人類"になるのよ。」
「ふざけるな!」
俺は立ち上がり、洞窟を飛び出した。
第6章:逃亡
走る。
とにかく、この異常な場所から離れなくてはならない。
だが、森を抜ける頃には、俺の視界はおかしくなり始めていた。
木々が巨大に見える。地面が遠くなっていく。
そして、俺の手が——
小さくなっていた。
第7章:異変の兆候
坂本美咲は、俺の話を聞いていた。
だが、彼女の表情には疑念が浮かんでいる。
「野村……本気で言ってる?」
「ああ、本気だ。」
俺は震える手を彼女に見せた。
指が細くなり、関節の形すら変わっている。手のひらの皮膚は異様に滑らかになり、どこか人工的な質感すら感じる。
「お前……本当に……縮んでるのか?」
「見ればわかるだろう。」
美咲はごくりと唾を飲み込み、俺の体を凝視した。
俺の視界が徐々に低くなっていく。
床のタイルが遠く、大きく感じる。
「そんな……こんなこと、ありえない……。」
美咲は頭を抱えた。
「ありえないが、起きている。」
俺は必死に言葉を絞り出す。
「美咲、頼む。俺を助けてくれ。」
「……どうやって?」
「お前はジャーナリストだろ。情報を集めるのが得意だ。俺がこうなった原因、最小人間の正体、そして……俺が元に戻る方法を調べてくれ
。」
美咲はしばらく沈黙した後、小さくうなずいた。
「わかった……私も納得してないし、何より……お前がどんどん消えていきそうで怖い。」
その言葉に、俺はかすかに救われた気がした。
第8章:人類の変質
「手がかりがあるとすれば、博物館の標本よ、」
美咲はパソコンを開きながら言った。
「野村、お前の言ってた"最小人間の妻君の標本"、それについて詳しく調べる。」
俺たちは国立博物館の記録を調べ始めた。
すると、奇妙なことがわかった。
「この標本、過去の展示記録には"三つ"あったのに、今は"二つ"しかない……。」
「俺が見た時は、確かに三つあったんだ……。」
「じゃあ、一つはどこへ消えた?」
「まさか……」
俺の背筋が寒くなった。
「"生き返った"のか?」
その瞬間、部屋の電気が一瞬チラついた。
「……美咲、外を見ろ。」
美咲がカーテンを開ける。
そこには、無数の小さな影があった。
最小人間たちが、俺たちのアパートを取り囲んでいた。
第9章:元の姿へ
「くそっ、逃げるぞ!」
俺たちは部屋を飛び出した。
だが、最小人間たちは驚異的な速さで動いていた。
まるで影のように壁を這い、天井を走り、俺たちのすぐ背後まで迫ってくる。
「野村! どこへ行けばいい!?」
「……博物館だ! あそこに行けば、何かわかる!」
俺たちは夜の街を駆け抜けた。
異様なことに、通りを歩く人々は俺たちを見ていない。まるで、俺たちと最小人間の存在に気づいていないかのように。
「……もしかして、"見えてない"のか?」
最小人間たちは、俺たち以外の人間には認識されていないのかもしれない。
「早くしろ!」
博物館の扉を押し開ける。
中には、村上学芸員がいた。
「ようこそ、野村さん。お待ちしていましたよ。」
「待っていた……?」
「ええ、あなたがここへ来ることはわかっていましたから。」
村上は微笑む。
「元に戻る方法を知りたいんでしょう?」
「知ってるのか!?」
「もちろんです。ですが、ひとつ条件があります」
「なんだ?」
村上は、奥の部屋を指差した。
「"最小人間の標本"の前に立ちなさい。」
俺は恐る恐る、展示室へ足を踏み入れた。
そこには、ガラスケースの中に並ぶ二つの標本。
そして、その隣にある"空の展示スペース"。
「……三つ目は?」
村上がにやりと笑う。
「あなたですよ、野村さん。」
「な……。」
「そこに立ちなさい。そうすれば、元に戻れる。」
俺は、ゆっくりと"空の展示スペース"へ立った。
その瞬間——
視界が歪んだ。
体の奥底から、熱い何かがこみ上げる。
「野村!?」
美咲の声が遠くなる。
全身が、強烈な痛みに襲われた。
細胞が拡張し、骨が軋む。
「——っっ!!」
次の瞬間——俺は元の大きさに戻っていた。
第10章:新たな時代
「お前……戻ったのか?」
美咲が俺の顔を覗き込む。
「ああ……たぶん、な」
手を握る。指は元に戻っていた。
「……最小人間の連中は?」
美咲が外を確認する。
——誰もいなかった。
「消えた……?」
その時、村上が言った。
「彼らは、まだ終わっていませんよ。」
「どういうことだ?」
村上は静かに笑った。
「あなたが元に戻ったのは、一時的なことです。」
「……なに?」
「彼らの計画は、もう"始まっている"のですよ。」
村上は、展示ケースの中を指差した。
そこには、新たに追加された"三つ目の標本"があった。
それは——美咲の顔だった。
「——!?」
美咲が息を呑む。
「どうして……?」
「"次"は、あなたですよ。」
村上の言葉とともに——美咲の体が、縮み始めていた。