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創作都市伝説ヒッチハイク 続「廃車の丘」~失われた記憶と彷徨う悪夢~

あらすじ

翔太と良平は街中で再びジョージ一家の追跡を受け、不気味な館に誘導される。

その館で、一家の象徴である「マモル」が旅人たちの体の部品から作られた存在であることや、館の壁に家族に取り込まれた者たちの苦悶が刻まれていることを知る。

一家は翔太たちを新たな「家族」にしようと迫るが、二人は命がけで脱出を試みる。最終的に館は崩壊し、二人は現実へと戻るが、ジョージ一家の影は完全に消えず、時折感じる口笛や視線が二人の心に恐怖を残す。

登場人物紹介

篠原 翔太(しのはら しょうた)

  • 年齢: 22歳

  • 性格: 冷静沈着で慎重派だが、仲間のために行動力を発揮するタイプ。

  • 容姿: 黒髪の短髪で中肉中背。旅ではアウトドアジャケットを愛用。

  • 特徴: 不可解な出来事に興味を持ち、謎を解こうとする意志が強い。恐怖に直面しても最後には理性を保つ。


高崎 良平(たかさき りょうへい)

  • 年齢: 22歳

  • 性格: 明るく社交的でムードメーカー。怖がりだが、いざというときに翔太を助ける。

  • 容姿: 長髪を束ねた爽やかな見た目で、細身ながらバーテンダー経験から力も強い。

  • 特徴: 危険に飛び込む際の大胆さと、恐怖に震える小心さの両面を持つ。


聖ジョージ(せい じょーじ)

  • 年齢: 推定60歳

  • 性格: 狂気と冷静さを併せ持つリーダー的存在。自分の家族を守ることに執着しており、そのためには何でもする。

  • 容姿: テンガロンハットにスーツ姿。火傷の痕が特徴。

  • 特徴: 常に家族のルールを強調し、歪んだ愛情を振りかざす。


聖ジョセフィーヌ(せい じょせふぃーぬ)

  • 年齢: 推定70歳

  • 性格: 病的な愛情で家族を包み込むが、その実態は支配的で狂気的。

  • 容姿: 白いワンピースに厚化粧の老婆。異様に長い指が特徴。

  • 特徴: 不気味な笑顔を浮かべながら、旅人たちを「家族」に迎え入れようとする。


赤と青(あか と あお)

  • 年齢: 推定40代

  • 性格: 無口で忠実。ジョージとジョセフィーヌに絶対的な従属を誓っている。

  • 容姿: 完全に同じ顔と服装をした双子。赤ら顔が「赤」、青白い顔が「青」。

  • 特徴: 完全にシンクロした動きで不気味な印象を与える。


マモル

  • 正体: ジョージ一家の象徴ともいえる存在。旅人たちの体の部品を集めて作られた異形の存在。

  • 性格: 純粋で子供のような言動を見せるが、その裏には圧倒的な威圧感を秘めている。

  • 容姿: 異様に膨れた顔、低い位置にある目、太い指が特徴。体には無数の縫い目があり、人間のパーツが繋ぎ合わされている。

  • 特徴: ジョセフィーヌの「愛情」の象徴であり、家族の究極の形とされているが、その姿は恐怖そのもの。

創作都市ヒッチハイク 続「廃車の丘」~失われた記憶と彷徨う悪夢~

第七章: 逃れられない足音

街中を全力で駆け抜け、人気の少ない路地に飛び込んだとき、ようやく俺たちは足を止めた。
息を切らし、鼓動が耳鳴りのように響いている。

「…追ってきてるのか?」

良平が不安げに背後を振り返る。

だが、そこにジョージやテンガロンハットをかぶった影はなかった。

「いない。だけど…何かおかしい。」

俺は胸騒ぎが止まらなかった。

さっきの口笛のような音楽が耳にこびりついて離れない。

それは街中のあらゆる場所から同時に流れているような感覚すらあった。

「どこに行く?どこに逃げればいい?」

良平の問いに、俺は答えられなかった。

どこに逃げても、あの家族は追ってくる――そんな気がしていた。


警察署での奇妙な応対

「とにかく、警察に行こう。」
俺たちは最後の頼みの綱として、近くの警察署に駆け込んだ。

受付に座る警官は、俺たちの汗だくで青ざめた顔を見て、怪訝な表情を浮かべた。

「どうしたんだ?何か事件に巻き込まれたのか?」
俺たちは昨晩の出来事をできるだけ簡潔に話した。

キャンピングカー、異様な家族、追跡されていること――すべてを伝えたつもりだった。

だが、警官は途中から露骨に面倒くさそうな顔をし始めた。

「うーん、よくわからんが、疲れてるんじゃないか?ヒッチハイク中に変な人に出くわすことはあるだろうけど、それだけの話だろ。」

「違います!あの家族は異常なんです!俺たちの荷物だって…」

「荷物?それなら盗難届けでも出すか?いや、君たち、他に証拠とかあるのか?」

俺たちは言葉を失った。

あのニュース映像に映っていたリュックのことを話しても、信じてもらえるはずがない。

「とにかく、何かあったらまた来てくれ。今日はこれくらいにしとけ。」

警官の冷たい態度に、俺たちはそれ以上何も言えず、警察署を後にした。


不可解な追跡者

警察署を出たあと、俺たちはしばらく無言で歩いた。
街の喧騒が不気味に遠のいていく。

「…無理だな。誰も信じちゃくれない。」
良平がぽつりと呟いた。その肩は震えていた。

「でも、あいつらが俺たちを追ってるのは間違いない。それだけは確かだ。」

俺も頷いた。

あの家族の目、笑い声、キャンピングカーの不気味な存在感――すべてが現実離れしていた。
だが、それを誰にどう説明すればいいのか見当もつかない。

その時だった。
通りの向こう、アーケードの陰にテンガロンハットをかぶった影が見えた。

「ジョージだ!」
良平が声を上げる。

俺たちは反射的に走り出した。
だが、角を曲がるとまた別の影が立っていた。
赤と青の双子だ。同じポーズで俺たちをじっと見つめている。

「おい、嘘だろ…どうやってここまで…」

良平が声を震わせる。俺は背中を冷たい汗が流れるのを感じた。

周囲を見回すと、ジョージ、双子、そして白いワンピースを着たジョセフィーヌ――一家全員が、いつの間にか俺たちを取り囲んでいた。


口笛の真相

「家族は離れるべきじゃない。」

ジョージが低い声で言う。その目は鋭く光り、俺たちを逃がさないという意思を感じさせた。

「待ってくれ!俺たちは何も知らない!ただの旅人だ!」

俺は叫んだが、ジョセフィーヌが口元を歪めて笑った。

「いいえ、あなたたちは家族になれるわ。」

その言葉に、全身に鳥肌が立った。
ジョセフィーヌの声がどこか異様に響き、周囲の空気を歪ませているように感じた。

その時、遠くからまた口笛が聞こえてきた。
ミッ○ーマ○スのマーチだ。
だが、今度の口笛はジョージたちのものではなかった。
どこか別の場所から響いてくる。

それに反応するように、ジョージたちは一斉に首を巡らせた。

「…来たのね。」
ジョセフィーヌが不気味に微笑む。その目は明らかに怯えていた。


新たな恐怖

「誰が来た…?」
俺が尋ねる間もなく、ジョージたちは姿を消した。
影のようにふっと消えてしまったのだ。

その瞬間、俺たちは気づいた。口笛はすぐ近くから聞こえている。

そして――

振り返ると、そこに立っていたのは「マモル」だった。

異様に膨れ上がった顔、低い位置についた目、異形の存在。だが、そこには人間のような温かみは一切感じられなかった。

「マーマ!」

マモルが叫んだ。
次の瞬間、周囲の空気が一変し、街全体が闇に包まれていった――。


第八章: 闇に閉ざされた街

マモルの叫び声が響き渡ると同時に、周囲の明かりが一斉に消え、街全体が闇に包まれた。

「な、なんだよこれ…!」

良平が声を震わせる。俺も辺りを見回したが、先ほどまでいた人々の姿は消え、街灯すらも光を失っていた。
ただ、異様な静寂だけがそこにあった。

「…どうなってるんだ?」
遠くからまた口笛が聞こえる。

ミッ○ーマ○スのマーチ――しかし、それは歪み、音が低く引き伸ばされているように感じた。

「翔太、来るぞ!」

良平が叫び、俺もすぐに気づいた。

暗闇の中でぼんやりと浮かび上がるいくつもの影――それは、ジョージたち一家だった。


暗闇の中の追跡

「逃げるぞ!」

俺たちはとにかくその場を離れようと走り出した。

足元はまるで底なしの沼に足を取られるような感覚がし、何度もつまずきそうになる。それでも俺たちは必死だった。

背後からは足音が迫ってくる。ジョージや双子たちの笑い声が闇の中に響く。

そして――

「マーマ!」
マモルの声が再び轟いた。

それは単なる叫びではなく、空気そのものを震わせるような音圧を伴っていた。

「こっちだ!」
良平が手を引いてくれる。

その方向に走ると、暗闇の中に小さな明かりが見えた。


不気味な館

明かりの正体は、古びた洋館だった。
まるで廃墟のようなその建物は、不気味なほど静まり返っていた
。だが、それ以外に逃げ込める場所はない。

「入るぞ!」

俺たちは玄関の扉を開け、館の中に飛び込んだ。

中は驚くほど広いホールだった。壁には古い肖像画が掛けられ、天井からは巨大なシャンデリアがぶら下がっている。
だが、どれも埃をかぶり、時間が止まったような空気を漂わせていた。

「…ここ、何なんだよ。」
良平が呟く。

俺も息を整えながら周囲を見渡したが、この館の正体が何なのかはわからなかった。

その時、背後で扉が閉まる音がした。

「来たのか…?」
恐る恐る振り返ると、そこにはジョージたちの姿はなかった。

だが、代わりに、どこかで見覚えのある「家族写真」が掛けられているのに気づいた。


家族写真の秘密

写真の中にはジョージ、ジョセフィーヌ、双子の赤と青、そしてマモルが写っていた。

全員が同じポーズで無表情にカメラを見つめている。

「これ…あいつらの…?」

良平が顔を近づける。
その瞬間、写真の中のマモルの顔が動いた。

「なっ…動いたぞ!」
俺たちは思わず後ずさる。

その時、館全体が不気味な振動を伴って揺れ始めた。

遠くから口笛の音が聞こえる。

それは徐々に近づき、まるでこの館全体を支配しているかのようだった。


謎の部屋への誘導

「ここから出ないとヤバい。」

良平が言い、俺も同意した。だが、玄関の扉は固く閉ざされていた。

それどころか、窓にも鉄格子のようなものが現れ、完全に閉じ込められてしまった。

「どうする…?」

その時、2階への階段がまるで誘導するように明るく照らされた。

「行くしかないだろ。」

俺たちは覚悟を決めて階段を駆け上がった。

途中、再び館全体が揺れ、壁のあちこちに亀裂が入る。

やがてたどり着いたのは、古びた扉だった。
その扉には、「家族の間」と書かれたプレートが掛けられている。

「…開けるのか?」

良平が躊躇する。俺も手を伸ばしかけたが、その瞬間、中から「マーマ!」という声が響き渡った。

俺たちは恐怖を押し殺し、扉を開けた――。


家族の間の真相

中にあったのは、小さな部屋だった。
だが、壁にはびっしりと写真が貼られていた。
そのどれもが異様な光景を写している。

「これ…ヒッチハイクの人間たちか?」

良平が写真を指差す。写真にはジョージたちと一緒に写る、どこかで見覚えのある旅人たちの姿があった。

「ここで何が…。」


その時、部屋の奥から物音がした。
振り向くと、暗闇の中からゆっくりとマモルが姿を現した。

「マーマ…お迎えに来たよ。」

その声と共に、マモルの背後にジョージたちが現れる。

「家族になれる日が来たね。」
ジョセフィーヌが不気味な笑顔でそう言った。

俺たちは完全に追い詰められていた――。


第九章: 家族の選択

部屋の中にジョージたち一家が揃った瞬間、空気が変わった。
そこにいるだけで、全身を締め付けられるような重圧感が襲いかかってくる。

「家族になろう、君たちも。」

ジョセフィーヌが白い歯を見せて笑う。
その笑顔には、どこか冷たさと狂気が宿っていた。

「ふざけるな!」

良平が叫ぶ。震える手を握りしめ、ジョージたちに一歩踏み出そうとするが、彼の足は床に吸い付くように動かない。

「逃げられると思うかい?」

ジョージが静かに言う。

その声は妙に心に響き、抗う力を削ぎ取っていくようだった。

「家族に迎えられるのは光栄なことだよ。お前たちの旅は、ここで終わりだ。」

ジョージが指を鳴らすと、部屋の壁に貼られていた写真が一斉に剥がれ落ちた。

その裏に現れたのは無数の顔――歪み、叫び、苦悶の表情を浮かべた人々の顔が壁そのものに刻まれていた。

「こ…これ、なんだよ…」
俺は息を呑んだ。

壁に埋め込まれた顔は、まるで生きているかのように動き、低いうめき声をあげている。

「家族だよ。」

ジョセフィーヌが楽しそうに言う。

「ここに来た人たちはみんな、私たちの家族になったの。そして、お前たちも。」


マモルの正体

「いやだ!俺たちはここを出る!」

良平が叫び、床に固定されたような足を力いっぱい動かそうとした。
しかし、その時、マモルがゆっくりと前に出てきた。

「マーマ…マモルがいるから、大丈夫だよね。」

マモルの言葉にジョセフィーヌは微笑むと、俺たちに視線を向けた。

「マモルを見てごらんなさい。彼は愛されているわ。家族の絆で守られているの。」

俺はマモルの異様な体つきを改めて見た。

膨れ上がった顔、低い位置にある目、異様に太い指――その姿は人間というより何か別の存在に見えた。

だが、さらに目を凝らすと、その体には無数の傷跡や縫い目があることに気づいた。

「これ…パーツが…」

言葉にならない。マモルの体は、人間の体の部位をつなぎ合わせて作られたものだった。

「そうよ。」

ジョセフィーヌが嬉しそうに言う。

「マモルは私たちの家族の証。愛を形にした存在なの。」

良平が顔を引きつらせながら叫んだ。

「そんなの、愛でもなんでもない!狂ってる!」


家族からの逃走

ジョージが静かに笑いながら一歩前に出た。

「家族に拒絶は許されない。お前たちも、すぐに理解するさ。」

その言葉に俺たちは限界だった。
「良平、行くぞ!」

俺は力任せに良平を引っ張り、部屋の出口へと走った。

壁に埋め込まれた顔が叫び声を上げ、ジョージたちが後ろから追ってくる。

マモルの体が動くたびに床が震え、壁からは黒い液体が滴り落ちてくる。

「出口はどこだ!」

「知らねえよ!でもとにかく外だ
!」
俺たちは暗い廊下をひたすら走り続けた。


館の崩壊

突如、館全体が大きく揺れた。
天井からは瓦礫が落ち、足元が崩れ始める。

「早く!急げ!」
廊下の先に、一筋の光が見えた。

俺たちはそこに向かって全力で駆け出した。

背後ではジョージたちの声や足音がどんどん近づいてくる。

「ここで終わりだ!」

ジョージの叫びが響いた瞬間、俺たちは光の中に飛び込んだ――。


森の出口

気がつくと、俺たちは森の中に立っていた。
朝日が木々の間から差し込み、現実に戻ったかのような感覚を覚えた。

「……助かったのか?」

良平が震える声で呟く。俺はその場に座り込み、息を整えながら答えた。

「わからない。でも…今は安全だ。」

背後を振り返ると、あの館もジョージたちの姿も消えていた

。ただ静かな森が広がっているだけだった。


消えない影

その後、俺たちはなんとか街まで戻り、旅を終えることにした。

だが、日常に戻ったはずの生活の中で、俺はたびたび感じるのだ。
背後に感じる視線、遠くで響く口笛の音――

あの家族は消えたわけではない。いつかまた、俺たちの前に現れるかもしれないという恐怖だけが、今も俺たちの心に影を落としている。

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