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現代版 妖怪青坊主

青き影の囁き

夜が更け、静寂が街を包む頃、私は再びあの夢に引き込まれた。
薄暗い山道の先、霧の中に立つ何者かの姿がぼんやりと見える。
ゆっくりとその者が近づいてくるにつれて、青白い顔が浮かび上がった。
見覚えがある。
夢の中で何度も現れた、あの妖怪「青坊主」だ。

「首を吊らんか?」

青坊主はおぞましい囁きを繰り返しながら、私に向かって手を差し伸べる。その声は冷たく、骨の髄まで響き渡るようなものだった。
私は咄嗟に目を背けた。返事をすれば、それが運命の始まりだと知っていたからだ。
しかし、青坊主の囁きを無視した瞬間、冷たい手が私の喉に絡みつき、暗闇が私を飲み込もうとする――そこで目が覚めた。

目覚めても、夢の影は消えない。
部屋の隅に青白い影が残っているような気がして、胸が苦しくなる。
私はこの夢を一度経験しただけではなかった。
最初は単なる悪夢だと思っていたが、繰り返すうちに何かが違うことに気づいた。
青坊主の囁きを聞くたびに、何かが私の中で変わり始めていたのだ。

翌朝、友人の沙耶に夢のことを話すと、彼女は笑い飛ばした。「ただの怖い話じゃない。それに夢なんて、現実に影響なんてないわよ」と言って、青坊主の話題を軽く流した。
だが、その夜、沙耶も同じ夢を見たのだという。
彼女は驚きと恐怖を隠せず、私に何度も確認してきた。

「あなた、本当にあの夢を見たの?青坊主が囁いてきたの?」

それから沙耶の様子は日に日におかしくなっていった。
初めは軽い不眠症のようだったが、やがて夜ごとに青坊主が現れ、夢と現実の境が曖昧になっていく。
彼女は次第に人と会うことを避け、青白い影が常に彼女の背後に立っているかのように怯え続けた。

「青坊主の話を聞いた者に怪異が伝染する――そういう呪いなのよ」

そう呟いたのは、沙耶の友人であり、オカルト研究家の高木だった。
彼はこの手の怪異には詳しく、「青坊主の囁き」が人から人へと伝わる特殊な力を持つ存在であることを私に教えてくれた。

そして、それを無視し続ければ、やがて精神が蝕まれ、現実と夢が融合してしまうのだという。

「逃れるにはどうすればいい?」私は高木に食い下がった。

「唯一の方法は、青坊主の囁きを無視し続けることだ。しかし、それは簡単なことではない。青坊主は、逃げれば逃げるほど深く取り憑く。囁きを拒むことで、奴の力は強まっていくからだ。」

私たちは次第に青坊主の呪いに巻き込まれた。
誰もが青白い影に怯え、夢と現実の区別がつかなくなりつつあった。
私自身も夜毎に青坊主が現れる度に、その手が次第に強く喉元を締め付けていくのを感じていた。
呼吸ができなくなり、目を覚ましてもその圧力は消えない。現実にまで、影が忍び寄っていたのだ。

最後の手段として、私たちは青坊主の伝承に詳しいという老神主を訪ねた。

彼はこの呪いを解く術があると言い、古い祠に案内してくれた。
青坊主を封じるための儀式が必要だという。
私たちは指示に従い、必死で儀式を行った。だが、その最中、何かが起こった。

突然、沙耶が奇妙な声で囁き始めた。
「首を吊らんか?」その声はまるで青坊主自身が彼女を通じて話しているかのようだった。
私たちは凍りつき、彼女の周りに青白い影が立ち込めるのを目撃した。

沙耶が青坊主に取り込まれようとしていた。
私はその光景に耐えられず、彼女に向かって叫んだ。

「沙耶、戻ってこい!」しかし、彼女の表情は虚ろで、私の声が届いていないようだった。

最後に、青坊主が完全に彼女の体を支配する直前、私は儀式の最後の段階を完了させた。
青い霧が祠全体を包み込み、沙耶の体から青坊主の影が消え去った。
だが、彼女は倒れたまま動かなかった。

生気を失った彼女の顔に、青坊主の囁きの名残が漂っているかのようだった。

それ以来、私は青坊主の呪いを恐れている。
話すことさえ、誰かに伝染させる危険があると知っているからだ。
沙耶は今も意識が戻らないまま、病院のベッドで眠っている。

私は再び夢に引き戻されることを恐れ、誰にもこの話を伝えないようにしている。

だが、青坊主は囁き続ける。

「首を吊らんか?」


この話が、残っていること、つまりは青坊主の犠牲者が残した首吊りの伝染は、今もこの日本のどこかで起きている。

今からでも、スマートフォンが鳴り、内容は、家族や知人から夢で青坊主に
「首を吊らんか!」と言われたと、無理やり聞かされる可能があります。

くれぐれも用心いただきますようお願いいたします。



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