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現代版 死体蝋燭 『人蝋(じんろう) -燈(とも)る肉の記憶-』
あらすじ
大学生の**三雲悠真(みくも ゆうま)**は、卒業論文のために「現代日本における怪異伝承」をテーマに調査を進めていた。
その一環で、彼は「人間の脂肪で作られた蝋燭が存在する」という都市伝説に行き当たる。
そんな折、悠真の友人で都市伝説マニアの**神崎蓮(かんざき れん)**が、「郊外の廃寺で“人蝋”を見た」と言い出す。
興味を持った悠真は、蓮とともにその廃寺へ向かうことにする。
しかし、そこで彼らは奇妙な「異臭」に包まれた蝋燭を見つける。
同じ頃、東京では連続失踪事件が発生していた。
被害者は全員、特定のオンライン掲示板で「闇バイト」の募集に応募していたという。
悠真は調査を進めるうちに、この廃寺と事件に関連があることを突き止めるが、すでに彼らの身には恐るべき影が忍び寄っていた。
果たして、蝋燭に込められた“肉の記憶”とは何なのか? 闇に埋もれた秘密を暴くうちに、悠真たちは想像を絶する恐怖と対峙することになる――。
登場人物プロフィール
主人公
三雲 悠真(みくも ゆうま)
年齢:22歳(大学4年生)
性別:男性
身長/体重:176cm / 63kg
容姿:
黒髪ショートで少しぼさぼさ
切れ長の目で目つきが鋭いが、普段は穏やか
細身で神経質そうな雰囲気
黒のジャケット+ジーンズが基本スタイル
性格:
冷静で理知的、基本的に理屈っぽい
怪異は「科学的に説明できるもの」と考えている
しかし、幼少期の「不可解な体験」により、心のどこかでオカルトを恐れている
口癖:
「論理的に考えれば…」
「証拠がなければ、ただの噂話だろ?」
特技:
調査能力が高く、情報を集めるのが得意
ピッキング(中学生の頃、興味本位で覚えた)
過去のトラウマ:
10歳の時、夜中に母親の部屋を覗いたら「母親の顔をした別の何か」が笑っていた
その日から、母は精神を病み、数年後に失踪
準主人公 / キーパーソン
神崎 蓮(かんざき れん)
年齢:22歳(大学4年生 / 悠真の友人)
性別:男性
身長/体重:173cm / 58kg
容姿:
明るい茶髪、無造作ヘア
パーカー+ダメージデニム+スニーカーのカジュアルスタイル
どこか中性的な顔立ちで、笑顔が特徴的
性格:
都市伝説オタクで好奇心旺盛
怖いもの見たさで危険な場所にも突っ込むタイプ
だが実は、「本物の怪異」に触れたことがあり、それを確かめたくて調査を続けている
口癖:
「なぁ、これヤバくね?」
「お前、本当は怖がってるんだろ?」(悠真をからかうとき)
特技:
SNS調査が得意(裏アカウントや匿名掲示板の分析ができる)
知り合いが多く、情報収集能力が高い
秘密:
15歳の時、「人蝋」の儀式を目撃し、それ以来“何か”につけられている
だからこそ「都市伝説の真相」を暴くことに執着している
ヒロイン / 事件の鍵を握る人物
葛西 美琴(かさい みこと)
年齢:26歳(フリーライター / 事件を追うジャーナリスト)
性別:女性
身長/体重:165cm / 50kg
容姿:
ストレートの黒髪ロング、やや青白い肌
スーツやタートルネック+ロングコートが基本スタイル
黒縁メガネ(だが視力は良い)
性格:
冷静沈着で淡々としている
幽霊や怪異をまったく信じていないリアリスト
しかし、失踪事件には強い執念を燃やしている
口癖:
「証拠がなければ、それはただの“噂”よ」
「信じるかどうかは、事実が決めること」
特技:
取材力が高く、警察関係者ともコネがある
かつて剣道をやっており、護身術が使える
秘密:
5年前、妹が突然失踪し、以来ずっと行方不明
その事件が「人蝋」と関係していると疑っている
事件の黒幕
橘 透也(たちばな とうや)
年齢:40歳(蝋燭工場の経営者 / 人蝋の研究者)
性別:男性
身長/体重:180cm / 72kg
容姿:
短髪で端正な顔立ち、いつも白衣を着ている
物腰が柔らかく、まるで聖職者のような雰囲気
だが、目の奥には冷たい狂気を宿している
性格:
落ち着いていて知的、常に紳士的
しかし、人間を「研究対象」としか見ていない
「恐怖の中にある美しさ」を追求している
口癖:
「炎には記憶がある。君も、灯ってみるかい?」
「人はみな、燃えるために生まれてくるんだよ」
特技:
化学に精通し、「特殊な蝋」を作る技術を持つ
相手の心理を操る話術に長けている
秘密:
彼の作る「人蝋」は、ただの脂肪ではなく、燃やすことで“記憶”を蘇らせるもの
それを使い、「死者の意識を蝋燭の炎に宿す儀式」を完成させようとしている
物語のホラー要素を強めるための人物
謎の少女(「人蝋の儀式」に関連)
年齢:10歳前後(幽霊のように現れる)
容姿:
白いワンピースを着た長髪の少女
目の焦点が合っていない
右手に常に蝋燭を持っている
口癖:
「……灯して……」
「忘れないで……わたしを……」
正体:
かつて「人蝋」の犠牲になった少女の霊
彼女の記憶が封じられた蝋燭を燃やすことで、物語の真実が明らかになる
キャラクターの役割
悠真(主人公):真相を暴く役割
蓮(親友):事件に巻き込まれ、“儀式”の犠牲者となる可能性
美琴(記者):事件の真相を知る鍵を握る人物
透也(黒幕):「人蝋」に取り憑かれた狂気の人物
少女(ホラー要素):物語の最も重要な謎
現代版 死体蝋燭 『人蝋(じんろう) -燈(とも)る肉の記憶-』
一人称視点(主人公・三雲悠真)
第一章:闇に燈る蝋燭
俺がその蝋燭を見つけたのは、都市伝説好きの友人・神崎蓮に半ば強引に誘われて訪れた、郊外の廃寺だった。
「なぁ、悠真。この話、ヤバくね?」
蓮はスマホの画面を見せながら、興奮気味に言った。
そこには匿名掲示板のスレッドが表示されている。
――『人蝋』って知ってる? 人間の脂肪で作られた蝋燭らしいんだけど、これって本当なの?
その書き込みには、添付された画像があった。
小さな仏壇の前に立つ一本の蝋燭。普通の蝋燭と変わらないように見えるが、どこか不自然に黄色がかっている。
何よりも、その蝋燭が灯す炎は、不気味なほど赤黒かった。
「……加工されてるんじゃねぇの?」
俺は眉をひそめながら言った。
ネットには都市伝説を面白がって拡散する連中が多い。画像の加工なんて珍しくもない。
「いや、それがさ、この投稿者、昨日から消息不明なんだよ」
蓮の指が画面をスクロールする。
スレッドの住人たちは、最初は「嘘松乙」などと馬鹿にしていたが、投稿者が「廃寺で見つけた」と言った翌日から、一切の返信をしなくなった。
それどころか、アカウントそのものが削除されている。
「行方不明? ただの偶然だろ。」
「いや、でもさ、ここ見てみろよ。」
蓮が別の投稿を開いた。
そこには、似たような「人蝋」に関する書き込みがいくつもあった。
そのどれもが、「見つけた」と報告した直後に音信不通になっている。
まさか、そんなことがあるはずがない――そう思いながらも、俺は妙な不安を感じた。
「それで、お前、何が言いたいんだ?」
「決まってんだろ。この廃寺に行って、確かめるんだよ!」
「……は?」
「もしかしたら、ガチのオカルトかもしれないし、ヤバい事件が絡んでるかもしれない。どっちにしても、面白そうだろ?」
蓮は目を輝かせて言った。
こういう時のこいつは本当に厄介だ。
何かに興味を持ったら、必ず突っ込んでいく。
「俺は降りる。」
「はぁ? お前、卒論で『現代怪異伝承』とか調べてるんだろ? 最高のネタじゃねぇか。」
確かに、俺は卒論のために都市伝説を調べていた。
でも、実際に危険な場所へ足を踏み入れる気はなかった。
「……そもそも、その廃寺ってどこにあるんだよ。」
「ここのことらしい。」
蓮がスマホのマップを開く。
そこには、郊外の山奥にある廃寺の場所がピンで示されていた。
名前は『光泉寺』。
聞いたことがない寺だった。
「やっぱ、行くしかねぇだろ?」
蓮はニヤリと笑った。
第二章:廃寺の灯火
結局、俺たちはその夜、光泉寺へ向かうことになった。
寺へ続く道は、ほとんど廃道と化していた。
街灯もなく、俺たちの懐中電灯だけが頼りだ。
「……本当に、こんなとこに寺があるのかよ。」
「マップではここにあるはずだけどな。」
蓮がスマホの画面を確認しながら言う。
その時――異様な臭いが鼻を突いた。
「うっ……。」
腐った肉のような、生臭い匂い。
それが風に乗って漂ってくる。
「おい、蓮……この臭い、何だ?」
「……わからん。」
蓮も眉をしかめる。
嫌な予感がする。
俺たちは慎重に足を進めた。
やがて、木々の間から、黒ずんだ瓦屋根が見えてきた。
「……あったな。」
廃寺――光泉寺は、静かにそこに佇んでいた。
境内には苔むした石灯籠が並び、建物の木材はボロボロに朽ちている。人気はない。
だが――
「……明かりがついてる?」
本堂の奥から、かすかに揺れる光が漏れていた。
「誰かいるのか?」
俺は息をのんだ。
「行ってみようぜ。」
「おい、ちょっと待てよ……。」
しかし、蓮はためらうことなく本堂の扉を押し開けた。
中は意外にも荒れていなかった。
畳は朽ちかけていたが、壁にはまだ仏画が残っている。
しかし、それよりも異様だったのは――中央の仏壇に置かれた蝋燭だった。
それは、まるで生きているかのように燃えていた。
「これが……人蝋?」
蓮がつぶやく。
俺も息をのんだ。その炎は、普通の蝋燭と違い、どこか濃密な赤黒い色をしていた。
そして、その蝋燭から立ち上る煙には――
人の顔が浮かび上がっていた。
「……っ!」
俺は思わず後ずさった。
「悠真、お前、今の見たか?」
「見た……いや、ありえない。ありえないだろ、こんなこと……!」
だが、次の瞬間。
背後から、足音が聞こえた。
俺たちは同時に振り返った――。
第三章:燃える匂いの秘密
「……誰か、いるのか?」
俺は喉の奥が張りつくような緊張を覚えながら、そっと振り返った。
本堂の暗がりから、ゆっくりと何かが現れる。
――黒い法衣をまとった男。
歳は五十代後半だろうか。
痩せた顔に彫りの深い皺が刻まれ、目の奥には何か異様な光を宿していた。
「ようこそ。」
男は淡々とした口調で言った。
この状況で歓迎される筋合いはない。
俺は蓮と顔を見合わせた。
「ここ、寺だよな? 住職か何かですか?」
蓮が尋ねると、男はゆっくりと首を振った。
「私は、満願(まんがん)。……君たちに興味があってね。」
その名前を聞いた瞬間、俺の背筋が凍りついた。
満願――それは、掲示板の書き込みの中にあった名前だった。
《“満願”という名の人物が人蝋を作っているらしい。あいつに狙われたら終わりだ》
「おい、蓮……。」
俺が警戒の色を強めると、蓮もやっと事の重大さに気づいたのか、顔をこわばらせた。
「いや……俺たち、別に何もしてないっすよ。ただの肝試しみたいなもんで――。」
「ふふ……知っているよ。君たちは『人蝋』の噂を追ってここに来たのだろう?」
男は静かに蝋燭の炎を見つめながら言った。
「だとしたら、良い機会だ。この蝋燭に火を灯しながら話そうか?」
俺は即座に後ずさった。
いやだ。
あの炎の匂いを、長く嗅いでいたくない。
人間の脂肪が燃える匂い――それがどんなものか、俺は知っている。
10歳の時に見た、あの光景。
母の姿をした何かが、俺の前で微笑みながら線香を灯したときの、あの臭い――。
第四章:人蝋の愛好者たち
「……『人蝋』を知っているか?」
満願は静かに語り始めた。
「これはな、何百年も前から限られた者たちの間で受け継がれてきた文化だ。お前たちは、火葬場の煙を嗅いだことがあるか?」
俺も蓮も答えなかった。
「葬式関係者の中にはな……その匂いに魅せられる者がいる。人間が焼かれる匂いに、陶酔する連中がな。」
満願の目が、蝋燭の炎に反射して鈍く光った。
「……そんな奴がいるわけねぇだろ」
俺がそう言いかけた時、満願は口元を歪めた。
「君は知らないだけだよ。」
ゆっくりと、男は懐から一本の蝋燭を取り出した。
「これは、昨日の材料だ」
蝋燭の表面には、うっすらと何かの筋が見えた。……それが何か、俺は考えたくなかった。
「我々は“人蝋”をただ作っているわけではない。この香りを愛する者たちのために、特別な蝋燭を提供している。」
満願の口元が、笑みを刻んだ。
「……君たちは、『妖怪結社』という言葉を聞いたことがあるか?」
第五章:妖怪結社の闇
俺は知らなかった。
だが、蓮は知っていたようだった。
「……まさか、それマジで言ってんのか?」
蓮の声が震えた。
「妖怪結社――本当に存在してるってのか……。」
俺は初めて聞く単語だった。
「何だ、それ?」
「……都市伝説だよ。闇社会で、『人間の悪意を商品に変える』って言われてる組織がある。殺人依頼、違法な臓器売買、拉致……それだけじゃない。倫理観を完全に捨てた快楽を提供する連中がいるって話だ。」
「そんなものが……。」
「ふふ……」
満願は喉の奥で笑った。
「君は、私がただの都市伝説だと思っているのか? それとも――。」
満願は指を鳴らした。
次の瞬間、本堂の奥の扉がゆっくりと開いた。
「……っ!」
中から出てきたのは、白衣を着た男たちだった。
だが、その手には――
ナイフと、鋭利な刃物。
「さて、君たちに選択肢を与えよう。」
満願は落ち着いた声で言った。
「一つ目は、我々の仲間になることだ。人蝋の作り方を学び、その香りの素晴らしさを理解する。」
「……ふざけんな。」
「二つ目は、君たち自身が蝋燭の材料になることだ。」
俺は、息を呑んだ。
「……三つ目は?」
蓮が震えながら言った。
「三つ目?」
満願は微笑んだ。
「それはない。」
その言葉を聞いた瞬間、俺は背筋に走る冷たい感覚を覚えた。
ここにいる限り――俺たちに、生きて帰る道はない。
第六章:脱出
――逃げるしかない。
蓮と俺は目配せし、同時に動いた。
「おい!」
白衣の男たちがナイフを振りかざす。
俺たちは本堂の脇から廊下に飛び出した。
「こっち!」
蓮が叫びながら、裏口へと走る。
だが――
そこには、暗闇の中から、もう一人の男が立っていた。
彼の顔は、血まみれだった。
「お前も、灯るんだよ……」
その言葉とともに、闇が襲いかかる――。
第六章:脱出
「お前も、灯るんだよ……」
血まみれの男の顔は異様に青白く、暗がりに浮かび上がった。
血管が浮き出た肌、虚ろな瞳――まるで死人のようだった。
いや、違う。こいつは生きている。
だが、その顔には「人間らしい理性」が一切なかった。
「っ……悠真!」
蓮が俺の腕を引く。
男の足元には、転がる何かがあった。
それを認識した瞬間、胃の奥から嫌なものがこみ上げる。
――人間の腕だった。
まだ乾ききっていない血がべっとりと床に広がっている。
「……くそっ!」
俺たちは本能的に駆け出した。
「待て!」
背後から満願の声が響く。
同時に、白衣の男たちが本堂の扉から飛び出してくるのが見えた。
足元の畳が軋む音。狭い廊下を全速力で駆け抜け、俺たちは裏口へと向かう。
――開かない。
「っ、クソが!」
蓮が扉を蹴飛ばすが、びくともしない。外側から鍵がかけられている。
後ろでは、足音がどんどん近づいてくる。
「悠真、開けろ!」
「無理だ! 鍵が――。」
「開けろって言ってんだろ!」
蓮が突然俺を押しのけ、ポケットから何かを取り出す。
――ピッキングツール。
「お前、それ……。」
「昔ちょっとな! 今はそんなことどうでもいい!」
カチリ――
重い音とともに、錆びた扉が軋みを上げて開いた。
俺たちはすぐさま外へ飛び出した。
第七章:闇の市場
「こっちだ!」
蓮が裏手の森へと走る。
だが、背後からは追手の気配が消えない。
「くそっ、どこに逃げれば――。」
そこで俺は、奇妙なものを見つけた。
廃寺の裏手に、小さな建物があった。
倉庫か何かか?
だが、そこから漏れる光は、廃寺の中の蝋燭と同じく、赤黒かった。
「悠真、何やってんだよ!」
蓮が振り返る。
「……ここ、ただの廃寺じゃない」
俺はその扉に手をかけた。
開く――
そこに広がっていたのは、異様な光景だった。
木の棚には無数の蝋燭が並べられていた。その一本一本が、どこか生々しい色合いをしている。
そして――壁には、額縁に収められた写真があった。
「……なにこれ……?」
写真には、一人の男が写っていた。
男の背後には、巨大な窯が映っている。
そして、その中に横たわるのは……
人間の死体。
その男は笑っていた。
写真の下には、古びた紙片が貼られていた。
そこにはこう書かれていた。
『人蝋師・満願』
第八章:人蝋師・満願の儀式
「お前ら、見つけたな。」
その声が響いた瞬間、俺は血の気が引いた。
満願が背後に立っていた。
「君たちは、選ばれたんだよ。」
満願は静かに言った。
「これは、人間の欲望の行き着く先だ。私はただ、それを形にしているに過ぎない。」
「……ふざけんなよ……!」
蓮が震えながら叫ぶ。
「お前……これを全部……。」
「そうだ。毎晩、新しい材料を迎え入れている。」
満願は優雅に手を広げる。
「この世には、数えきれないほどの**『匂いの愛好者』**がいる。だが、彼らは本当の香りを知らない。私はその欲求を満たしてやっているだけだ。」
「……そんなもん、ただの狂気だろ。」
「そうかもしれないな。」
満願は微笑んだ。
「だが、彼らは満足している。それが、すべてだ」
その時だった。
どこからか、小さな声が聞こえた。
「……たすけて……。」
俺はギョッとした。
本棚の奥――小さな扉の向こうから、かすかな声がした。
「……誰かいるのか?」
俺は迷わず、扉を蹴破った。
そこにいたのは――
蓮だった。
「え?」
俺は目を疑った。
なぜ、ここに蓮がいる? さっきまで俺の隣にいたはずなのに――
「悠真……助けて……。」
蓮の顔は青ざめ、服は血に染まっていた。
「な、なんで……?」
俺は背後を振り返る。
すると――
俺の隣にいた『蓮』が、ニヤリと笑った。
「お前はもう、灯ってるんだよ!」
第九章:蝋燭に宿る記憶
俺の全身が総毛立つ。
何かがおかしい。
俺の隣にいる『蓮』は、本当に蓮なのか?
そして、扉の向こうにいた蓮は――
どちらが本物なのか?
「くそ……」
頭が混乱する。
「どっちが……」
その時、隣の『蓮』が笑いながら言った。
「悠真、お前は、もう燃えてるよ。」
その瞬間――
俺の体が、赤黒い炎に包まれた。
第十章:最後の灯火
俺の意識は、蝋燭の中に落ちていく。
炎の奥には、無数の顔が揺れていた。
助けを求める者たち。
怨嗟の声を上げる者たち。
そして――
蝋燭の中に閉じ込められた、数えきれない魂たち。
俺は、彼らの記憶を感じていた。
蓮は? 俺は? ここから、出られるのか?
その答えを知る前に――
俺の意識は、炎に溶けていった。
(物語は終わらない――。)