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現代版 海からやってくるモノ 《海哭きの夜》 ――それは、海からの警告だった。

あらすじ(現代版)

IT企業に勤める三浦慎吾(32)は、アウトドア好きな同僚たちに誘われても、海へ行くことだけは頑なに拒む。
ある日、酔った勢いで彼が語ったのは、10年前の恐怖体験だった。

大学時代、慎吾は親友の田嶋優斗、彼の愛犬「ハル」と共に車で日本各地を巡る旅に出た。
冬の寒空の下、偶然たどり着いたのは、地図にも載っていない海辺の集落。ガソリンが尽きかけ、唯一のガソリンスタンドを訪れるが、住人は誰も応じない。
奇妙なのは、どの家の軒先にも「笊(ざる)」が吊るされていたことだった。

その夜、神社の近くに車を停めて眠りについた慎吾たちだったが、突如として愛犬が激しく吠え出す
強烈な磯臭さが漂い、海を見ると、黒いモヤのような「何か」が岸壁から這い上がってくるのが見えた。
それは、まるで巨大な蛇のようにうねりながら、民家の軒先の笊を見つめていた

「見てはいけない。」
直感的にそう思った慎吾は、すぐに車を発進させた。

しかし、田嶋は一瞬、後部座席のハルを心配して振り返ってしまう。次の瞬間、彼は恐怖に顔を歪め、錯乱状態に陥った。

――彼は、何を見たのか?
峠を越えた先の病院で田嶋は一命を取り留めたが、それ以来、精神を病み、行方不明になった。
愛犬ハルも、錯乱状態のまま安楽死させるしかなかった。

慎吾は、海にまつわる恐怖を封印して生きてきた

だが、語ってしまったその夜、スマホに**「海の底からの発信」と表示された着信**が入る。
海は、彼を呼んでいる――。

🌊 登場人物プロフィール 🌊

🟢 主人公:三浦 慎吾(みうら しんご)

📌 年齢: 32歳📌
職業: IT企業のシステムエンジニア
📌 性格: 冷静沈着だが、どこか諦観的。合理主義者を装うが、実は臆病な一面を持つ。
📌 容姿: 身長175cm、痩せ型。黒髪短髪で、無精髭が生えがち。いつも疲れたような目をしている。
📌 口癖: 「まぁ、別にいいけど」「それって理屈に合わなくね?」
📌 特徴:海に異常な恐怖を持ち、海沿いの旅行や水辺のレジャーを全て拒絶する。・だが、その理由を詳しく話すことは避けている。・学生時代は好奇心旺盛だったが、10年前の出来事をきっかけに慎重な性格になった。・人間関係はそつなくこなすが、心の奥底では「いつかまた“あれ”が来る」と感じている。


🟠 田嶋 優斗(たじま ゆうと)【過去の親友/行方不明】

📌 年齢: 22歳(10年前の事件当時)
📌 職業: 大学時代の慎吾の親友(現在は行方不明)
📌 性格: 陽気で社交的、だが好奇心が旺盛で危険を顧みないタイプ。慎吾とは正反対の性格。
📌 容姿: 目鼻立ちがはっきりしたイケメン。髪は明るめの茶髪で、学生時代は派手なファッションを好んでいた。
📌 口癖: 「な?面白そうだろ?」「ビビってんのか?」
📌 特徴:・「何かを見てしまった」ことで、錯乱し、精神を病む。・その後、一時的に回復するが、事件から数年後に突然失踪する。・現在も消息は不明だが、慎吾の元に彼の番号から不可解な着信がかかってくる


🔵 小田 真希(おだ まき)【慎吾の同僚/物語のキーパーソン】

📌 年齢: 29歳
📌 職業: IT企業のプログラマー(慎吾の後輩)
📌 性格: 明るく前向きで、何事にも好奇心旺盛。ホラーやオカルトが大好きで、慎吾の話を面白がる。
📌 容姿: 黒髪のショートカット、メガネをかけている。身長は低め(155cm)。カジュアルな服装が多い。
📌 口癖: 「えっ、めっちゃヤバくない!?」「それ、調べるしかないっしょ!」
📌 特徴:・慎吾が語った「10年前の事件」に興味を持ち、勝手に調査を始める。・慎吾と共に、かつての村を訪れることを提案する。・物語の中盤で「村の秘密」に気づき、慎吾に伝えるが、彼女自身も“何か”に引き込まれていく。


🟣 橋本 圭介(はしもと けいすけ)【慎吾の同僚/リアリスト】

📌 年齢: 34歳
📌 職業: IT企業のプロジェクトリーダー(慎吾の先輩)
📌 性格: 現実主義者で、オカルトや怪談話を一切信じない。慎吾の話にも懐疑的。
📌 容姿: 180cm、筋肉質。スーツがよく似合う。短髪で、常に冷静な表情を崩さない。
📌 口癖: 「そんなの、ありえないだろ」「証拠があるのか?」
📌 特徴:・慎吾と真希の「村への調査」に半ば付き合わされる形で同行する。・「呪い」や「霊的現象」を馬鹿にしていたが、村で理屈では説明できない現象を目撃し、恐怖に飲み込まれていく。・物語終盤で「ある決定的な事実」を知り、恐怖のあまり逃げ出すが……?


🔴 “それ”【海から這い上がるモノ】

📌 正体: 不明。
📌 特徴:・黒い靄のようなものがゆっくりと動きながら村を這い回る。・時折、形を変えながら、蛇のように長く伸びる。・「笊(ざる)」をじっと見つめる習性がある。・“それ”が目を合わせると、人は発狂するか、海へと引きずり込まれる。・「見た者」は、やがて海に呼ばれる運命にある。・慎吾は10年前に「見なかった」ために生き延びたが、真実を語ってしまったことで再び標的になってしまう。

現代版 海からやってくるモノ 《海哭きの夜》

――それは、海からの警告だった。


第1章 封印された記憶

「なあ、三浦ってさ、海嫌いなの?」
橋本がビールを片手に俺を見た。

金曜夜の飲み会、いつもの居酒屋。
気の置けない同僚たちと仕事の愚痴を言い合いながら、気楽に飲むはずの場だったのに、この一言で背筋が冷えた。

「……なんで?」
できるだけ何気なく聞き返したつもりだったが、真希がすかさず突っ込んでくる。

「いや、だって、今年の社員旅行、海沿いの温泉だったのに一人だけ断ったじゃん。去年の夏のBBQもそうだし、海に関するイベント、全部スルーしてるよね?」

「単にインドア派なだけだよ。」

「でも川とか山には行くじゃん。水がダメってわけじゃないでしょ?」

「……別に、特に理由はないよ。」

それ以上は言いたくなかった。
だが、真希は、納得しなかった。
「うそだ。なんかあるでしょ?」

「お前さぁ、そういう詮索するなって。」
橋本が苦笑しながら真希をたしなめた。
彼女は「だって気になるじゃん」と不満げな顔をする。

「三浦って、基本どんな話でも聞き役だけど、海の話だけは完全スルーするんだよね。ほら、せっかくだし、話してよ。」

「別に話すようなことじゃない。」

「じゃあ、逆に言うけど――話せないほどの理由があるってこと?」
その瞬間、喉の奥に苦いものがこみ上げてきた。

俺は真希の顔をまともに見られず、ビールをあおる。
話せるわけがない。話したら、また“それ”がやってくる気がする。

「まあまあ、無理に聞き出すことじゃないだろ。」
橋本が場を収めようとするが、真希はしぶとい。

「じゃあ、さ、怖い話として聞かせてくれたらどう?私、ホラー大好きだからさ。」

「……怖い話?」

「うん、なんかそういうのっぽいし。」

俺は一瞬、迷った。
だが、もしかしたら“話すことで、記憶から切り離せるんじゃないか”という考えが頭をよぎった。
10年。もう十分経った。あれはただの……悪夢だったのかもしれない。

「……わかった。ただし、信じなくていい。」

「え、ほんと!?やった!」

「後悔しても知らないぞ。」

そう言いながら、俺はゆっくりと口を開いた。

10年前の、あの夜のことを――


第2章 10年前の旅

10年前の冬、俺は大学の親友・田嶋優斗と、彼の愛犬「ハル」と共に気ままな車旅をしていた。

後期試験を終えたばかりの俺たちは、卒業旅行という名目で特に目的もなく車を走らせていた。

冬の寒さは厳しかったが、それでも俺たちは楽しんでいた。
道中、温泉に寄ったり、適当に宿を探して泊まったり、文字通りの自由な旅だった。

しかし、旅の数日目、俺たちは奇妙な場所に迷い込んだ。

それは、地図に載っていない海辺の寒村だった。
「おい、ヤバいぞ、ガソリンがほぼ空だ。」

「マジか?こんな山の中で?」
俺たちはとにかくガソリンスタンドを探していた

日は暮れ、周囲は真っ暗。
ようやく小さな村にたどり着き、唯一のガソリンスタンドを見つけたが、そこはすでに閉まっていた

裏手に回ると、どの家の軒先にも**「笊(ざる)」が吊るされている**のが見えた。

「なあ……なんか変じゃね?」

「うん……まるで村全体が何かを避けてるみたいだ。」

俺たちはとりあえず車を停められる場所を探し、神社の鳥居の近くに車を停めた。

夜、俺たちは毛布に包まって眠ろうとしたが、ハルが突然うなり始めた
「おい、ハル、どうした?」

犬は耳を伏せ、低く唸り続けている。嫌な予感がした。

次の瞬間、鼻をつくような強烈な磯の匂いが車内に充満した。
「くっさ……!なんだこれ?」
俺は窓の外を見た。

月明かりの下、海が奇妙なほど静かだった。

そして――
海岸のコンクリートの岸壁から、黒いモヤのようなモノが這い上がってくるのが見えた

「……なんだ、アレ……?」
それは、まるで巨大な蛇のようにうねりながら、ゆっくりと民家の軒先へと近づいていた。

いや――
違う。
“それ”の先端には、人の顔のようなものがあった

俺は息が詰まるのを感じた。
動けない。心臓が凍りつくような感覚。

“それ”は、吊るされた笊をじっと見つめていた
「おい、慎吾……アレ……やばい……。」
田嶋の声が震えていた。

俺は本能的に悟った。
「見たらダメだ」

「車出せっ!!!」
田嶋が叫ぶ。俺は無我夢中でキーを回し、アクセルを踏んだ。

しかし、田嶋は振り返ってしまった

その瞬間――
彼は、絶叫した

「ひィィィッ!!」
目の焦点が合わず、口を大きく開き、身体をガクガクと震わせる。

「おい!何を見た!?」
田嶋は何も答えず、ただ震え、やがて目を見開いたまま気を失った。

後部座席では、ハルが狂ったように吠えた後、喉を詰まらせたような音を立てて倒れた。

俺はただ――
ひたすらに、車を走らせた。

背後で、黒いモノが、ゆっくりとこちらを振り向いた気がした。

第3章 “それ”を見た者

車のエンジン音だけが、静まり返った夜の闇に響いていた。
俺はハンドルを握る手に力を込め、アクセルを踏み続けた。
田嶋は助手席で完全に気を失っていた

後部座席のハルも、先ほどまで狂ったように吠えていたのに、今は静かだった。

「ハル……?」
バックミラーを覗く。
動かない。

嫌な予感がした。
「おい、田嶋……起きろ。」
揺さぶっても、彼はピクリとも動かない。
顔は真っ青で、瞳は半開きのまま焦点が合っていない

「クソッ……!」
とにかく、この場所から離れなければ――。

峠を越えたあたりで、ようやく夜明けが近づいてきた。

俺は車を路肩に停め、改めて田嶋の様子を確認した。
「……田嶋、おい、聞こえるか?」

彼はかすかに唇を動かした。
「……見えた……。」

「何が?」

「……アイツが……こっちを見た……。」
田嶋の声は震えていた。

「何を見たんだ?」

「……言えない……言ったら……アイツが……。」
そこまで言いかけて、彼は再び意識を失った。

俺はそれ以上、何も聞けなかった。

何か、とんでもないモノを見てしまったんだ――。

それだけは、確信していた。


第4章 狂い始めた日常

「それで、田嶋くんはどうなったの?」
真希が興味津々な顔で身を乗り出してきた。

俺は、無言でグラスの中の氷を揺らした。
「……病院に運んだよ。一週間、高熱でうなされ続けた。

「えっ……?原因は?」

「分からない。医者は『ストレスによる一時的な神経衰弱』って言ってたが、俺は違うと思ってる。」

「違うって?」

「アイツは……何かを“見てしまった”んだよ。」

「何を?」

「俺には分からない。だが、アイツはそれ以来――おかしくなった。」
俺は一気にビールを飲み干した。

「田嶋は退院してからも、精神的に不安定だった。
しばらく大学にも来なかったし、会ってもほとんど喋らなかった。
何かに怯えてるような目をしてた。

「……それで?」

「卒業後、奴はしばらく実家にいたらしい。だが、ある日突然、失踪した。

「えっ……?」
真希が息を呑む。

「失踪って……まさか……。」

「警察に捜索願が出されたが、見つからなかった。失踪前、奴はずっとこう言っていたらしい――『海が呼んでる』って。

その言葉を口にした瞬間、背中に氷の刃が突き立てられたような感覚がした。

「まさか……今も行方不明?」

「そうだよ。そもそも、あの村自体が――。」
その時だった。

――ブルルルッ……!
突然、俺のスマホが震えた。

着信画面を見て、心臓が跳ね上がる。

『田嶋 優斗』

「嘘だろ……。」
手が震える。

「どうしたの?」
真希が怪訝そうに俺の顔を覗き込む。

だが、俺は言葉を発することができなかった。
恐る恐る、通話ボタンを押した。

「……もしもし……?」
雑音の向こうで、かすかな声が聞こえた。

「……し……ご……。」

「田嶋か!?」

「……う……み……。」

「何だ!?どこにいる!?」

「……く……る……。」

そして、
――ザザザ……ザザ……
通話は途切れた。

「慎吾……今の、田嶋くん?」
俺は呆然とスマホを見つめた。

田嶋は、消えたはずじゃなかったのか?
「……分からない。」

ただ、一つだけ確かなことがあった。

海は、まだ俺たちを呼んでいる。


第5章 禁じられた村

それから数日間、俺は仕事が手につかなかった。

田嶋からの着信以来、悪夢を見るようになった。
――夜の海。黒いモヤの塊。岸壁を這い上がる何か。
――笊をじっと見つめる無数の目。
――振り向いてしまった田嶋の、引き攣った顔。

何度も目を覚ます。額には冷や汗がにじんでいた。

そして、決定的な出来事が起こったのは、その週の金曜日だった。
「慎吾、ちょっといい?」
真希がスマホを見せてきた。

画面には、一枚の古びた写真が映っていた。
「これ……。」
俺の呼吸が止まった。

それは、10年前に迷い込んだ村の写真だった。

「ネットで調べてたら、これが出てきたの。だけど――。」

「だけど?」

「この村……もう存在してないんだって。」

「……は?」

3年前、津波で跡形もなく消えたらしいの。
俺の背中を冷たいものが走った。

「でも、それっておかしくない?だって慎吾は10年前に行ったんでしょ?」

「……ああ。」

「なのに、村の記録が残ってるのは3年前まで。それ以前の記録は、どこにもないの。」
俺は言葉を失った。

「この村……本当に“存在”してたのかな?」
真希が小さく呟いた。

「……俺たちが行ったあの夜、村はすでに……。」
俺は、ある恐ろしい可能性に気づいてしまった。

10年前のあの村は、“本来”この世界にあるべきものじゃなかったんじゃないか?

そして今――

その扉が、再び開こうとしている。


第6章 再び、海へ

「なあ、慎吾……行ってみない?」

真希がそう言ったとき、俺は全身の毛が逆立つのを感じた。
「……何?」

「だから、例の村。まだ海に沈んだままだとしたら、跡地くらいは見に行けるんじゃない?」

「ふざけるな!」
即答した。

二度と戻りたくなかった。
あの夜のことを思い出すだけで、喉の奥が締めつけられる。

「でもさ、慎吾はずっとモヤモヤしてたんでしょ?田嶋くんのことも、あの“何か”のことも。確かめるチャンスじゃん。」

「知る必要なんかないんだよ。」

「でも、もう“向こう”から接触してきてるじゃん?」

そう言って、真希はスマホの画面を俺の目の前に突き出した。

そこには、田嶋からの着信履歴が映っていた。
「嘘だろ……。」

「慎吾だけじゃなく、私のところにも電話があった。でも、出たら無音だった。」
心臓が嫌な鼓動を打つ。

「だから、私も行くよ。」

「おい、やめろ。」

「慎吾が行かないなら、私だけで行く。」

真希は真剣な顔をしていた。
俺は、彼女が本気で言っていることを理解した。

……行くしかないのか?

海は、俺たちを呼んでいる。


第7章 消えた村

翌日、俺と真希、そして橋本の三人で車を出した。

「なんで俺まで……。」
橋本は文句を言いながらも、運転を引き受けてくれた。

俺たちは、かつて村があった海沿いの地域へ向かった。
「地図だと、この辺りなんだけど……。」
スマホのナビには、何も表示されていない。

まるで、最初からそんな村など存在しなかったかのように。
「……おい、見ろ。」
橋本が指差した。

目の前には、瓦礫と化した集落の跡が広がっていた。
「……これが、村の跡?」
3年前の津波で跡形もなくなったはずの場所。
だが、そこには明らかに“最近”まで人が住んでいた形跡があった

家屋の土台、崩れた鳥居、海に向かって伸びる石段――
そして――
「……なあ、あれ……。」
真希が小さく呟いた。

俺たちの目の前にあったのは、軒先に吊るされた笊だった。

「なんで……?」
誰もいないはずの村に、それは静かに揺れていた。

風はない。
だが、笊だけが、ゆっくりと揺れていた
「おい……戻ろう。」
橋本が低い声で言った。

だが、その時だった。
ザザザザザザ……
どこからか、砂を擦るような音が聞こえてきた。

「……海の方だ。」
俺たちは、ゆっくりと振り向いた。

そこに――
黒いモヤの塊が、海岸から這い上がってきていた。

「……っ!」
息が詰まる。

“それ”は、10年前と同じだった。
いや、さらに形を明確にしていた

うねるように伸びる黒い影。
煙のようでいて、確かに質量を持つそれ。

そして――

顔。
無数の人間の顔が、黒い靄の中に浮かんでいた。

「う……あ……。」
橋本が後ずさる。

「逃げるぞ!」
俺は叫んだ。

だが、その瞬間――
「慎吾……。」
背後から声がした。

田嶋の声だった。


第8章 呼ばれた者

振り向くな。
振り向いたら――終わりだ。

そう分かっていたのに、俺は、振り返ってしまった。
「……田嶋……?」

そこに立っていたのは、10年前に失踪した田嶋優斗だった。

だが、彼の顔はおかしかった。
顔色は異常に白く、唇は紫色。何より――目がなかった。
空洞になった目の奥から、黒い靄が漏れ出していた。
「一緒に……来いよ。」
田嶋は手を伸ばした。

その瞬間、全身が凍りついた。
足が動かない。
「慎吾!」
真希が俺の腕を引いた。

「行くな!そいつは田嶋じゃない!」
「でも……!」
俺の目の前で、田嶋がゆっくりと笑った。

「海が、待ってるぞ……。」
次の瞬間、黒い靄が一気に俺を包み込んだ。


第9章 海哭きの夜

「慎吾!!!」
誰かが叫んでいる。

だが、声は遠のいていく。
俺の足は、砂に沈むように、ゆっくりと海へと引き込まれていく

黒い靄の中で、無数の顔が俺を見ていた。
その中に、田嶋がいた。
「……助けて……」

俺は必死で手を伸ばした。

だが――
黒い波が俺を飲み込んだ。


第10章 笊の意味

――目を覚ますと、俺は浜辺にいた。
真希と橋本が俺を揺さぶっていた。

「慎吾!おい、大丈夫か!?」

「……俺……?」

「急に倒れたんだよ!」
辺りを見回す。

村は、再び姿を消していた。
俺たちが見たものは、本当に現実だったのか?
ふと、手元に違和感を覚えた。

俺の手には、小さな笊が握られていた
「……笊?」
真希がそれを見つめた。

「これ、魔除けなんじゃない?」

「……。」
村人たちは、あの“何か”を封じるために笊を吊るしていた。

だが、それがなくなったとき――
“それ”は、また誰かを求めて現れる。
俺は震える手で、笊を海に向かって投げた。

「二度と、来るな……」
波が、静かにそれをさらっていった。

――海は、泣いていた。

後書き

今回は、画像生成AIイメージクリエイターの調子が良く、どの画像をタイトル画像に使うか悩みました。
画像生成イメージクリエイター


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