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【書評】ソロスの錬金術

書籍情報

書名:ソロスの錬金術
著者:ジョージ・ソロス
訳者:青柳孝直
出版社:総合法令出版
出版年:2009年

世界3大投資家と言われるジョージ・ソロス氏の著作。本書は、ソロス氏の提唱する再帰性理論を用いて1980年代半ばの経済環境を分析したもの。リアルタイム実験としてソロス氏の投資判断の記録が書かれていることもありとても面白いものだった。

本書のタイトルにある”錬金術”というのはソロス氏の投資手法を錬金術と呼んでいるのではなく、再帰性理論を社会科学と対比させて錬金術と呼んでいるものなので、ソロス氏の投資手法を体系化したものではない。

再帰性理論

まず、本書のメインテーマである再帰性理論について私の考えをまとめる。
再帰性理論は極単純化して説明すると以下のようなもの。

  1. 社会現象はそこに参加する人々が事実をどう解釈するかという事が人々の行動に影響を与える。

  2. 人々の持つ支配的バイアスが人々の解釈に偏りを与える。

  3. 人々の行動が事実の成り行きに影響を与える。

  4. 行動によってバイアスが支持されるように事実が推移する。

  5. バイアスが支持される限りバイアスを強化するように行動がとられる。

  6. バイアスが支持できない状況に陥るとバイアスを否定する逆向きの動きに急展開する。

考え方自体は理解できるものなのだが、科学的な方法で検証できるものではないことと個別の対象にモデルを作りながら修正していく手法のため曖昧さと誤りを内包した理論である。
この点は現実の世界が理論に当てはめた通りに動くものでないこと、常に想定外のことや新しい対策が取られることなどを考慮すれば次善の策として実践のための理論として”あり”だと私は思う。”知りえる範囲の知識で仮説を立てる理論”と”説明できる範囲を絞って正確な仮説を立てる理論”どちらが必要か状況によって使い分ければ良いだけのことだろう。再帰性理論は前者の理論というだけのこと。

ソロス氏の投資判断記録

次にリアルタイム実験として記録されているソロス氏の投資判断記録について。率直に言うと、私が普段行っている投資と対象も方法も異なっており、理解できなかった部分が多くあったことを白状しておく。原油先物、為替、債券といったものを主要な投資対象としている人は少ないと思うので、「よくわからん」となる人は多いのではないかと思う。

それでもソロス氏でも臆病になったり、失敗したり、まぐれ勝ちをしたりという事がこんなにもあるのかという事がわかるし、投資判断の思考プロセスが開示されているので、定性的な情報の取り扱い方などが示されていてこれだけでも読む価値がある。

1980年代中頃の経済環境

本書はおおむね1980年代半ばに執筆されたもののようで、当時の世界がどのように見られていたかを知る上でも面白いと思う。当時はバブル崩壊の数年前で日本に関する記述もあり、既にかなり異常な状態であったことが窺える。一例を挙げるとNTTの公募価格はPER270倍だったのだとか。
現在の時点から見ると見通しの誤りは多数見つけられると思う。ソロス氏ですらこれだけ読み違いをしていたのだから自分が今見ている世界が予想どおりに進むと考えるのがいかにムリのあることなのか考える機会になるだろう。

まとめ

再帰性理論は既存の社会科学の理論を捨ててしまうほど万能なものだとは思わない。しかし、社会を見る1つの方法としては持っていて損はないものだと思う。
また、再帰性理論をどう評価するかとは別にしてもソロス氏の投資判断の記録が読めるというのはそれだけでも価値のあるものだし、1980年代中頃にソロス氏が当時の経済環境をどのように見ていたかを現在答えを知っているものの視点で見直すことは、今自分がみている世界を未来から見るといかに間違っている可能性が高いかを実感するためにも役立つと思う。

併せて読むと面白い本

再帰性理論を使いこなすにはシステム思考を学ぶことが役に立つ。
システム思考も再帰性理論同様に因果が循環する問題をモデル化するための手法でモデルの形によってどのような挙動になるのかをパターン化したシステム原型などもあるのでお勧めです。

読みやすい一般書としては下記の物が手に取りやすい。
システム思考は考え方自体は難しいものではないので簡単なものなら本書を読むだけでも書けるようになると思う。

次の本は未読です。
私が読んだ教科書は絶版になっているものが多く、入手できる本の中で評判の良いものを選びました。
実際の問題をモデル化するとなると複雑になるので、教科書が手元にあった方が安心できると思います。

ソロス氏のアプローチは違うがどう動くのかを考えるうえで参考になる。
市場に影響を与える様々なサイクルとそれらの関係性について学ぶのに適していると思う。


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