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【書評】決定力を鍛える_チェス世界王者に学ぶ生き方の秘訣

書籍情報

書名:決定力を鍛える_チェス世界王者に学ぶ生き方の秘訣
著者:ガルリ・カスパロフ
訳者:近藤隆文
出版社:NHK出版
出版年:2007年

チェスの元世界王者カスパロフ氏の思考法を一般化して解説した本。著者は偶然の要素のないチェスの世界で長期間王者の座を守ったことで知られるチェス界のレジェンドの1人。

本書は、チェスの専門書ではなく一般化した思考の枠組みを提供ているので、チェスを指さない人でも理解できるように書かれている。

率直に言えば意思決定の要素をどう分解し考えるかという点では特に目新しいものはない。フレームワークを教科書的に学ぶだけであれば戦略論やプロジェクトマネジメントを学ぶ方が効率的だろう。にもかかわらず本書は読むに値する良書だ。

本書の価値は理論家ではなく実践家が書いた点にあると思う。実践上は理論的に”どうすべきか”と実際に”何ができるか”を調整する必要がある。その時に”何ができるか”は大きく見積もられることは少なくない。

本書を通じて、著者のプレイスタイルは攻撃的・積極的なものとして説明されている。しかし、一方でチェスを知らない読者にとっては非常に防衛的・消極的に映るのではないだろうか?この点が実践家の書いた本としての価値を表しているように思う。言葉であるべき姿と現状を冷静に分析せよというのは簡単なことだが実際に行うこととの間には大きな溝がある。

積極性や大胆さはポジティブに見られることが多いが無鉄砲と見分けがつきにくいものだと思う。結果から見て積極的と評されている著者でさえこんなにも防衛的な意思決定を積み重ねているという事実こそが本書から学べることだと私は思う。

また、もう1つの特徴は著者が主にかかわってきた世界が明確な敵のいる環境であることだと思う。チェスには対戦相手がいる。そして、チェスはその性質上、すべての意思決定を1人のプレーヤーがだれにも頼れず最終判断を限られた時間で行わなければならない。それは論理だけ突き詰めればよいという状況ではない。そもそも指し手はいかに天才であっても読み切れないほどの量がある。その中で、合理的だが自分が苦手な展開を選ぶか?、勝ちか負けになる展開と高い確率で引き分けにできる展開でどちらを選ぶか?自分が得意としているが相手誘ってきている展開に乗るか?といった判断を迫られる。そのような中での意思決定では心理と向き合う必要があり、著者がそれぞれの場間面でどう考えたか、対戦相手の心理をどう読んだかという点も参考になった。

併せて読むと面白い本

意思決定やその実践フレームワークを学ぶのに適した本。

将棋の世界にも羽生さんがいらっしゃるのでこちらもおすすめ。


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