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蓮ノ空の真価が問われるのは、優勝した先の「卒業」をどう描くか/蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ

蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの皆さん、ラブライブ!優勝おめでとうございます。昨年、梢が泣いているのを見て「来年こそは!」と思っていたので優勝してくれて素直に嬉しいです。

せっかくみんなが優勝の余韻に浸っている中、水を差すかもしれないですが、「私にとっては」蓮ノ空が優勝するかどうかは一番の関心事ではありませんでした。なぜそう思ったのか、優勝以外に大事なものは何か、それについて書いてみます。

冷めた目で見ていると捉えられるかもしれませんが、メタ的な視点も織り交ぜながら、102期生のクライマックスが迫った「蓮ノ空」という作品について話していくので、興味があればお付き合いいただけると幸いです。

結論から書きますが、ラブライブ!で優勝することよりもその後の卒業をどう描くかこそが、蓮ノ空という作品において最も価値があると考えます。「優勝するかどうかはどうでもいい」とは絶対に言いません。それは優勝を悲願だと言っていた梢の気持ちを否定することになるからです。繰り返しますが、蓮ノ空が優勝したのは本当に嬉しいです。


ラブライブ!優勝は既存シリーズでも描いてきた

ラブライブ!の優勝をそこまで重視しなかった理由の1つは、ラブライブ!優勝は「蓮ノ空」に限らず他シリーズでも描いてきたからです。μ's、Aqours、Liellaにしろ、ラブライブ!の優勝はもはや定番の行事になっています。

元も子もないことを言いますが、「まぁ蓮ノ空が勝つやろ」と楽観していましたし(笑)、プレーオフにセラスが出ると確定した時点で、その可能性はより上がったと思いました。ですが、ノレなかったとはいえ蓮ノ空の優勝自体は素直に嬉しいです。

他シリーズでも優勝を描いているといっても、シリーズごとに違う学校、違う女の子の優勝があり、それらは同じではないからです。たとえば、「蓮ノ空」で初めてラブライブ!に触れた人にとっては応援しているアイドルが優勝した光景を見るのは初めての経験だし、すごく価値のあることです。

客観的に考えれば、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブが優勝するよりも瑞河女子高等学校が優勝したほうが衝撃を与えたでしょうし、意外すぎて話題にもなったでしょう。来年挑戦できない決勝での現3年生の負けを描いた方が、ショッキングですから。

でも私としては、やっぱり梢に夢を叶えてほしかったのです。彼女が幼いころから誰に憧れてこれまで努力してきたのか、昨年決勝で負けたあとにどれだけ悔しい思いをして涙を流したのか。それをリアルタイムで追ってきたからです。いくら作品の粒度で面白いと思っても、梢に負けて欲しくない気持ちが強かったので、優勝して本当に良かったです。

ラブライブ!大会の設定のガバガバさ

ラブライブ!の優勝をそこまで重視しなかった理由の1つ。それは、ラブライブ!大会の設定がシリーズやメディアによってまちまちで、言ってしまえばガバガバだからです。ラブライブ!というIPが始まってもう10年以上経過していますが、10年経ってもいまだに得体の知れない謎の大会です(笑)。ラブライブ!に詳しい人がいたらコメント欄で教えてください。

誰が運営してるのか、お金周りはどうなってるのかとか、詳細が具体的にガチガチに固められてるわけではありません。厳格な評価基準や大会のバックグラウンドが描かれていた方が、競技としても見ていて楽しめるのですが、実際はライブ本番のみが描写されているだけの場合がほとんどで、運営組織などバックグラウンドについては想像するしかありません。

このガバガバさゆえに、現実世界にいるラブライブ!のファンも本大会においては「優勝するかどうか」の結果のみに関心があるように観察していて思います。実際、今回のプレーオフもそうでした。後述しますが、「過程」により関心があるので、そこまでノレなかったのです。

しかし、この設定のゆるさ・余白の残し具合が、制作側にとってはありがたい気もします。ガチガチに固め過ぎてしまったら、将来描きたいテーマの障害や制約になる可能性があり、次のシリーズを作りづらくなるからです。結果論ですが、μ'sの時点でぼんやりと曖昧なまま、ただの舞台装置としてラブライブ!大会を描いたのは上手い判断だと思います。

「蓮ノ空」の個性、強みとは何か?

さて、ラブライブ!の優勝は既存作のμ'sやAqours、Liellaでも描いてきたことであり、蓮ノ空に限った話ではないと書きました。では、蓮ノ空の個性や強み、価値と何なのでしょうか?ここでいう価値とは、シリーズの他作品と比較したときに「その作品にしかない魅力」のことです。

たとえば、虹ヶ咲のテレビアニメであれば、1期3話で侑ちゃんがせつ菜に「ラブライブなんて出なくていい!」と言ったシーンから始まり、大会や競技としてのラブライブ!ではなく「スクールアイドルフェスティバル」の実現に向けて動き出しました。これぞまさにテレビアニメ版の虹ヶ咲が生み出した、競争ではなく「協調」という虹ヶ咲だけの価値です。μ'sの劇場版でも似たようなことをやっていた気がしますが、それはそれとして。

蓮ノ空の魅力とは、蓮ノ空にしか表現できない価値とはいったいなんなのでしょうか?すごく簡単な答えですが、それはリアルタイムでコンテンツを提供することです。毎週のうち数回の配信コンテンツがあり、キャラクターによるライブが頻繁に開催されます。

何よりすごいのは、現実のファンと同じ時間経過とともに、キャラクターも歳を重ねていくことです。これは既存のラブライブ!シリーズになかったどころか、競合の2次元アイドルIPでも滅多にない特徴ではないでしょうか。

ビジネスの観点で考えれば、10年経ってもいつまでも高校生でいさせられたほうが都合がいいです。美少女を売りにした作品で歳をとらせるのは長期的に見ればデメリットなのに、それによってファンに強烈な実在感を与えている。これこそが、蓮ノ空の個性・独自の魅力です。

プレーオフにこれだけ感情移入できたのは、蓮ノ空が優勝するまでの過程を、時間をかけて丁寧に、約2年間リアルタイムで描いてきたからです。「蓮ノ空」は地区予選・北陸大会・決勝大会・決勝プレーオフと段階的にその都度リアルタイムでライブを開催し、祝勝と反省を繰り返してきました。

大会ごとのライブ本編だけでなく、大会前後の配信コンテンツなどがあったからこそ、μ'sのテレビアニメなどと比較しても、ラブライブ!大会の過程も丁寧に描いてきたと感じます。

私にとって優勝より大切なこと

このリアルタイムで物語が展開される個性は、ラブライブ!優勝はもちろんですが、それ以上に「卒業」の方が強烈に発揮できるのではないでしょうか。ラブライブ!優勝と同じように、卒業についても既存シリーズで描写されているじゃないかと思う方もいるかもしれません。

しかし、メンバーが卒業して学校から去った後も、残ったメンバーで物語が続いていき描かれる、そんな作品が過去のシリーズにありましたか?キャラクターがリアルタイムで歳を重ねるのと同様、既存シリーズにはなかったはずです。「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」だけの価値はこの部分であり、これこそれが既存シリーズにない「蓮ノ空」だけの強みです。

スクールアイドルが限られた期間のなか精一杯「今」を生きるというテーマなのは、μ'sから始まったラブライブ!シリーズで一貫して描かれてきたことです。「蓮ノ空」はそのリアルタイムが生み出すライブ感を最大限にまで高めた作品だと思っています。

ついでに書いておくと、現実世界では勝者より敗者のほうが圧倒的に多いです。目立っているほんのわずかな成功者の下には、大勢の敗者の山ができあがっています。ラブライブ!はμ'sのアニメなど、競争や勝者を描いたコンテンツが多いですが、凡人の私から見ればこれは才能豊かな勝者の話で、自分には縁遠いものに見えてしまいます。

優勝できるのは全国でたった1校であり、実力だけではなく運だって絡んでくるでしょう。だからこそ、一瞬で終わってしまうラブライブ!決勝のステージよりも、そこまでに至る過程、「今を精一杯生きること」にこそ価値を見出して欲しいと思っていました。

活動記録104期第10話 より引用

実際に、梢はプレーオフ直前に大切なそのことに気づいた上で、改めて優勝を目指していました。花帆も「(優勝できなかったとしても)やってきたことが無駄になんて、ぜったいならないんです」と言って、その上で優勝を目指しています。梢も花帆も、自分が負けたときの予防線のために言っているのではなく、心からそう思っているのです。

ここまで精一杯やってそれでも瑞河が上回ったのであれば、それはもうしょうがない。負けたところで、あなたたちがこれまで紡いできた輝きが失われることは絶対にない。そう思っていたからこそ、ラブライブ!の優勝にそこまで価値を感じていなかった。これが、優勝をそこまで重視しなかった3つ目の理由です。

本当のクライマックスはここから

これまで書いてきたように、「蓮ノ空」は既存のラブライブ!シリーズだけでなく、他の2次元アイドル作品と比べてもリアルタイムが生み出すライブ感やキャラクターの実在感が非常に高い作品です。なので、先の展開を予想することがすごく難しいし、この記事が無意味になる可能性も高いです。長々と書いてきましたが、案外あっさりと「卒業」が描かれて終わる可能性だってあります。

最近Liellaではラブライブ!大会を連覇したようですが、「蓮ノ空」もまたそれに続くのでしょうか?102期生にはラブライブ!の優勝が悲願だった梢がいましたが、梢たちの代の1つ下の花帆やさやか、瑠璃乃はラブライブ!優勝にそこまでこだわっているのでしょうか?

少なくともこれまで見てきた花帆は「梢先輩を優勝させたい」という想いが強いように見えたし、自分自身が何がなんでも優勝することにこだわっていたようには見えません。今はそうでも、来年その気持ちが芽生えるかもしれませんが。優勝が悲願だったメンバーがいた102期では描けなかった展開も、103期なら描く可能性がある。「後のない負け」を描くのなら103期なのではないかとも考えてしまいます

あるいはそもそもラブライブ!には出ない選択肢もあるかも知れません。声優さんはどうなるのでしょうか。せっかく起用した声優さんを数年で交代させるような勿体無いことはしない気がするので、キャラクターや演じる役のタイプを変えて新1年生は現3年生の声優さんが担当するのではないかとも考えたりします。

瑞河とはなんだったのかという意見をX(旧Twitter)でも見かけましたし、私もそう思いました。彼女たちの具体的なバックグラウンドは104期の終盤に出てきましたが、もし蓮ノ空と同じように2年間の積み重ねがあれば現実のファンもより共感していたのではないかとか。ファンに蓮ノ空を応援してもらいたいからこそ、瑞河は比較的あっさりした描写にとどめたのではないかなど。

廃校が確定して優勝する意味もなくなり、セラスの夢も叶った瑞河女子2人に、優勝が悲願である蓮ノ空ほどのモチベーションが残っていたのか。一発勝負の決勝プレーオフでいきなりセラスと組むことになって、桂城泉にプラスの面以外の影響はなかったのか等、色々考察が捗ります。廃校になった瑞河の二人が今後どうなるのかも気になります。

梢の悲願であったラブライブ!優勝を成し遂げた蓮ノ空ですが、この後に待っているのは「別れ」です。別離は昨年の大賀美沙知でも描いてきましたが、カードでの実装や配信コンテンツやライブなどで応援する機会がほぼなかった彼女と違って、102期生の3人は現実のファンたちが2年間応援し続けてきた子達です。

2年間の努力が結実してラブライブ!を優勝した絶頂のこの後、今年描かれる別れこそが「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」の真価が問われると思っています。残された時間はあとわずか、2ヶ月程度です。その間に一体何が起こるのか、来年の105期も楽しみですが、展開が全く読めません。優勝のその先、ここからが真のクライマックスだと期待して今後を見守っていきたいです。

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