生まれる前に放送されてリアタイできなかった大好きな作品を令和に見られる奇跡[らんま1/2]
2024年6月26日、突然発表された「らんま1/2」の再アニメ化。心の準備なんて全くできていなかった。キャストとPVの発表が2024年7月17日、放送開始が2024年10月5日なので、公式発表から放送まで4ヶ月もない。なので「1年前にアニメ化が決まってから、その間ずっと待ち遠しかった」みたいな感覚もない。だが、今回の体験はこれまでの人生の中でも、そしておそらく今後の人生の中でも稀な物だと思った。そんな再アニメ化発表時の気持ちと、キャスト発表時に受けた衝撃と、TVアニメが始まったときの感動について記録に残したい。
子どものころ、人生に寄り添ってくれたアニメ
昔からアニメを好きな人であれば、誰にだって子どもの頃によく見ていた大好きな作品があるはずだ。「アンパンマン」でも「ドラえもん」でも、なんでも構わない。強調したいのは「子どもの頃」に大好きだったアニメである。具体的な年齢でいうと、10歳ぐらいまでを対象にしておこうか。子どもの頃に見た作品・高校生の頃に見た作品・大人になってから見た作品など、各々の年代ごとに思い入れのある作品はあるだろう。
そのなかでも、子どもの頃に見ていた作品はやっぱり特別なのではないかと思う。物心ついてから初めて触れる作品は、特に新鮮に映ることだろう。これから年代を重ねていくごとに積み上げていくアートやエンタメの経験における基礎になる。読者の皆さんそれぞれにとって思い出の作品はあると思うが、私にとってのそれは「らんま1/2」だった。年齢を重ねた今振り返っても、アニメのノリやイメージを感覚で掴むきっかけになったように思う。
私の子どもの頃は、テレビ東京系のチャンネルをつければ、平日夕方の時間帯はアニメで埋まっていた時代だった。私はらんま世代ではなく犬夜叉世代だった。なので犬夜叉はリアルタイムでTV放送されていてよく見ていたのだが、らんまは自分が生まれる前に放送されたので、当然リアルタイムでの視聴はできなかった。ではどこで見たかというと、ケーブルテレビの「キッズステーション」である。キッズステーションでは毎日のようにらんまが放送されていた。地上波で犬夜叉のある月曜日でも、シャーマンキングのある水曜日でも、ハム太郎のある金曜日でもらんまは放送されていた気がする。
大人になった今思うと、「らんま」は子どもが見るにはかなりえっちだった。性転換やセクシーな女性キャラ、昔のアニメ特有の女性の乳首が露出する表現など性的な刺激もかなり強く、正直私の性癖はらんまの影響を多分に受けているように思う。だがそういったえっちな要素は枝葉の部分で、本質的にはらんまは明るく楽しい格闘ラブコメであり、現代のラブコメにおける基本が詰まっている優れた作品だと思う。子どもの頃に毎日のように「らんま」を見て、高校生の頃に思い出したように再度ハマって原作漫画も集めて、大人になった今に至る。
キッズステーションではらんま以外にも、セーラームーン、めぞん一刻、YAWARA!など好きな作品はたくさんあった。その中でも「らんま」は特に気に入った作品の1つだった。主題歌もどれも良かったし、ヒロインたちは可愛かったし、格闘シーンはカッコよくて、コメディパートはいつも楽しく見れた。私にとって「らんま」は子どもの頃に生活の身近にあり、人生に寄り添ってくれた特に思い入れのある作品だった。
アニメ化発表直後の諦めと、PV発表後の感動
これだけ思い入れがあったにも関わらず、再アニメ化が決まった直後は感動したかというと、正直そうではなかった。たしかに嬉しかったのは事実だが、前述の通り決まったのがあまりにも唐突で、決定の余韻に浸る間もなく次々にイベントの告知があり、感慨に耽る暇もなかった。実際、大昔の作品をリメイクすることは、近年は特に珍しいわけでもない。再アニメ化されたからといって、旧作のクオリティと同等かそれ以上のものが作られるのも稀だというのもわかってきている。諸々の事情で、再アニメ化した作品は絵柄が現代風になっただけで、旧作に比べて静止画ばかりでアニメーションが動かないという致命的な批判もいくつも耳にしているのも心配だった。
なにより「キャストは旧アニメとは全く別の完全総入れ替えになるのだろうな」と思っていた。同じく高橋留美子さん原作の「うる星やつら」はキャスト総入れ替えだったので、同じようになるのだろうと思った。どの作品でもそうだが、声優が新キャストになるかどうかは再アニメ化時に必ず話題になることの1つだ。選ばれた新しいキャストの人たちは、旧作ファンから否定的な目で見られるのだろうな、炎上したら可哀想だなと思った。正直に言うと、自分もそのように否定的に見てしまうと思ってしまった。自分にとって「らんま」はあまりにも旧作の声に慣れすぎていたし、それが当たり前になっていたからだ。
過去にアニメ化された作品が再アニメ化されることについては、色々議論の余地がある。理屈で考えれば、私はキャラクターと声優は切り分けて考えるべきだと思っているのだが、その主義からすると旧アニメ版の声優にこだわるべきではないはずだ。頭ではわかっているつもりだった。新アニメで声優が一新されることばかりに批判が集中するが、声優も大事だけれどそれ以上に監督や脚本家や音響監督、何よりキャラクターデザインやアニメーターのスタッフの変更のほうがもっと批判されるべきなのではないかとも。だが今振り返ってみると、心ではキャストが刷新されるのが嫌だったのだろう。最近の他作品でいうと「るろうに剣心」でキャストが一新されたことに対してもまだ納得はできてないけれども、らんまに限ってはそれの比ではなかった。
99%の確率で声優は刷新される、と諦めていたのが正直な気持ちだ。だがはっきりと事実を確認するために、一応見るだけ見てみようと思い、7月17日午後6時からの制作発表会をリアルタイムで見た。今振り返ると、今年で一番不安な気持ちになりながら、というか諦めた冷めた気持ちでPVを見ていたのを覚えている。第一声で「「待たせたな!」」と声がする。最初聞いた時、随分と過去作と似ている声だなぁと思った。その次のらんまの声。こちらも随分と山口勝平さんの声に似ていて、まさかと感じていたらその後のCV山口勝平の文字を見て絶句。次のあかねの声と、CV日高のり子の文字を見てなんだか泣けてきてしまった。その後は放心状態で、内容はあんまり頭に入ってこなかった。
マジか。本当にフジテレビ版と同じキャストで作るのか。99%旧アニメのキャストは配役されないと思っていたのに、本当に意外すぎて今年最も驚いたことと言っても過言ではなかった。もちろんキャストが変わっている主要人物も数人いる。だが乱馬(らんま)とあかね、なびき、かすみ、シャンプー、良牙など主要キャラクターのほとんどが旧アニメと同じキャストだった。仰々しいかもしれないが、まるで自分の大好きだったものを否定されなかったように思い、嬉しくてしょうがなかった。この発表を見た直後の素直な感想は、ただただ嬉しかったに尽きる。この感動は理屈ではない。
まさか自分が生きているうちに慣れ親しんだ「らんま」のキャラクターたちが動いている姿をリアルタイムで視聴できるとは思っていなかった。日高のり子さんの声で、ロングヘアの天道あかねちゃんが動いてるのを見るだけで泣きそうになった。このような体験は本当に稀な気がする。たとえば「シャーマンキング」のファンも私と同じような気持ちになったのではないだろうか。私もシャーマンキングはバリバリ世代だったのだが、めちゃくちゃハマってたわけでもないので「おっ、声優は旧作とほぼ同じなのか。すごいな!」ぐらいにしか思わなかったけれど。マンキンも20年前の作品なのですごいが、「らんま」はさらに10年前の作品だったので一層衝撃に感じた。
余談だが、らんまはテレビアニメとしては32年ぶりに新作が作られたのは正しいのだが、OVAとしては2010年にもリリースされている。こちらは平成後期の絵柄に合わせつつも、キャラクターデザインは中嶋敦子さん、制作もスタジオディーンで声優も旧アニメのキャストのままと、旧アニメ版の特徴が色濃く残っている。製作は犬夜叉と同じサンライズだが、だいたい旧アニメと同じスタッフの作品なので、気になった方はご視聴をお勧めする。
たくさんの偶然が重なった結果の、奇跡
制作発表会での林原めぐみさんがおっしゃっていた「業界の中でもひとつの奇跡なんじゃないかと思います」という言葉がすごく印象に残っている。多分キャストさんの年齢的にも、主要キャラクターを1人の声優さんで演じ切るのはこれが最後のチャンスなのだと思う。浅学なので3回りメイクされた作品を知らないのだが、もし「らんま」がこれから先再度リメイクされることがあればそのときはキャストは一新されているだろう。若い役であればあるほど、年齢による声質の衰えは間違いなくあるはずだ。しかし、思い出補正なのか好意的に見ているからなのか、1話を見たところキャストの衰えを全く感じなかった。もちろん旧アニメと比べたら同じ役者でも出ている声が違うものなのも事実だ。特にかすみさんと、呪泉郷ガイドが一番旧作と声の違いを感じなかった。井上喜久子さんはいつまでも17歳なので流石だと思うと同時に、山寺宏一さんの呪泉郷ガイドは旧作とほぼ同じではないのかと感動した。
話を林原さんのおっしゃっていた「奇跡」に戻すと、キャスト関連の話題に限らず今回私や読者の方が「らんま」の再アニメ化を目にできていること自体も1つの奇跡だと思う。現代において再アニメ化は珍しいことではないと書いたけれども、なぜか「らんま」は私の意識の中から抜け落ちており、脳内でも再アニメ化する候補からは外れていた。だから自分が生きているうちに、しかも主要キャラクターの声は旧アニメと同じ配役で大好きなキャラクターたちが動いているのを見られるとは思っていなかった。何事においてもだが、きっと世の中にはこの再アニメ化を見ることのできなかった人たちもたくさんいるだろう。そういった意味でも、私やあなたが令和に再び「らんま」のアニメを見ることができるのは奇跡だと思うのである。
第一話だけは地上波で、どうしても自宅のテレビで見たかったから、先行試写会もとても行きたかったけれどもあえて応募しなかった。1話をリアルタイムで見ることができた感動は今でも覚えているし、残りの人生でも忘れることのないとても満足できた体験だった。
日テレ版らんまはまだ始まったばかりで、最終的な評価というのはこのアニメが完結するまで判断を下せない・保留になるのも事実だ。再アニメ化自体いろいろ議論の余地があると思うし、そのクオリティもこれまでの他作品を見てみると不安がないといえば嘘になる。フジテレビで放送されたキティ・フィルム&ディーン版は正真正銘の傑作なので、あれと比べてもしょうがない。だから私は旧アニメと今回のアニメは別物だと割り切っている。仮に今回のアニメの出来が悪くても過去作が傷つけられるわけでもないし、そこは心配しなくていいだろう。日テレ版「HUNTER×HUNTER」などと同じで、今回のらんまも旧アニメでは描けなかった原作の未消化部分のエピソードに注目が集まると思われる。おそらくそれが、原作の連載と同時並行だった旧アニメでは実現できなかった肝心な部分である。日テレ版らんまは始まったばかりなので、温かく見守ればいいのではないだろうか。とりあえず今は、この喜びを噛み締めようと思う。
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