ネズミのすもう
むかしむかし、あるところに、まずしいけれど仲のいい、おじいさんと、おばあさんがすんでいました。
ある日、おじいさんが、山へしばかりにいくと、どこからか、かけ声が聞こえてきます。
「よっしゃこい、よっしゃこい」
「はて、なんじゃろう」
おじいさんは、不思議に思って、声のする方へ見にいきました。すると、藪の向こうで、やせたネズミと、よく太ったネズミが、すもうをとっていたのです。
「よっしゃこい、よっしゃこい」
かけ声を出して、2匹はぶつかりあいます。
「おや、やせたネズミは、うちのネズミじゃ。太ったネズミは長者の家のネズミじゃな」
見ていると、太ったネズミが、やせたネズミを、ポーン、と投げとばしました。
「長者のネズミは、力持ちじゃなあ。いつも、うまいもんを食っておるのじゃろう」
おじいさんは、家に帰って、おばあさんに言いました。
「昼間、うちのネズミが、長者のネズミとすもうをとっておってな。ポーンと投げられよった。かわいそうじゃけん。餅でもついて、食べさせてやったらどうじゃろう」
「それはそれは。よい考えじゃ。さっそく餅をついてやりましょう」
2人は、ペッタンペッタンと餅をつくと、小さく丸めて、ネズミの巣の近くに置いて置きました。
次の朝、餅は、全部なくなっていました。
そして、おじいさんが山へ行くと、
「よっしゃこい、よっしゃこい」
2匹のネズミが、今日も相撲をとっています。やせたネズミは、昨日よりも粘り強く、長者のネズミに、ひけをとりません。
とうとう、勝負は引き分けました。
長者のネズミは、感心したように、やせたネズミにいいました。
「一晩で、えらく力がついたのう」
「昨晩、おもちをごちそうになったのじゃ」
「それは、うらやましいのう。ぜひ、わしにもごちそうしてもらえないかなのう」
「そうしてやりたいが、うちのおじいさんも、おばあさんも、とてもまずしいんじゃ。そうそう、餅をつくことはできますまい」
「だったら、何か、お礼を持っていこう」
その夜、おじいさんは、おばあさんに言いました。
「今夜は、お客がくるようじゃ。餅は昨日より、よけいにこしらえんとな」
2人は、2匹分の餅を、ネズミの巣の近くに置きました。餅の横には、小さな赤いマワシも置いて置きました。
次の朝、ネズミの巣の前には、小判が一枚置いてありました。それは、長者のネズミからのお礼でした。
おじいさんが山へ行くと、今日も、
「よっしゃこい、よっしゃこい」
と、2匹のネズミが相撲をとっています。
2匹とも、まるまる太って、小さな赤いまわしを、しめておりました。