おいしいおかゆ
むかしむかし、あるところに、やさしい女の子が、お母さんと2人きりで暮らしていました。
家はまずしく、ある日とうとう食べるものが何もなくなってしまいました。
食べものを探して、女の子は町はずれの森にいきました。するとそこにいたおばあさんが、突然女の子に話しかけてきました。
「やさしいお嬢ちゃん、食べものを探しにきたんだろう?さあ、このふしぎなお鍋を持っておいき。これさえあれば、もう食べものに困ることはないよ」
「ありがとうございます。でも、どうやって使えばいいの?」
「『おなべや、ぐつぐつ』といえば、とおいしいおかゆを作ってくれるからね。いらなくなったら『おなべや、とまれ』といえばいい」
女の子はなべを持って帰ると、さっそくお母さんといっしょにためしてみました。
「おなべや、ぐつぐつ」
すると、空っぽだったおなべの底からおかゆがグツグツとわきあがってきます。
おかゆがいっぱいになったところで、
「おなべや、とまれ」
というと、おなべは静かになりました。
これで2人はいつでも食べたい時に、おいしいおかゆが食べられるようになりました。
不思議なおなべのおかげで、お腹がすいて困ることがなくなり、まずしかった暮らしも少しずつ楽になってきました。
ある日、女の子が出かけている間に、お母さんはおいしいおかゆが食べたくなりました。
「おなべや、ぐつぐつ」
できてくるおかゆを食べて、そろそろお腹がいっぱいです。けれどもお母さんは、おなべをとめる時にいう言葉を忘れてしまったのでたいへん。
おかゆはグツグツと作られ続けて、ついにおなべのふちからあふれ出てきました。
それでもおなべはとまりません。台所から2階まで、家中がおかゆでいっぱいになってしまいました。
そのままお隣の家もおかゆでいっぱいになり、外の通りから、おかゆはどんどん他の家にまでグツグツと入っていきます。このままでは世界中がおかゆだらけになってしまいます。
困ったことになりましたが、どうすればとまるのか、だれにもわかりません。
町がおかゆで埋めつくされそうになった時、やっと女の子が戻ってきました。女の子はびっくりしながら叫びました。
「おなべや、とまれ!」
やっとおなべは止まりましたが、町のおかゆは残ったままです。
それからしばらくの間、この町の人たちがお出かけする時は、スプーンでおいしいおかゆをパクパク食べて、通り道をつくりながら歩かなくてはだめだったんですって。
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