大きな家と小さな家
むかし、旅をしていた神さまが、人間の町に一晩泊まることになりました。
まず大きい家を見つけたので、戸をたたくとお金持ちの主人が出てきました。
「一晩泊めてくださらんか」
神さまがいうと、主人は、
「あいにく部屋は全部いっぱいだ」
と答えて、戸をピシャリとしめてしまいました。神さまはそまつな服をきて、見るからにお金を持っていなさそうだったからです。
そこで神さまは、その向かいにある小さい家の戸をたたきました。
小さい家にはまずしい夫婦がすんでいましたが、神さまをすぐに家の中に入れ、あたたかい食事を用意してくれました。
「今夜はベッドでゆっくりおやすみください。わたしたちは床にわらをしいて寝ますから」
次の朝、神さまは夫婦といっしょにごはんを食べながら、二人にやさしく話しました。
「おまえたちは立派じゃな。泊めてくれたお礼に願いごとを三つかなえてあげよう。なんでもいいなさい」
すると主人が言いました。
「毎日きちんと食事ができて健康にすごせますように。そして死んでからは安らかに天国へいけますように。これで十分です」
「それでいいのじゃな。ならばあとは、この家を新しくしてやるかのう」
神さまがそういうと、古くて小さな家が、あっという間に新しくて大きな家にかわりました。そして神さまは、やさしくほほえみながら家から出ていきました。
その頃、お金持ちの主人はビックリです。向かいの小さな家が、急に新しくて大きな家に変わったのですから。
わけを聞いたお金持ちの主人は、急いでウマにのって神さまを追いかけます。
「昨日は失礼しました。次はぜひわたしの家にお泊まりください。そのこわり、わたしの願いごとも三つかなえてくださいませんか」
「よろしい、それならかなえてあげよう」
それを聞いたお金持ちは、すぐにウマを走らせて、ニヤニヤしながら家に戻ります。
(さあて、何をお願いしようかな)
ボーっと口を開けていたら、ウマがはねた拍子に舌をおもいきりかんでしまいました。
「アイタタタッ!ええい、なんだこのばかウマめ!おまえの首など落ちてしまえ」
すると、いった通りにウマの首がポロリと落ちて。ウマは死んでしまいました。
(しまった。一つ目の願いごとが!)
まだ家は遠いのに…金持ちの主人は歩いて帰ることになってしまいました。
ウマにつけていた上等のくらを持って帰るため、背中に背負ってフウフウ歩いていきます。
「重たいくらめ!こんなもの、とっとと家に帰って女房のしりにくっついてしまえ!」
すると背中のくらがフッと消えました。
(しまった。二つ目の願いごとが!)
急いで家に戻ると。くらは奥さんのおしりにスッポリくっついています。
「あんた。なんだいこれは!早く助けな!」
結局最後の願いも、奥さんのおしりからくらを外すために使ってしまったのでした。