見出し画像

<本と映画の答え合わせ>第34回「BONES AND ALL」

【本】
〇タイトル:BONES AND ALL
〇作者:カミーユ・デアンジュリス
〇感想:
 ・愛情を感じた相手を食べてしまうという異常な設定に、作者の非凡な発想が光る。赤ん坊がベビーシッターを食べる描写には無理があると感じつつも、こうした大胆な展開が読者の興味を離さない力を持っている
 ・本を読む楽しさの1つに「結末を予測し、最後に答え合わせをする」ことがあると再確認させられた。映画だとテンポが速く、展開に没頭してしまいがちだが、本ならではのペースで考えを巡らせることができる。この作品でも、主人公のマレンと相手役リーの運命を予測しながら読み進める楽しみがあり、果たして二人のどちらかが最後に食べ、または食べられてしまうのか、やはり主人公のマレンが食べる側であろうと想像が膨らむ
 ・文章自体は難解な表現もなく登場人物も限られているため、読みやすいことも魅力。さらに、「巨匠とマルガリータ」や「指輪物語」、日常の象徴とも言えるウォルマートといった馴染みのある言葉が登場し、親近感が湧きつつ飽きずに読み進めることができる
 ・物語の軸は、マレンが自身の出生の秘密を探る旅かと思いきや、それだけに留まらず、成長と自己探求の物語へと広がっていく。父親を探し、己の過去を知った彼女がさらに歩みを進めていく姿は、食人という異常な背景の中でも普遍的な成長の物語として深い共感を誘う
 ・人を跡形もなく食べ、証拠も残さず警察に捕まらないという非現実的な設定が、映画ではどのように視覚化されるのか、強く興味を引かれる。実写の中で、どこまでその「異常さ」がリアルに描かれるのか、映像表現にも期待が高まる
〇評価:〇

【映画】
〇BONES AND ALL(2022年)
〇監督、主演:ルカ・グァダニーノ監督、テイラー・ラッセル、ティモシー・シャラメ
〇感想:
 ・本(原作)を元に構成等は異なるものの大きく逸脱することなく映画化されている。しかし、鑑賞後の余韻は本(原作)読了後とはまた異なるものであった
 ・映画ではマレンは母親を探しに行く。本(原作)と映画でマレンの母親と父親の役割を変えた理由は明らかではないが、母親との再会を目指すことで、物語にさらなる「孤独」と「母性」というテーマが浮かび上がり、マレンの孤立感と渇望感を強調させる
 ・通りすがりのお祭りでリーが狙いをつける露店商の人物であるが、本(原作)では女性のはずが映画では男性。ティモシー・シャラメが男性と絡むシーンは「君の名前で僕を呼んで」の影響が強いためか自然に感じる
 ・音響で驚かす演出はないが、人食いのシーンを初め、所々グロテスクな場面があるのでホラー映画が苦手な人は避けた方がよい。特にサリー(♂)が下着姿で顔面と首を血に染めてミセス・ハリスを食する映像は強烈である
 ・広大なアメリカをドライブする映像も映画の魅力の一つである。大学4年生の夏休みに友人と3人でアメリカ西部を3週間かけて州を跨いでドライブ旅行した時に目にした風景が蘇った。マレンとリーが各地を旅する場面では、荒涼とした大地や広がる空が、彼らの孤独感や自由を象徴している
〇評価:〇

【総合】
〇感想:
 ・結末の描かれ方に等により本(原作)と映画で印象が異なるので、それぞれで楽しめる作品。個人的には成長していくマレンの姿がより伝わる本(原作)の方に惹かれる
 ・本(原作)を読んで映画を鑑賞すると、言いたいことは「相手を食べてしまうことも愛」なのか「人肉は美味しい」なのかよく分からない。特にメッセージはなく、特殊なバックボーンを持つ孤独な若者同士のラブストーリーと理解する
 ・作品全体に流れるカニバリズムは、現代の食文化や代替肉に対する興味深い視点も感じられる。数年前に代替肉ブームに目を付け、米国ビヨンドミート社の株式を先見の目を持って購入したはずが、現在9割近く下落している。。。損切りはしない方針なので持ち続けるつもりであるが、肉に対する人間の執着や依存を身銭を切って学んだ

いいなと思ったら応援しよう!