<本と映画の答え合わせ>第38回「WEST SIDE STORY」
【本】
〇タイトル:WEST SIDE STORY
〇作者:アーヴィング ・シュルマン
〇感想:
・映画(2021年)を先に観ていたため、本(原作)を読み進める際に「このシーンはこう繋がっていたのか」と確認しながら進める感覚であった。ジェッツとシャークスの決闘の相手、銃の出所など映画(2021年)と違う点やエニボディズの意外に重要な存在、役割に気付く
・ジェッツのメンバーについても、映画(2021年)ではリーダー以外は一括りに描かれていたが、本(原作)を読むことで1人ひとりの個性やリフのリーダーとしての振る舞い、メンバー間での尊厳の保ち方がより明確に理解できた
・映画のダンスや音楽の躍動感は書籍では当然感じられないため、評価は内容に大きく依存する。誰も得することはない悲劇的な結末を迎えることから、読後の後味は重く、読者に救いのない感覚を残す。本を読むことの魅力の1つは、自分の想像力で世界を膨らませることだが、このようなバッドエンドの物語では想像力もプラスの方向に進みにくいことに気づかされた
〇評価:△
【映画①】
〇ウェスト・サイド・ストーリー(2021年)
〇監督、主演:スティーヴン・スピルバーグ監督、レイチェル・ゼグラー
〇感想:
・結末を知らない状態で鑑賞したため、最後の展開には大いに驚かされた
・1950年代のニューヨークの街並みが細かく描かれており、特にアパートの階段付きベランダのシーンは「ティファニーで朝食を」を彷彿させ、ニューヨークらしい雰囲気が強く感じられた
・見どころはやはりダンスシーンで、公民館でのダンスパーティーの迫力は圧巻。また、ジェッツのストリートでの踊りはまるでバレエのようで美しい。音楽に関しては、二重・三重唱が非常に印象的でありながら、馴染みがないせいか、他の有名ミュージカルと比べて耳に残りにくいと感じる
・本作品はスピルバーグ監督によるリメイク版である。同監督は有名であるが、その手法、特徴等は本映画を観るだけでは全く分からず、今後同監督の作品を観るときは何が特徴的かを意識したい
・ニューヨークに滞在していた時、42nd Streetでよくミュージカルや映画を観ていたが、本作品は当時上演されていなかったのが残念。個人的には「オペラ座の怪人」や「レ・ミゼラブル」といった作品が、音楽も含めてお気に入りである
〇評価:〇
【映画②】
〇ウェスト・サイド物語(1961年)
〇監督、主演:ロバート・ワイズ監督、ジェローム・ロビンズ監督、ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー
〇感想:
・本(原作)と同時期に製作された映画で、内容も本(原作)に非常に忠実であり、前半と後半の間の中断(intermission)が時代を感じさせる。当時の映画鑑賞は現在で言えばミュージカルを観に行くようなものであったのかもしれない
・キャストに関しては、やや外見に基づいた意見になるが、トニーやリフがシャークスの一員の方が似合っており違和感を抱く
・1950年代の移民に対する差別は非常に深刻だったことが伝わる。米国では今日でも差別は明らかに残るがこれでも少しずつ改善されてきたのであろう
・単一民族国家とも言える日本ではこれまで移民問題はほぼ問題となることはなかった。人口減少に差し掛かり、労働力の点等から今後移民の増加が見込まれる。それに伴い発生するであろう偏見、差別にかかる諸問題に対応していくうえで米国の辿っている道は参考になると思料する
〇評価:〇
【総合】
〇感想:
・トニーとマリアが一目で恋に落ち、すぐに結婚を誓う展開は現実的にはやや無理があるように感じる。特にトニーの純粋さには天然さを感じざるを得ない
・物語の構造は、明らかにロミオとジュリエットのアメリカ版で、敵対するグループに属する者同士が恋に落ち、悲劇を迎えるのは古典的なテーマだと気づく
・現代においては、若者たちの争いがテリトリーを巡る暴力から、インターネット上のゲームや競争へと代替され、直接的な争いが減っていることはむしろ歓迎すべきことかもしれない
・物語が終盤に向かうにつれて、負の連鎖が一気に加速する。物事が悪い方向に進むときのスピード感は凄まじく、状況を変えるためには「逃げる」ことが一つの解決策だと、大人になってから特に感じるようになった。逃げることは必ずしも恥ではなく、生き延びるための選択肢、打開策でもある
・結末について個人的な願いであるが、トニーにはマリアが生きていることを知らずにいてほしい。3つ(本(原作)および映画2つ)の結末はそれぞれ微妙に異なることから、この解釈も1つの可能性として存在する
・移民問題に関しては、70年近く経った今でもアメリカ社会の根深い問題であり、白人以外を排斥する考え方が根絶されることは難しいとあらためて感じさせられた