<本と映画の答え合わせ>第33回「ジキルとハイド」
【本】
〇タイトル:ジキルとハイド
〇作者:ロバート・L・スティーヴンソン
〇感想:
・ジキルとハイドと言えば、人間の二面性を題材にした作品としてよく耳にする。しかし、その詳細なプロットや、いつどのように人格が入れ替わるのかについては、意外と知られていないことが多い。そこで、今回あらためてじっくりと読み、そのテーマをより深く理解することとした
・もしこの現象(変身)を自分自身に当てはめたとしたらどうか。どれほどの「悪」が自分の中に潜んでいるのか、そしてその「悪」が表に現れた場合、どんな人物になるのかを想像するのも興味深い。普段は理性で抑えられている欲望や感情が表に出たとき、自分がどれだけ変わってしまうのか、考えるだけでも不安を感じさせる
・変身当初のように薬品を飲むことで入れ替わるのであればコントロールが効く。一方で、薬品を使わずとも寝ている間、挙句の果てには覚醒中に変身してしまう状況に陥っては「悪」の部分に乗っ取られ、最終的には「善」の人格を凌駕してしまう。これは「悪」がどれほど強力であるか、そしてそれがどれほど人間を支配し得るかという恐怖を強く感じさせる
・それでも、ハイド(「悪」)の姿のまま迎える最期(自殺)には、どこかに「善」(ジキル)が残っていたように見える。ジキルは完全に「悪」に支配されることなく、最終的に自己崩壊へと至る。この点において、私たちの中には「善」と「悪」が常に同居し続け、どちらか一方が完全に消えることはないというメッセージが込められているように感じる。「善」または「悪」どちらか一方のみの人間は存在しないと信じる
〇評価:◎
【映画】
〇ジキル&ハイド(1996年)
〇監督、主演:スティーヴン・フリアーズ監督、ジュリア・ロバーツ、ジョン・マルコヴィッチ
〇感想:
・ジュリア・ロバーツ演じる主人公メアリーの登場により、本(原作)にはなかった恋愛要素が加わり、物語はより複雑な人間関係に焦点を当てている。このため、本(原作)とは異なるシーンや展開が多く見られるが、「人間の二面性」というテーマはしっかりと受け継がれている
・映画全体を通して、薄暗く陰鬱なシーンが多く、特に音響がスリリングな場面を強調して、視聴者に不安や恐怖感を抱かせる。このような演出のため、映画はホラー要素が強く、心理的な恐怖が全編にわたって感じられる作品に仕上がっている
・ジキルとハイドを演じたジョン・マルコヴィッチの豹変ぶりも、この映画の大きな魅力の1つである。特に最後にハイドからジキルに戻る場面は印象的で、予想外の方法での変身が描かれている。これは当時の最新技術を駆使したシーンであるが、今となってはやや時代を感じるユーモラスな演出にも映るかもしれない
・人間の二面性について考えると、例えば、アルコールの影響で「酔うと人が変わる」という現象も、ハイド(「悪」)の登場とまではいかないまでも重ねて考えられる。泥酔して記憶が途切れるとき、我々の中に眠る理性で抑えられている欲望や感情が表に出ているのではないか、変なことをしていないかと思わせる点が面白い
〇評価:〇
【総合】
〇感想:
・映画は本(原作)通りに進むわけではないが、基本的な筋書きやテーマはしっかりと踏襲されている。映画だけを見ても十分に楽しめるペースで展開していくが、物語の深みをより理解したい、あるいは本(原作)を体験したいという場合には、ぜひ本(原作)を手に取ることを勧める。本(原作)は比較的短く、読みやすい長さである
・ジキルは理性的である一方、ハイドは自己の欲望のままに行動する。この対照的なキャラクターの描写は、人類が長い年月をかけて獲得した「理性」という特質をあらためて問い直す。もし、私たちが本能的な「欲望」に支配された状態を、心のどこかで無意識に求めているとしたら、それは不思議なことではないのかもしれない
・「理性」と「欲望」、「善」と「悪」の拮抗は、すべての人間に共通するテーマであり、この物語が全世界で長年愛されてきた理由の1つと考えられる