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本好き僧侶が薦めるおすすめ小説10選【中級編】
はじめに
前回の記事「本好き僧侶が選ぶ!読書入門におすすめの小説5選」では、本を読むことに慣れていない方にも自信を持っておすすめできる作品をご紹介しました。
ここからは本を読むことに抵抗がない人向けです。ものすごく難解な長編小説には手が伸びないけれども、面白い本ならば読んでみたい。そのような方にぜひおすすめしたいです。
では早速始めていきましょう。
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1 オーウェル 『動物農場』
おすすめ作品中級編の第一冊目はジョージ・オーウェルの『動物農場』です。まずはこの本のあらすじを見ていきましょう。
人間たちにいいようにされている農場の動物たちが反乱を起こした。老豚をリーダーにした動物たちは、人間を追放し、「すべての動物が平等な」理想社会を建設する。しかし、指導者となった豚たちは権力をほしいままにし、動物たちは前よりもひどい生活に苦しむことになる……。ロシア革命を風刺し、社会主義的ファシズムを痛撃する20世紀のイソップ物語。
私はオーウェルの代表作『一九八四年』と同じく、この作品も15年ほど前の学生時代に初めて読みました。その時の衝撃は今でも忘れません。
特に物語の最終盤で豚が二足歩行で行進するシーンはあまりのショックで、その時の驚きは今でも鮮明に覚えています。
そして時を経てソ連の歴史を学んでからこの本を改めて読み返してみると、この作品がいかに優れた作品かがよくわかりました。1917年のロシア革命からレーニン、スターリン体制のソ連の動きをこれほどうまく描写し、風刺する技術には驚くほかありません。
この『動物農場』を読んでいてつくづく思うのは、甘い言葉や憎悪を煽る言葉に気をつけねばならないということでした。そしてまた気づくのは豚たちの話術の強さです。彼らの雄弁によって農場の動物たちは「おかしいな」と感じつつもついつい丸め込まれてしまいます。そして気付いた頃には暴力で支配されてしまうのです。しかもそうなったにも関わらずまだ彼らの巧妙な偽装のトリックに騙され続けるのです。
敵を作りだし、憎悪や不満を煽り、それにより敵を倒そうと宣伝してくる人たちには気を付けた方がいいです。敵を倒した後に何が起こるのか、それを『動物農場』は教えてくれます。
『動物農場』は150ページほどの短い作品です。文体も読みやすく、一気に読めてしまいます。そんな読みやすい作品でありながら驚くほどのエッセンスが凝縮されています。
『一九八四年』は大作ですし、内容的にも読むのが大変なのも事実。挫折された方も多いかもしれません。そういう方にはぜひこの『動物農場』をおすすめしたいです。もちろん、『一九八四年』とセットで読むのがベストですがこの一冊だけでも衝撃的な読書になること請け合いです。
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2 オルダス・ハクスリー 『すばらしい新世界』
ディストピア小説といえばオーウェルの『一九八四年』が有名ですが、この作品はなんと、その17年も前に発表された作品です。1932年の段階でこの作品が書かれたことにまず驚きました。
そして『一九八四年』が徹底した管理社会の構築によって完成された暗い世界を描いているのに対し、ハクスリーの『すばらしい新世界』ではそんな暗さがありません。そこに生きる人たちはあくまで「幸福」であり、『一九八四年』のような徹底した監視すら必要ないのです。ここが大きな違いなのですが、不気味な「幸福さ」とその幸福がいかにして出来上がっているかに私たち読者は恐怖や違和感を覚えることになります。
ディストピア小説の元祖であり、SFファンのみならず全ての人におすすめしたい1冊です。『一九八四年』は読んでいてかなり辛くなりますが、この作品はそこまでどぎついものではありません。(とはいえかなり考えさせられますが・・・)
『一九八四年』に挫折した人でも読みやすい作品となっています。
幸せとは何か、ユートピアとは何か、もしソーマという苦しみを忘れられる魔法の薬があったらどうなるのだろうか、それをはたして自分は使うだろうか、仮に使ったとしてすべての苦しみを忘れて忘我恍惚状態になることが人生と言えるのだろうか、などなど思うことはそれこそ無数に出てきます。『一九八四年』もものすごく頭がフル回転になる作品ですがそれとはまた違ったフル回転をこの作品ではすることになります。
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3 レイ・ブラッドベリ 『華氏451度』
SFものが続いていますがこれもぜひおすすめしたい逸品です。
先に申し上げておきますが、この本はものすごいです・・・!前半部分はその世界観に入り込むのが難しく、読むのが辛かったのですが中盤くらいから一気に引き込まれてしまいました。そこから怒涛のように読み耽り、読み終わった瞬間には放心状態になるほどでした。しばらく何もできないくらいの読後感です。これほどまでの読後感は久々でした。それこそ、真っ白。完全にこの作品に憑依されてしまったかのような感覚でした。
私たちが日々摂取している情報とは一体何なのか。本とは何を私たちにもたらすのか。テクノロジーの進化で簡単に情報にアクセスできる一方、その弊害は何なのか。
これらが明快に語られます。私はこれを読んで心底恐ろしくなりました・・・1955年に発表されたこの作品があまりに現代を的確に言い当てていることに戦慄を覚えました。これは今を生きる私たちに対しての警告です。絶対に知っておいたほうがいいです。
この作品の読後感は異常でした。ここまで真っ白になったのは久々かもしれません。
ただ、この作品の前半部分は正直、あまり面白くはありません。この作品が好きだからこそあえて厳しめに言います。ただ単にSF特有の世界観がわかりにくいというだけならまだいいのですが、それに加えて話が冗長だったり、言葉のやりとりも私にとっては合わない感覚でした。これは私個人の感覚ですのでそうではない感想を持つ方もたくさんおられると思います。ただ、この作品の前半部分で挫折してしまった人が多いのではないかと私は思うのです。私自身、何度読むのをやめようと思ったことか・・・
ですが中盤くらいから一気に物語が面白くなってきます。そうなったらもう止まりません。驚くほどこの作品に没頭してしまいました。前半部分をなんとか乗り切ればその後は恐ろしいほどの面白さです。ですので、なんとかあきらめずに、前半は流し読みでもいいのでとにかく中盤まで進んで下さい。そうすればきっとこの本の面白さが伝わってきます。正直、別の人が書いたんじゃないかというくらい、私の中でがらっと印象が変わりました。
この作品は『一九八四年』、『すばらしい新世界』と並ぶSFディストピア小説の傑作です。ぜひ手に取ってみてはいかかがでしょうか。非常におすすめです!
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4 バルザック 『ゴリオ爺さん』
さあいよいよフランス文学に突入しました。フランス文学というと難しそうに思えるかもしれませんが大丈夫です。安心してください。この『ゴリオ爺さん』、タイトルはあまりに無骨で重そうですがところがどっこい、とんでもなく面白い作品です。サマセットモームが世界の十大小説に選んだ理由がよくわかります。
この作品の主人公ラスティニャックは弁護士になるために華の都パリに上京してきました。
しかしそこで地道に勉強してもどん詰まりであることを感じます。
もっと手っ取り早く成功するにはどうしたらいいのか。そういう考えがやがて彼の頭を占めるようになります。
ここからはフランス文学者鹿島茂氏の『フランス文学は役に立つ!』を参考にしていきます。
ラスティニャックは、社交界の有力夫人の後ろ盾がありさえすれば無一文の青年でも政界で出世できるという王政復古期特有の風潮に目をつけ、親戚のボーセアン子爵夫人のコネを頼りに社交界に入り込もうとしますが、しかし、ラスティニャックには見栄を張ろうにも軍資金がありません。そのため、泥で汚れた靴をレストー伯爵夫人の召使に馬鹿にされ屈辱を味わいます。
こうした欲望の水準が急上昇した時代に欲に駆られる人をうまく利用してやろうと待ち構えていたのが脱獄徒刑囚ヴォートランです。ヴォートランはラスティニャックが「いきなり」出世したい欲望に身を焦がしているのを見ると、巧みに言いよって、自分の仲間に引き入れようとします。そのときヴォートランがラスティニャックを説得するために使った論法は要約すればショート・カット人生の勧めですが、このショート・カット人生を狙う若者の大量出現こそが大革命の最大の産物なのです。
「もし、君がてっとりばやく出世したいんなら、すでに金持ちか、少なくともそう見えなくちゃいけない。金持ちになるんだったら、このパリじゃ、一か八かの大バクチを打ってみるに限る、さもなきゃ、せこい暮らしで一生終わりだ。はい、ご苦労さん」
ラスティニャックはこのヴォートランの誘惑に負けそうになり「ぼくに、何をしろというんです?」と尋ねるところまでいきますが、偶然が作用して、間一髪のところでヴォートランの魔手から逃れます。(中略)
大革命で既成の社会システムが崩壊し、「金がすべて」となった世の中で、自分だけしか恃むもののない青年が、悪魔に魂を売り渡すことなく、社会と闘うにはどうしたらいいかという近代的テーマをとりあげた記念碑的作品。ラスティニャックは「やりたいことをやり、いきなり有名になって大金持ちになりたいが、面倒くさい努力は嫌いだ」という現代的青年のプロトタイプで、以後、フロべールも、モーパッサンも、ゾラも、自分なりのラスティニャックを造形しようと腐心することとなります。
ラスティニャックは手っ取り早く出世しようとします。しかしそれは人を騙し裏切る権謀術数の世界に入ることを意味します。そしてそれは恋すらも利用してのし上がろうというものでした。
ヴォートランの言葉はまさしく悪魔的です。ここでは記事の分量上ご紹介できませんが、「善とは何か悪とは何か、この世の現実とは何か」とものすごい迫力で彼に迫ります。「美徳なんて捨ててしまえ。人間を軽蔑しろ。法律の抜け穴を探せ。どうせ君はこれから人を騙し、罪を犯す。せいぜい血を流すか流さないかの違いだろう。それだって立派な殺人さ」とたたみかけます。
そしてそれに必死に抗おうとするラスティニャック。彼は一体どうなってしまうのか。これが『ゴリオ爺さん』の主題です。
いかがでしょうか。なんだか面白そうな気がしてきますよね。バルザックはどす黒い人間の本質や社会の仕組みをこれでもかと暴露します。悪の指南役ヴォートランの言葉はまさに戦慄ものです。人間とは何か。人間心理の奥底を知りたい方にぜひおすすめしたい名著中の名著です。
フランス文学者鹿島茂先生のフランス文化の解説書と共に読むともっと楽しめます。以下の記事でそれらの本をまとめていますのでぜひこちらもご参照ください。
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5 チェーホフ 『六号病棟』
ロシアの文豪チェーホフによる名作中編『六号病棟』。これがまたすごいんです・・・!
まず皆さんにお伝えしたいことがあります。
それは「この作品があまりに恐ろしく、あまりに衝撃的である」ということです。
この作品はチェーホフ作品中屈指、いや最もえげつないストーリーと言うことができるかもしれません。
院長がいつの間にか精神病者にさせられて病院を首になり、あまつさえ精神病棟に放り込まれそこで死を迎えるというあらすじを読むだけでもその片鱗が見えると思いますが、作品を読めばその恐ろしさがもっとわかります。その辺のホラー映画を観るより恐いかもしれません。
ただ、この恐さと言うのが「ホラー映画的な恐怖」ではなく、人間の本性、そして自分自身の虚飾を突き付けられるような怖さです。
この作品を読むと「え?じゃあ自分って何なんだ?この院長や精神病者と何が違うんだ?正気と狂気の違いって何だ?ずるく生きる人間に利用されるしか私の道はないのか?……暴力の前ではすべては無意味なのか?」などなど様々な疑問が浮かんでくることでしょう。
この作品はチェーホフどころか、最近読んだ本の中でも特に強烈な印象を私に与えたのでした。これはもっともっと日本で広がってほしい作品だと私は思います。
チェーホフはとにかく面白い!「ロシア文学で何をおすすめしますか」と聞かれたら私は「チェーホフ!」と即答するでしょう。短い作品の中で繰り広げられる見事な人間模様には驚愕するしかありません。ぜひおすすめしたい作品です。
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6 カレル・チャペック 『ロボット(R・U・R)』
チェコの作家と言えば『変身』で有名なフランツ・カフカを連想すると思います。
ですがチェコにはものすごい天才がもう一人いたのです。それがここで紹介するカレル・チャペックという人物です。
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「好きな本は何ですか?」と聞かれて「チャペックの『ロボット』!」と答えたらそれだけでものすごいインパクトです。少なくとも私は「おぉ!この人は何者か!と一目も二目も置いてしまいます。チャペックもカフカと同じようにユーモア溢れる風刺で世の中を斬っていきます。
ここで紹介している『ロボット』のあらすじは以下の通りです。
ロボットという言葉はこの戯曲で生まれて世界中に広まった。舞台は人造人間の製造販売を一手にまかなっている工場。人間の労働を肩代わりしていたロボットたちが団結して反乱を起こし,人類抹殺を開始する。機械文明の発達がはたして人間に幸福をもたらすか否かを聞うたチャぺック(1890-1938)の予言的作品。
1920年にしてすでにロボットをテーマにしたSF小説が存在していたということに私はまず驚きました。そしてそもそも「ロボット」という言葉自体がこの作品によって生み出され世界中に広がっていったというのも驚きでした。
私はカフカ作品も好きですが、正直、このチャペックには参ってしまいました。『ロボット』はもっともっと世に知られてもいい作品です。ジャンルは違いますが『変身』と比べてもまったく遜色ないくらい素晴らしい作品だと思います。
いや~いい本と出会いました。
ぜひぜひおすすめしたい作品です。絶対後悔しないと思います。それほど面白いです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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7 シェイクスピア 『オセロー』
シェイクスピアと聞くと難しそうだったり固いイメージを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ですが、シェイクスピア存命当時は上流階級から下層階級までひとつの劇場に集まり、わいわいがやがやしながら彼の演劇に大笑いしていたのです。つまり、現在の演劇やお笑いの楽しみ方と全く同じだったのです。私たちが好きな舞台を観に行ったり、気楽にお笑いを観に行くようにシェイクスピア作品は楽しまれていたのです。
そう考えると敷居が下がってくるように感じませんか?
実際シェイクスピア作品はものすごく面白いです。外国作品特有の名前の覚えにくさはあるかもしれませんがそのストーリー展開や心理描写は超一級品です。ま~面白い!
特にここで紹介したオセローはそのドラマチックさ、読みやすさで群を抜いています。
今作の主人公はオセローというアフリカ系の将軍です。
彼は戦で類まれなる武勇を示し、その地位まで出世しました。そしてそれだけでなく高潔で真っすぐな性格で人望の厚い将軍です。
そんな将軍が妻として迎えたのが美しきデズデモーナという由緒ある貴族の娘でした。デズデモーナとオセローはなかば駆け落ちに近い形で結ばれます。そんな強い愛によって結ばれていたはずの2人ですが、イアーゴーというオセローの側近の策略によって引き裂かれることになるのです。
イアーゴーといえば『アラジン』のオウムのキャラクターを思い浮かべる方も多いかもしれません。そのイアーゴの名前の元になったのがこの『オセロー』のイアーゴーなのだそうです。
というのもこの作品のイアーゴーはとにかく口が上手くて人を騙すのが驚くほど巧みです。彼の人を騙す能力は読んでいて末恐ろしくなるほどです。
この作品はオセローが主人公ではありますが、実はイアーゴーの方が出番が多く、しかも生き生きと描かれます。イアーゴーがタイトルでもいいくらい彼の奮闘ぶり、策の鮮やかさが描かれています。
そうしたイアーゴーの悪役っぷりもこの作品の大きな見どころです。『アラジン』のイアーゴもそうですが、人を騙す悪役ではあるのですがなぜか憎めない不思議な魅力があります。そんなイアーゴーの立ち回りもぜひ楽しんでみてください。
個人的にこの作品は大好きな作品です。人間の狂気、混沌を覗くかのような感覚を味わうことが出来ます。シェイクスピア作品でも屈指のおすすめ作品です。
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8 ダンテ『神曲 地獄篇』
『神曲』といえばイタリア古典の最高傑作と知られる作品です。正確には小説ではないのですがぜひこの作品はおすすめしたいです。
と言いますのも、この作品で説かれる地獄の描写がとにかく面白いのです!
『神曲』では地獄が階層状に描かれます。下へ行けば行くほど罪の重い人間が置かれていて、上のリストにもありますように、それぞれの罪状に応じて地獄の責め苦を味合わされることになります。
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基本的には物理的な方法で身体を痛めつけるのが地獄の責め苦のパターンになります。火で炙られるというのも『地獄篇』ではたくさん出てきます。
ですがこの作品を読んでいて驚くのは、時にユーモアが感じられるような刑罰が存在しているという点です。
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これは第八の圏谷(たに)の第三の濠(ほり)なのですが、ここでは聖職売買を犯した罪人が罰せられています。穴の中に逆さまに埋められ、地表に出た足が炎に焼かれているのがこの罪人たちなのですが、挿絵で見てみるとなんとも間抜けなようにも思えてしまいますよね。
たしかに穴の中に逆さに埋められ足を延々と焼かれるというのは想像を絶する痛みを伴う責め苦でしょう。ですがどうも恐怖を感じさせない何かがあるのです。挿絵の影響も大きいのでしょうが、本文を読んでいてもどこかユーモアと言いますか皮肉めいたものが感じられます。聖職売買を犯した罪人たちへの怒りや嘲笑をダンテはここで暗に込めようとしていたのかもしれません。
『神曲』では他にも不思議な責め苦が語られるのですが、この作品で私が最も驚いたのは地獄の最下層の描写でした。
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悪魔大魔王が控えるこの地獄の最下層なのですが、なんと!この場所は氷漬けの世界なのです!
私たちのイメージからすると地獄といえば燃え盛る炎のイメージがありますよね。
ですが『神曲』では違うのです。ここはキンキンに冷えた氷の世界で、罪人たちは全身を凍らされて苦しんでいるのです。
私が『神曲』を初めて読んだのは大学三年生の頃でした。今から10年以上も前です。ですがこの地獄の最下層の氷漬けの世界を初めて目にした時の衝撃は今でも忘れられません。
「キリスト教の地獄の一番底は氷の世界なのか!仏教と真逆じゃないか!」と私は仰天したのです。
日本の地獄と比較しながら読んでいくのはものすごく面白いです。14世紀初頭に書かれたとは思えない想像力豊かな作品です。翻訳も易しく、とても読みやすいです。時代背景やキリスト教知識があればより楽しめますが、それがなくても十分すぎるほど面白いです。〈中級編〉で紹介出来るほど読みやすい作品ですのでぜひこれはおすすめしたいです。
ちなみにですがこの『神曲』には続編の『煉獄篇』と『天国篇』もあるのですが先に進めば進むほど面白さが減じていくと残念な構図になっていますのでまずは『地獄篇』だけでも全く問題ないと思います。この『地獄篇』だけでも十分成立していますので安心して楽しんでみて下さい。
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9 サマセット・モーム 『昔も今も』
私がこの作品を読んだのは、高階秀爾著『フィレンツェ 初期ルネッサンス美術の運命』という本がきっかけでした。
この本では15世紀にルネッサンス全盛を迎えたフィレンツェの政治情勢やイタリア全体の時代背景を知ることになりました。
ルネッサンス芸術の繁栄はイタリアの独特な政治情勢に大きな影響を受けていて、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロもまさに各国間の政治的駆け引きの道具として利用されていたということに私は驚くことになりました。
そしてそのまさに同時代に生きていたのが『君主論』で有名なあのマキャヴェリだったのです。
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『君主論』はマキャヴェリズムという言葉があるほど有名な作品ですが、この本自体はなかなかに読みにくく、手強い作品となっています。私も以前この本を読もうとしたのですが前半で挫折してしまいそのままになっていました。
ですがこの『フィレンツェ 初期ルネッサンス美術の運命』を読んでから改めて『君主論』を読むと、全く別の顔を見せるようになったのです!とにかく面白いのなんの!時代背景がわかってから読むと、マキャヴェリの言葉がすっと入ってくるようになったのです。
そうなってくると『君主論』のモデルともなったチェーザレ・ボルジアという人物が気になって気になって仕方なくなってきました。世界中を席巻することになった『君主論』のモデルになるほどの人物ですから、とてつもなく巨大な男に違いません。これはぜひもっと知りたいものだと本を探した結果出会ったのが本書『昔も今も』でした。
先に申し上げますが、この本はものすごく面白かったです!極上の歴史小説です!これはいい本と出会いました!
2人の天才、マキャヴェリとチェーザレ・ボルジアが織りなす濃密な人間ドラマ!そして彼らが生きたイタリアの時代背景も知れます。ドラマチックなストーリー展開の中に『君主論』を思わせる名言が出てきたり、人間臭いマキャヴェリの姿も知れたりと非常に盛りだくさんな作品となっています。
1500年近辺のイタリア、ヨーロッパはまさしく日本の戦国時代のような戦乱の世です。私たち日本人にとって戦国時代の歴史小説や大河ドラマには胸熱くなるものがありますが、この小説はまさにそのヨーロッパ版と言うことができましょう。歴史ものが好きな方には激アツな作品であること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい名作です。
ローマ・フィレンツェに関するおすすめ本も以下の記事で紹介していますので興味のある方はこちらもご参照ください。
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10 アンナ・ドストエフスカヤ 『回想のドストエフスキー』
ロシアの文豪ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など、読書界隈ではラスボス的な存在としてよく知られる大文豪です。
私はドストエフスキーが大好きです。ですが、正直ドストエフスキー作品を万人に薦めたいかと言われるとそうではありません。彼の作品はかなり癖があり、ボリュームもとてつもなく大きいです。〈上級編〉でいよいよ紹介はするものの、「条件付き」でのおすすめになります。それほど厄介な存在でもあります。
ですがドストエフスキーという人物そのものは「現実は小説よりも奇なり」を地で行くとてつもないスケールの人間でした。彼の人生そのものが並の小説よりもはるかに面白いのです。
そんなドストエフスキーを最も近くで支えたのが彼の妻アンナ夫人です。そしてその彼女がドストエフスキーとの結婚生活を回想して書いたのが本作『回想のドストエフスキー』になります。
正確にはこの作品は小説ではありませんが、アンナ夫人の一人称で書かれた伝記小説のように読むことができます。まあこれが面白いのなんの!正直ドストエフスキー作品そのものより圧倒的におすすめしたいほどです。
私はアンナ夫人のこの作品を読んだからこそドストエフスキーを心の底から好きになりました。
ギャンブル中毒で妻を泣かせ続けたダメ人間ドストエフスキー。
愛妻家ドストエフスキー。
子煩悩ドストエフスキー。
最高のパートナーを得てギャンブル中毒を克服したドストエフスキー。
コーヒーを得意になって碾くドストエフスキー。
様々なドストエフスキーをこの作品で見ることになります。
私はドストエフスキーとアンナ夫人のドラマチックな結婚生活が好きで好きでたまりません。
そしてこの二人の出会いは運命だとしか思えません。このことについては「(14)ドストエフスキーとアンナ夫人の結婚は運命だとしか思えない~なぜアンナ夫人は彼を愛し、守ろうとしたのか」の記事でもお話ししましたが、まさに彼ら二人の出会いは運命としかいいようのないものでした。
そんな運命の出会いからの二人の苦悩と復活にも私はいつも胸が打たれます。ドストエフスキーは本当に幸運な人間だと思います。アンナ夫人という伴侶がいなければ彼の人生はまさに破滅だったことでしょう。
ドストエフスキーは巨大な人間です。彼は並の人間ではありえない、とてつもないスケールの人生を生きました。彼は何事も極端まで行かなければ気が済まない人間でした。彼の生涯は私たちに「世界の大きさ」を開いてくれます。
ドストエフスキー夫妻の結婚生活はまさに巨大なスケールで語られた一つの作品にも等しいと言えましょう。
私はこの人生の旅に大いなるドラマを感じました。こんなに劇的で感動的な旅があるでしょうか。
私はドストエフスキーが好きです。ですが、何よりも「アンナ夫人といるドストエフスキー」が好きです。
私はその思いが高じるあまり、2022年に2人のゆかりの地を訪ねてヨーロッパを旅しました。
ドストエフスキーと言うと「うっ」と一歩引いてしまう方も多いと思いますが、彼の作品ではなく彼の生涯が書かれた超一級の物語なら読めそうな気がしませんか?正直、並の小説より圧倒的に面白いです。ドストエフスキーに関心の無かった人こそぜひ読んでみてほしい作品です。え?こんな人だったの?どびっくりすること間違いなしです。一つの小説作品としてこの作品はぜひぜひおすすめしたいです。
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おすすめ小説〈中級編〉まとめ
〈入門編〉と比べると一気にレベルアップしたように感じるかもしれませんが、どの作品も読みやすさという点ではそこまで難しいということはないと思います。
これらの作品を読むことで当時の時代背景や人々の思想や生活も知ることができます。自分たちの生きる世界とは全く異なる世界をここにいながら知ることができるのが本のありがたいところです。
ここで紹介した本を通してさらに様々な本へと繋がっていってくれたならば私としては最高の喜びであります。
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【上級編】はこちらへ↓
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