
パリの下水道博物館を訪ねて~レミゼファンにぜひおすすめしたい穴場!
今回のパリ散策において、マニアックながらもぜひおすすめしたいスポットがある。
それが今回ご紹介するパリの下水道博物館だ。
華やかで美しい都パリのもうひとつの姿、それが悪臭と汚物まみれのパリだった。
18世紀から19世紀にかけてのパリは当時世界で最も繁栄していた街の一つだった。だが同時にその繁栄による負の側面も尋常ではなかったということも見逃すことはできない。
以前当ブログでもアラン・コルバン著『においの歴史[嗅覚と社会的想像力]』という本を紹介したが、この本で語られることはあまりに衝撃だった。
この本では当時のパリがどれだけ汚く、強烈な悪臭で満たされていたか、そしてそこから時代を経てどのような公衆衛生対策が取られていったのか、また市民がにおいについてどのような感情を抱いていたのかを詳しく知ることができる。
この本はかなり強烈だ。パリが世界で最も汚く悪臭で満たされた街だったという、恐いもの見たさを刺激するような本と言ってもいい。
香水の文化が発展していくのもこうした背景があり、文化とにおいが結びついていく過程がとても興味深かった。
異常なほどの清潔好きである日本人にあって、こうした海外の衛生事情を知ることは間違いなく面白いことだろう。ただ、憧れのパリのイメージを壊したくない方は無理して読むものではないかもしれない。
さて、そんな「汚物まみれのパリ」という衛生上危険すぎる街だったこのパリも、19世紀後半以降一気に様変わりする。そのきっかけとなったのがナポレオン三世によるフランス第二帝政だ。彼は「パリ大改造」という現在の美しいパリの街並みを作った大事業を一気に進めたのだ。
彼のなした大事業については上の記事でお話ししたが、こうして新しい道路や建物だけではなく、公衆衛生改善のためにも新たな下水道の整備が進められていったのである。
パリにはこれ以前にもたしかに下水道はあった。だがそれは次から次へと付け足される形で無計画に作られ、もはや中の構造がどうなっているかほとんどわからない迷宮のような状況となっていた。そしてそんな状況を利用して無法者たちが住みついていたという歴史がある。『レ・ミゼラブル』のテナルディエもだからこそそこに潜伏していたのだ。
そして我らがジャン・ヴァルジャンはというと、まさにそんな恐るべき魔宮、パリの下水道を踏破したのだった。

こちらが下水道博物館の入り口。想像していたよりはるかにきれいで現代的。

階段を下っていくと実際に下水道として使われているエリアに入っていく。

いよいよ下水道博物館が始まる。ジャン・ヴァルジャンが歩いた地下世界を感じることができるだろうか。

下水道博物館の名前の通り、ここには下水道についての様々な展示がなされている。下水道の中ということでにおいがきつくないか不安だったのだが、入ってすぐの段階ではそれほどの悪臭は感じなかった。

水が流れているエリアまで来るとさすがににおいを感じる。湿気がある分余計そうなのだろう。でもこのにおい、どこかで嗅いだことがあるぞ・・・そう、有楽町の高架下の居酒屋のトイレのにおいだ。あの独特の下水のにおい。
というわけでそれくらいのにおいならばなんとか問題なく過ごすことができそうだ。さすがに悪臭でどうにもならなくなるほどの場所を博物館にはしないだろう。かなり安心した。もしにおいが服についてしまったらとものすごく心配していたのだ。

思っていたより長い距離を見せてくれることに驚いた。水が流れる音とダクトのゴーっという音が響く。

このエリアまで来ると水がかなり濁っているのが目に見えてわかる。においも多少きつくなる。絶対に落ちたくない。だが、ジャンバルジャンは手負いのマリユスを背負ってこれの何百倍も汚い下水の中を進んでいったのだ。信じられない・・・

ここから先は立ち入り禁止と。誰が行くものかと笑ってしまった。

これまで歩いてきたところはライトで明るく照らされていた。でもよくよく考えれば当時の下水道では電気などもちろん全く存在しない。この写真では少しだけライトで照らされてはいるものの、ここから先の正真正銘の下水道はこうした真の暗黒が広がっている。しかも写真では伝わらないが水の音がかなり激しくてそれが恐怖を何倍にも膨らませる。
こんなところを光もなしで道もわからないままジャン・ヴァルジャンは歩き続けたのだ。しかもかつての下水道だからその環境の劣悪さはこの比ではない。それでもジャン・ヴァルジャンはここから生還したのである。私はこの下水道博物館に来て、ジャン・ヴァルジャンの怪物ぶりに改めて驚くしかなかった。
ミュージカルの舞台上で見る下水道のシーンにはもちろんこのような不潔さやにおいも存在しない。だが、こういう場所をヴァルジャンは歩いたのだという感覚をここに来て感じることができた。次にミュージカルで観た時にどんな感覚を受けることになるか私も楽しみである。
レミゼファンはもちろん、そうでない方にもここ下水道博物館はパリの穴場としてぜひおすすめしたい。華やかなパリではなく、ダークな別側面からパリを体感できる魅力的なスポットであることは間違いない。
今回の記事は以前当ブログで紹介した以下の記事を再構成したものになります。
この記事ではさらに詳しいレミゼと下水道についての解説や、レミゼゆかりの地リュクサンブール公園、『レ・ミゼラブル』の作者ユゴーの家、ヴァルジャンが葬られたペール・ラシェーズ墓地も紹介しています。
ぜひ上の元記事もご参照頂ければ幸いでございます。
以上、「パリの下水道博物館を訪ねて~レミゼファンにぜひおすすめしたい穴場!」でした。
次の記事はこちら
前の記事はこちら
関連記事