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本好き僧侶が選ぶ!おすすめドストエフスキー小説7選!

今回の記事ではロシアの文豪ドストエフスキーのおすすめ作品を紹介していきます。


フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

あのトルストイと並ぶロシアの文豪、ドストエフスキー。

ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼の作品は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。

私は2019年よりほぼ4年間「親鸞とドストエフスキー」をテーマにブログを更新してきました。私がなぜここまでドストエフスキーに心惹かれたかについては「なぜ僧侶の私がドストエフスキーや世界文学を?」記事一覧~親鸞とドストエフスキーの驚くべき共通点」のまとめ記事でお話ししていますのでこちらを参照して頂きたいのですが、やはり私にとっては『カラマーゾフの兄弟』との出会いが大きかったです。

私はドストエフスキーの稲妻に撃ち抜かれてしまいました。それ以来私の中でドストエフスキーはあまりに大きな位置を占めるようになったのでした。まさに私の僧侶としてのあり方の根本にドストエフスキーがいるのです。だからこそ私はドストエフスキーを学び続けたのでありました。

さて、前置きはここまでにしてドストエフスキーに魅せられたそんな私がおすすめする作品をこれより紹介していきたいと思います。

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『死の家の記録』(1860-1862)~シベリア流刑での極限生活を描いた傑作!

『死の家の記録』はドストエフスキー作品の中で私が最もおすすめしたい作品です。入り口としてはこの本が読みやすさ、分量、ドストエフスキーらしさを感じる上でベストなのではないかと思います。

ドストエフスキーは1849年に社会主義思想サークルに出入りしていたため思想犯として逮捕され、極寒のシベリア、オムスク監獄へ流刑となってしまいました。

彼は12月24日、氷点下40度にもなる極寒の中、馬車で連行されていきました。オムスク監獄に着いたのはなんとそのおよそ1カ月後の1月23日でした。

上の本紹介の通り、この作品はシベリアのオムスク監獄での体験を詳細に描いています。

ドストエフスキーといえば、心の奥深くのドロドロをえぐり出すような心理描写をイメージしますが、この作品ではそのような内面描写よりも、主人公の目を通して周囲の状況や他の囚人たちの心理を冷静に分析しているような文体で進んで行きます。

その出来栄えはあの文豪トルストイやツルゲーネフも絶賛するほどでした。

そうした意味で、この小説は他のドストエフスキー作品よりも非常に読みやすい作品と言うことができます。

この作品は心理探究の怪物であるドストエフスキーが、シベリアの監獄という極限状況の中、常人ならざる囚人たちと共に生活し、間近で彼らを観察した手記です。つまり、面白くないわけがありません。

あのトルストイやツルゲーネフが絶賛するように、今作の情景描写はまるで映画を見ているかのようにリアルに、そして臨場感たっぷりで描かれています。読んでいてまるで自分もそこにいるかのような、それほどの迫力をもって描かれています。

物語も展開が早く、次々と場面が動いていくのでページをめくる手が止まりません。

しかもドストエフスキーはそんな中で随所に驚くほどの人間分析をやってのけます。

人間の本質に迫るドストエフスキーの目は、監獄という極限状況の中でさらに研ぎ澄まされているように感じます。

そういう点でこの本はフランクルの『夜と霧』に近い作品と言えるかもしれません。

それほどこの作品は人間の奥底にまで沈んでいく作品であると私は思います。ドストエフスキー作品の中でも特異な位置を占める作品です。後の五大長編の原点ともなる体験をしたのがこのシベリア流刑であり、『死の家の記録』になります。ドストエフスキーの特徴を知る上でも非常に重要な作品です。

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『賭博者』(1866年)~ギャンブル中毒の心理を実体験からリアルに描写

ドストエフスキーの長編作品に入る前にこの中編小説もおすすめです。

この作品はドイツの保養地を舞台に、家庭教師の青年と将軍家の令嬢との病的な恋や、ギャンブルにのめり込む人間の心理をリアルに描いた物語です。

上のあらすじにもありますように、この作品はドストエフスキーが実際に体験した出来事が色濃く反映されています。

その中でも将軍家の大金持ちのおばあさんがギャンブルにはまっていき財産をほとんど失ってしまう有り様や、主人公が異常なツキの下勝ちまくり、圧倒的な興奮で精神がおかしくなる過程は特に印象に残るシーンです。

なぜ人間はギャンブルにはまってしまうのか、そしてギャンブルにはまった人間の心理は一体どのようなものなのか。それをこの作品で知ることができます。この作品はなかなかにえげつないです。

また、この作品の執筆がきっかけとなってドストエフスキーはアンナ・グリゴリーエウナと知り合い、後に結婚することになります。

ちなみにアンナ夫人に対してはドストエフスキーは一切浮気もせず、生涯妻を溺愛していました。晩年になってもドストエフスキーは読んでるこっちが恥ずかしくなるほど奥様に対して愛の言葉を手紙に書き連ねています。

そしてドストエフスキーは結婚後もギャンブル中毒に苦しみますが最後はそれも克服します。こうしたドストエフスキーの私生活の面ともリンクする作品がこの『賭博者』になります。

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『地下室の手記』(1864年)~ドストエフスキーらしさ全開の作品!超絶ひねくれ人間の魂の叫び

この作品は文庫本でおよそ200ページ少々と、ドストエフスキー作品にしては少なめの分量です。ですので手に取りやすい本であるのは間違いないと思います。

そしてドストエフスキーらしさ全開の語り口を堪能できるという点でもこの本は一際存在感を放っています。

人間の心の奥底のどろどろな部分、何が飛び出してくるかわからぬ混沌が地下室人の自意識過剰でひねくれた言葉を通して現れてきます。

たしかに、初めてこの作品を読むと、あまりに独特で奇妙な語り口に度肝を抜かれるかもしれません。しかしなぜか彼の術中に引き込まれてしまうのです。

地下室人は決して世の中の勝者ではありません。彼は世間的には人好きのしないダメな人間です。自分の殻に閉じこもり、周りと合わせることができない孤独な人間です。

でも、だから何だというのです、おれにだって叫びたいことはあるんだと、地下室人は言っているかのようです。

そういう、敗者の哲学、虐げられた人間の反抗とでも言うべき訴えがこの作品には込められているのではないでしょうか。

そう言うと、なんだか難しそうな本かなと思われるかもしれませんが、この小説は難解な哲学書というわけではありません。地下室人のひねくれっぷりがとてつもないだけで、難解というわけではありませんのでご安心を。

あらすじにもありましたようにこの作品は「ドストエフスキー全作品を解く鍵」と言われるほどドストエフスキーの根っこに迫る作品です。

ドストエフスキーらしさを実感するにはうってつけの作品です。

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『罪と罰』(1866年)~ドストエフスキーの黒魔術を体感するならこの作品

『罪と罰』は言わずと知れたドストエフスキーの代表作です。こちらもやはりドストエフスキーの入り口としておすすめしやすい作品であります。

この作品は推理小説的要素、社会風俗画的要素、愛の要素、思想の要素、心理的要素など、とにかく盛りだくさんな小説です。

しかもただ単に様々な要素があるだけではなく、そのひとつひとつがまた深いこと深いこと・・・!

訳者の工藤氏も述べますように「読み進むうちに異常な熱気に感染し、ひきこまれて読み終ると、思わず考えこませられてしまう」、これに尽きます。

主人公ラスコーリニコフの苦悩や様々な登場人物が織りなす物語が尋常ではない迫力で描かれます。

ドストエフスキーがこの小説を書き上げた時、彼の生活はどん底状態でした。

ここでは詳しくお話し出来ませんが、「まるで熱病のようなものに焼かれながら」精神的にも肉体的にも極限状態で朝から晩まで部屋に閉じこもって執筆していたそうです。

もはや狂気の領域。

そんな怪物ドストエフスキーが一気に書き上げたこの作品は黒魔術的な魔力を持っています。

この魔力をなんと説明したらよいのかわからないのですが、とりあえず、読めばわかります。百聞は一見に如かずです。騙されたと思ってまずは読んでみてください。それだけの価値はあります。黒魔術の意味もきっとわかると思います。これはなかなかない読書体験になると思います。

ただ、読書初心者がいきなりこの作品を読むと面を食らうかもしれません。登場人物の名前がややこしかったり、ドストエフスキー独特の語り口に戸惑う方も多いかもしれません。ここから紹介する作品は全てそういう要素があります。

ですが、全く太刀打ちできないような難書かというと決してそうではありません。現代小説と同じような感覚で読み進めることができます。ある程度本を読むことに抵抗のない方でしたら問題なく読めると思います。ぜひドストエフスキーの黒魔術を体感してみてください。

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『白痴』(1868年)~あのトルストイも絶賛!ドン・キホーテやレミゼとの深い関係も

『白痴』は私も大好きな作品です。個人的には『罪と罰』よりも好きかもしれません。

何が面白いかいうと、登場人物ひとりひとりのちょっとした表情やしぐさの描写が驚くほど繊細で、読んでいるこっちの精神にまで何か入り込んでくるような不思議な感覚になります。

また、この作品には次に何が飛び出してくるかわからない緊張感があります。登場人物が皆謎を抱えていて、突発的に状況が動いていくというハラハラな展開です。

そして何よりもムイシュキンという主人公の魅力がこの作品で際立っています。

ムイシュキンはとにかく善良な人間です。そして相手の心の底を見透かし、いつの間にか心を開かせてしまう不思議な力を持っています。

そんな不思議な魅力を持つ彼は作中人物からもキリスト侯爵と言われるほど、美しい人間です。

ですが彼は同時に「白痴」と馬鹿にされたりする癲癇病みの人間でもあります。また、長い間スイスの山奥で療養していたためロシアの人間社会のルールや細かい機微には驚くほど無知です。

つまりロシアにおいて彼は完全に異質な人間であり、月世界の住人のように思えてしまうほどなのです。

ムイシュキン自身もそのことに悩みますがどうしようもありません。

現実世界に馴染めない善良な主人公。それが『白痴』におけるムイシュキンなのです。

キリスト侯爵ムイシュキンがロシア社会に現れたことによって、物語の歯車は動き出します。

彼を中心に繰り広げられる人間の愛や憎しみ、精神の混乱、生きる意味を求めるドラマ。

ここではあらゆるものが複雑に絡み合った物語が進んで行きます。

人間の心の混沌、不確かさ、次に何をしでかすか自分でもわからぬほどの激情。

そして『白痴』のラストは文学史上に残る芸術的なシーンで幕を閉じます。

あの文豪トルストイもこの作品を絶賛し、主人公のムイシュキンについて、

「これはダイヤモンドだ。その値打ちを知っている者にとっては何千というダイヤモンドに匹敵する」と称賛しています。

「無条件に美しい人間」キリストを描くことを目指したこの作品ですが、キリスト教の知識がなくとも十分すぎるほど楽しむことができます。(もちろん、知っていた方がより深く味わうことができますが)

それほど小説として、芸術として優れた作品となっています。

また、この小説の中に登場する『墓の中の死せるキリスト』という強烈な絵画も印象的です。ドストエフスキーは実際にスイスのバーゼルでその絵を見て強いショックを受けています。この絵の恐るべきリアルさは作品中でも大きな鍵となっています。私も2022年にこの絵を実際に見に行きました。その時の体験を以下の記事でお話ししていますのでぜひご参照頂けたらと思います。

『白痴』は『罪と罰』の影に隠れてあまり表には出てこない作品ですが、ドストエフスキーの代表作として非常に高い評価を受けている作品です。これは面白いです。私も強くおすすめします。

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『悪霊』(1871-1872年)~革命家達の陰惨な現実を暴露したドストエフスキーの代表作

『悪霊』はドストエフスキーのヨーロッパ外遊が終わりに近づく1870年から執筆が始められ、1871年7月にペテルブルクに帰還した後も書き続けられた作品です。

4年にわたり祖国を離れヨーロッパに滞在していたドストエフスキーは、改めてヨーロッパ思想に対してその行く先を案じることとなりました。

このままでは祖国ロシアも危ない。愛するロシアがヨーロッパ思想に呑み込まれてしまっては国は破滅に突き進んでしまう。

ドストエフスキーはそんな危機感を募らせたのでありました。

そしてそんな時に実際に起こったネチャーエフ事件という、革命思想を狂信する集団が内ゲバを起こし、メンバーをリンチして殺してしまう惨劇が起こってしまいます。

ドストエフスキーはこの事件と聖書の「悪霊に憑かれた豚が湖に飛び込み溺死する」というイメージを重ね合わせ『悪霊』を執筆していきます。

『悪霊』は『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』と並ぶドストエフスキーの代表作として知られている作品です。

そしてこの作品が抱えている思想問題の深刻さは彼の作品の中でも明らかにトップクラスとなっています。

私が初めてこの作品を読んだ時も、そのあまりの盛りだくさんぶりに体調が悪くなりぐったりしてしまうほどでありました。

ただ、『悪霊』はたしかに重厚な作品ではありますが、決して読みにくいとか難しすぎるというわけではありません。

むしろ、この作品を入口としてドストエフスキーにはまったという方もたくさんいるほどです。

中にはこの作品がきっかけでドストエフスキーに打たれ、その影響で牧師さんになった方もおられます。

この作品が持つ魔力は計り知れません。異様な力を秘めた作品です。

ドストエフスキー作品の最高峰『悪霊』、おすすめです。ぜひこの作品と格闘してみてはいかがでしょうか。

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『カラマーゾフの兄弟』(1879-1880年)~ドストエフスキーの最高傑作!!神とは?人生とは?自由とは?

『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーの晩年に書かれた生涯最後の作品です。

上のあらすじにもありますように、ドストエフスキーは生涯変わらず抱き続けてきた「神と人間」という根本問題を描き、この作品は彼の世界観を集大成したものとなっています。

この作品の最大の山場は上巻の終盤に現れる「大審問官の章」です。一度読んだら絶対に忘れることができないほどの衝撃があります。

『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキー作品の中でも私が最も好きな、そして思い入れのある作品です。

ただ、この作品も万人におすすめできる作品ではありません。分量も上中下巻合わせて1900ページ以上の大作であり、難解な箇所もあります。しかもよく言われるように上巻の冒頭部分がとにかく読みにくいという問題があります。

上巻の前半は忍耐が必要になります。正直に申しまして、前半はプロローグといいますか、中盤からの盛り上がりのための前準備のような内容です。

もしかしたら、ここで挫折してしまう人が大半なのかもしれません。

ですがここを辛抱すると上巻の後半から一気にエンジンがかかってきます。

ここまで辛抱強く読んできた方なら、これまで溜めていたエネルギーが爆発するがごとく一気にドストエフスキーの筆の勢いに呑み込まれていくことになるでしょう。

中巻下巻に入ってもその勢いは止まることはありません。きっと抜け出せなくなるほど没頭すること請け合いです。それほどすごいです。この作品は。

上巻の前半部分さえ突破すれば後はもう怒涛のごとしです。

以下の記事でこの作品についてより深く考察していきますのでぜひご覧になって頂ければと思います。「難しい」「読みにくい」と言われることの多いこの作品ですが、なぜそのように感じてしまうのか、その理由にも迫っていきます。

この作品の背景を知ると、『カラマーゾフの兄弟』がまた違って見えてきます。

『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキー作品の中でも私が最も好きな、そして思い入れのある作品です。

長編小説ということでなかなか手に取りにくい作品ではありますが、心の底からおすすめしたい作品です。

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以上7作品を紹介しました。

他にも個人的におすすめしたい作品に『分身』という中編小説があるのですがここではこれ以上はお話ししないことにします。

この記事は以前当ブログで公開した以下の記事からの抜粋となっています。

この記事では上で紹介したおすすめ作品の他にも、

〇ドストエフスキー作品を読む順番は?
〇おすすめの出版社、翻訳は?
〇おすすめの参考書は?

など、ドストエフスキー作品を読む上でお役に立てる情報を掲載しています。ぜひ参考にして頂けましたら幸いです。

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