見出し画像

本好き僧侶が選ぶ!読書入門におすすめの小説5選


はじめに

読書をいざ始めようと思っても何を読んでよいかわからない。読んでも難しすぎて眠くなる。これは読書入門あるあるですよね。

私は今函館大谷短期大学の非常勤講師を勤めているのですが、学生たちからもよくどんな本をまずは読んだらよいですかと質問されます。

普段読書の経験のない方がいきなりドストエフスキーやトルストイなどの長編小説に突撃するのはあまりに危険。まずは読書の楽しさを知ることから始めることを私はおすすめしています。

というわけで、まずは読書入門として誰でも楽しめる小説、しかも私が自信を持って厳選した名作を皆さんにご紹介します。本は面白いです。そして何より、皆さんの思考能力の糧になります。楽しみながら考える力を養えるのが本の素晴らしい点だと私は信じています。

では早速始めていきましょう。それぞれのリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていきますのでぜひそちらもご参照ください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1 コナン・ドイル 『シャーロック・ホームズの冒険』

「本は普段あまり読まないのですが、そういう私でも読みやすくて面白い小説はありますか」と聞かれた時、私は迷わずこのシャーロック・ホームズシリーズをおすすめしています。

シャーロック・ホームズシリーズ最初の短編集でありながらそのクオリティは折り紙付きです。これからいくつも短編集が出るのでありますが、その中でも今作はベストなのではないかと思うほど面白いです。

その中でも特に好きな事件はやはり『ボヘミアの醜聞』です。まずタイトルからしてとんでもなくオシャレ。訳者の言葉選びのセンスには脱帽です。

そしてこの事件ではあの有名なアイリーン・アドラーが登場します。女性に全く興味のないシャーロック・ホームズですら一目置く才気煥発の絶世の美女です。もちろん恋愛的な意味ではありませんが、あのホームズを出し抜く驚異の機知を持つキャラクターです。

また、この事件で語られるホームズとワトスンの会話が非常に興味深いです。まさにシャーロック・ホームズシリーズの根幹とも言えることがここで語られます。ぜひその会話を紹介したいと思います。

「推論の根拠を聞くと、いつでもばかばかしいほど簡単なので、僕にだってできそうな気がするよ。それでいて実際は、説明を聞くまでは、何が何だかわからないのだから情けない。眼だって君より悪くなんかないつもりなんだがねえ」

「それはそうさ」とホームズは巻きタバコに火をつけて、肘掛椅子にどかりと腰をおろしながらいった。「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ。たとえば君は、玄関からこの部屋まであがってくる途中の階段は、ずいぶん見ているだろう?」

「ずいぶん見ている」

「どのくらい?」

「何百回となくさ」

「じゃきくが、段は何段あるね?」

「何段?知らないねえ」

「そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は十七段あると、ちゃんと知っている。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ。

新潮社、コナン・ドイル著、延原謙訳『シャーロック・ホームズの冒険』2018年第130刷版P12-13

「見る」と「観察する」は決定的に違う!

言われてみるとまさにハッとする言葉ですよね!ホームズの鋭さはこうした「観察力」あってこそのものでした。もう憧れてしまいますよね。

『ボヘミアの醜聞』はストーリーそのものの面白さも抜群ですが、ホームズとワトスンのこのやりとりが聞けるという意味でも大好きな短編です。

またこの短編集では『赤髪組合』や『唇の捩れた男』、『青いガーネット』、『まだらの紐』など有名な短編も収録されています。特に『まだらの紐』は私の中でもお気に入りの事件です。

ひとつひとつの短編はどれも50ページにも満たないのでさくさく読んでいけます。まさに気軽そのもの!

一日一つペースでゆったり読んでいくもよし、一気に読み切るもよし、その楽しみ方は様々です。

読書初心者にも自信を持っておすすめできる名作短編集です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2 星新一 『ボッコちゃん』

この本は日本SFの第一人者星新一によるショート・ショート(超短編)集です。

私が星新一作品を知ったのはSF好きな友人がおすすめしてくれたのがきっかけでした。

そして読み始めてみるとその作品のインパクトに驚くことになりました。

この本の最初は『悪魔』という作品なのですが、なんと、ページ数にしてたったの5ページ!ですがその5ページの中であっと驚くような物語が展開されます。1ページ目から「これからどうなるんだろう」と惹き付けられ、最後には予想外なオチにハッとさせられる。

「おぉ!これが星新一か!」

そう思わずにはいられない、独自な世界観でした。これはすごい! こんな短いページ数であっと驚く展開を具現化する力に私はすっかり魅了されてしまいました。

しかも、面白いのはもちろんなのですが私はそこに「なんか、オシャレだな」という思いまで抱いてしまいました。

この本は『ボッコちゃん』という可愛さすら感じさせる不思議なタイトルですが、いやいや、その作品はものすごくカッコいいです。オシャレです。スタイリッシュです。

ショート・ショートというくらいですからひとつひとつの作品がものすごくコンパクトですので、いつでも気楽に読むことができるのも嬉しいところです。こちらも読書初心者におすすめの作品です。もちろん、玄人の方も唸ること間違いなしのとてつもない名作揃いです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3 アンデルセン 『アンデルセン傑作集 マッチ売りの少女/人魚姫』

アンデルセン童話と言えば誰しもが子供の時に絵本やアニメなどでお世話になった経験があると思います。私もその一人です。メルヘンチックだけれどもどこか切なさを感じさせるストーリーは一度読んだら忘れられない印象を残しますよね。

まずこの本で最初に顔を合わすのは『親指姫』です。この作品もものすごく有名ですよね。私も読んだ記憶があります。

そしていざ読んでみると、すぐに驚くことになりました。

言葉自体は易しいですし、物語もヒキガエル、モグラ、ツバメたちと人間のように言葉を交わす童話的なものです。ですがその物語に何とも言えない奥深さを感じるのです。子供向けだと油断しているとびっくりすることになります。ここ数年私はひたすら本を読んできましたが、それらの本と全く遜色がないくらい、いや、童話として語られているからこそその奥深さがより感じられるような気がしました。

語りもストーリーも易しいのです。ですがそこで親指姫や動物たちの姿を通して語られる人間の心がなんとも言えない味があるのです。これはぜひ読んで頂きたいです。大人だからこそわかる物語の繊細さがあります。大人になって色んな経験をし、人生について様々な思いがあるからこそ見えてくるアンデルセン童話の味わい。

これはぜひおすすめしたいです。私は読み始めてからあっという間に引き込まれてしまい、そこからもう止まりませんでした。一つ一つの作品も短いのでテンポよく読み進めることができるのもありがたいです。

アンデルセン童話は想像していたよりもはるかに奥深い作品です。これは大人だからこそ味わえる絶品でもあります。

これはぜひぜひおすすめしたいです!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。きっと驚くような体験になると思います。この切なさ、繊細な感受性をぜひ味わってみて下さい。本当に面白いです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

4 ひのまどか 『音楽家の伝記 はじめに読む1冊メンデルスゾーン』

本作『音楽家の伝記 はじめに読む1冊メンデルスゾーン』は私が待ちに待った作品でした。

と言いますのも本作の主人公メンデルスゾーンは私が一番好きなクラシック音楽家だからです。(メンデルスゾーンはあの結婚行進曲の作曲家でもあります)

私がメンデルスゾーンと出会ったきっかけはチェコの偉大な作曲家スメタナでした。私は数年前、チェコの歴史を学ぶ流れで本書の著者でもありますひのまどかさんの『スメタナ―音楽はチェコ人の命! (作曲家の物語シリーズ)』を読むことになりました。この「作曲家の物語シリーズ」は現在発刊されている「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」シリーズの前身になります。

このスメタナの伝記があまりに面白く、一気に「作曲家の物語シリーズ」を読んでいった私だったのですが、その中でも一番好きになったと言える人物がメンデルスゾーンでした。そして本作『音楽家の伝記 はじめに読む1冊メンデルスゾーン』こそ、かつて私が読んで感動した『メンデルスゾーン―美しくも厳しき人生 (作曲家の物語シリーズ)』の新装復刊版になります。私はこの本を読んで泣きました。メンデルスゾーンの生涯があまりにドラマチックで感動せずにはいられなかったのです。こんなにもすごい人がいたのかと私は衝撃を受けました。

そして何と言ってもひのまどかさんの語り口の素晴らしさです。

ひのまどかさんの作品は「10歳から読めて、大人にも本物の感動を。歴史上の偉大な音楽家たちの生涯を、物語のように読みやすく」というコンセプトで書かれています。これは言うは易しですがどれほど困難なことか!

ですが、本書はこのコンセプトが見事に体現されています!私はこれまで古今東西、数多くの偉人の伝記を貪るように読んできましたが、ひのまどかさんの伝記は群を抜いたクオリティーです。そしてその中でも最高傑作と言えるのがこのメンデルスゾーンの伝記と言えるでしょう。

私もこの本にあまりに感動したため、母にこの本を貸したことがあります。以前母が入院した時に、「何かいい本があれば読んでみたい」と頼まれたのです。「普段本を読まないけどそれでも面白く読める本を」というリクエストでしたので私は迷わずひのまどかさんの本をチョイスしました。そしてその反応はと言いますと、母も泣いたそうです。そしてその読みやすさに驚いたようでした。

中学校や短大の授業でも読書初心者の人にこそぜひ読んでほしい作品として生徒・学生達におすすめしています。そして彼らからも読みやすくて面白かったと好評でした。

伝記にはある時代、社会におけるその人の生き様、死に様がリアルに描かれます。

偉人達の生き様、死に様を通して学べることは私たちが想像するよりはるかに多いと私は確信しました。

偉人達が置かれた状況は困難に満ち、波乱万丈な出来事がこれでもかと続きます。

天才であるが故に自ら破滅へと突き進んだり、あるいは逆境でもこつこつこつこつ努力を惜しまず、苦労を経て成功を掴むということもあります。

そして突然の病や大切な人の死にもぶつかります。

18世紀、19世紀頃の伝記を読んで気付くのはとにかく病や死が多いということです。大切な我が子を何人も失った作曲家たちの苦しみにも私たちは直面することになります。

そうした桁違いのスケールを持つ偉人達の人生を、栄光と苦悩のどちらも目の当たりにしながら学べること。

そしてそれと共に彼らが生きた時代背景、歴史を学ぶことで私たちが生きる現代世界とは何なのかということも考えられること。

これが伝記の素晴らしい点なのではないかと思います。

読書入門においてこのシリーズに勝るものなしとすら私は感じています。このシリーズは正確には「小説」ではありませんが、「良質な物語を読む」という観点からぜひここに紹介させて頂きました。このシリーズはスメタナをはじめ様々な音楽の偉人を学ぶことができます。

このシリーズについては上の記事で詳しく解説していますのでぜひこちらもご参照ください。

私が読書入門に一番おすすめしたいのがこのシリーズです。ものすごく面白く、そして読みやすいです。きっと皆さんも読めばびっくりすると思います。現在このシリーズはヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスさんから続々復刊されていますので手に取りやすくなっております。

新作として世界の作曲家だけでなく日本の大音楽家についての作品も出ていますのでこちらもおすすめです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

5 芥川龍之介『羅生門』

『羅生門』は1915年に発表された作品で、太宰治の『走れメロス』と同じく学校の教科書でもお馴染みの短編です。

物語の舞台は地震や火事、飢饉などの天災が続いていた京都。ある男が羅生門の下で雨宿りをしています。京都全体が悲惨な状態。食べるものも売るものもなく、仏像や仏具ですら破壊され薪として売られていたほどでした。

そんな有り様ですから羅生門も荒れ果てたまま打ち捨てられ、いつしかここは無法者のたまり場となり、さらには死体置き場になっていました。ある男はそんな羅生門に行きついたのです。

そしてふと羅生門の楼へ上る梯子を見つけ、上ってみると人の気配を感じます。そこで出会ったのが不気味な老婆。なんとこの女は死体から黙々と髪を引き抜き続けていたのでした。

恐る恐る近づき、その理由を問いただしてみると・・・というのが羅生門の大きな流れです。

ま~それにしても芥川の短編技術の見事なこと!羅生門を上り、夜の闇に現れる不気味な気配。そこに何がいるのかと大人になっても変わらず夢中になって読んでしまいます。まるで映画的な手法と言いますか、臨場感がとてつもないです。

この作品で、ある一人の男が悪の道へと踏み出すその瞬間を決定的に捉えた芥川。その微妙な心理状態を絶妙にえぐり出したラストは絶品です。

そしてこの『羅生門』の中でもある一節が私の中でとても印象に残っています。それがこちらです。

どうにもならない事を、どうにかする為には、手段を選んでいる遑(いとま)はない。選んでいれば、築土(ついじ)の下か、道ばたの土の上で、饑死(うえじに)をするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。

新潮社、芥川龍之介『羅生門・鼻』P10

「どうにもならない事を、どうにかする為には、手段を選んでいる遑(いとま)はない。」

この言葉は酸いも甘いも知った大人だからこそ味わえる迫力があります。これは年を取れば取るほどさらに実感される言葉ではないでしょうか。『羅生門』は厳しい。厳しい厳しい世の有り様をこれでもかと見せつけます。この言葉があるからこそこの後の物語がリアルなものとして迫ってくるのです。悪の道へ踏み出すというのはどういうことなのか、まさにそこへと通じていきます。実に素晴らしい。

読書初心者でも読みやすい作品ながら玄人も唸らす傑作です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おすすめ小説〈入門編〉まとめ

まずは「おすすめ小説〈入門編〉」ということで5冊の本を紹介しました。

膨大にある中から厳選しての5冊です。これは自信を持っておすすめしたい作品たちです。

入門編ということで読みやすさ、そしてコンパクトな分量をポイントに選びましたが、その内容も芳醇そのもの。ただ単に読みやすいだけでなく名著として名高い作品をピックアップしたつもりです。

せっかく読むなら名著と呼ばれる作品を読んでほしい。これは私の願いでもあります。世に本はたくさんあれど、真の名著というのはなかなか出会うのも難しいというのが実際のところです。読書に挫折する方は最初から難しい本を選んだり、あるいは相性が悪かったり、さらにはそもそもイマイチな本を選んでしまっている可能性もあります。

最初から難しい本を読める人などいません。誰しもが幼い頃は絵本から始まり、そこから少しずつ少しずつ成長して本を読めるようになっていきます。

「本を読めること」と「文字が読めること」は全く違います。読書は文字が読めるからといってすぐに誰でもできるものではないのです。

大谷翔平選手の球をいきなりホームランできないのと一緒で、本に慣れていない人がいきなりドストエフスキーの大著『カラマーゾフの兄弟』を読んでもそれは厳しい話なのです。何事も順番が大事。無理する必要はありません。じっくりじっくり楽しみながら本を読んでいきましょう。

ここで紹介した5冊はその入り口として最高の作品たちです。楽しみながら力がついてきます。読書力をつけるには良質な物語を読むのが一番です。ぜひこれらの作品をきっかけに読書の道に進んで頂けたら何よりでございます。

では、次の記事では少しレベルアップして中級編の名作たちをご紹介していきます。

おすすめ小説【中級編】はこちらの記事にて

関連記事



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集