見出し画像

名刺代わりの小説10選

 読書が自分の趣味になって、そろそろ4年ぐらいたつ。しっかりと数えていないけど、たぶん千冊は小説を読んできたと思う。その中で、「自分の好みを決定づけたもの」と「自分の好みを加速させたもの」この2つの基準で選んでみました。


◯アステリズムに花束を(SFマガジン編集部)

 私が、百合SFというものに、初めて触れた作品たちです。SFと百合が相性抜群だからこそ、どの短編も面白くできている。
 百合という、とても自由であり、定義が難しいゆえの不安定さを活かした、実験的な短編が多い。だからこそ、私に百合に対しての新鮮で豊富な視点を提供してくれた。
 特に好きな短編は、宮澤伊織氏の「キミノスケープ」と、小川一水氏の「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」が良かった。

◯安達としまむら(入間人間)

 私が知っている中で、百合というジャンルで一番よくできている作品だと思う。そして、私の百合好きを決定づけた小説だ。何に対しても基本的に淡白なしまむらと、しまむらに対して熱心で、しまむら以外には冷たい安達。この二人が織りなす淡々と、かつどこか非日常的な日々が、読んでいてとても心地良い小説だ。
 なにより、淡白な世界に生きているしまむらを、安達が連れ出していくような関係が、とても、とても、尊い。

◯君の話(三秋縋)

 三秋縋氏は、私の本能レベルの癖である。三秋縋氏を理解し、共感し、胸が痛くなるほど好きになれる人に、悪い人はいないと思っているし、ぜひとも友達になりたいと思う。
 そのぐらい、私の好きな作家さんである。
 私の持っている美学は、基本、百合とヨルシカと三秋縋氏の影響をもろに受けていて、好きなタイプと恋愛観も、三秋縋さんの影響を受けに受けている。ほんとに、私の魂に刻まれている作家さんだ。
 その中で、一つだけ小説を選ぶのは、あまりにも難しすぎる。「3日間の幸福」も「いたいのいたいの、とんでゆけ」も「スタンディング・オーヴァー」も「君の話」などなど、ほんとに好きで好きでしょうがない。でも、全部入れちゃうと、流石に枠を食いすぎちゃうので、一番表紙がきれいだと思う、「君の話」を選びました。

◯王とサーカス(米澤穂信)

 私は、米澤穂信氏の作品をすべて読んできたわけじゃないが、この「王とサーカス」が、米澤穂信氏の小説で一番の傑作だと思う。
 ずっと、探偵に対して、自覚的で自罰的な米澤穂信氏が、小説を通して、探偵について書きたかったことを、「王とサーカス」で答えを出して一段落できている。
 小説自体は、ネパールのカトマンズで起きた、王族殺害事件(事実)を、フリージャーナリストになっばかりの大刀洗万智が、事件の真相を調べていくという感じのあらすじだ。 
 カトマンズという日本とまったく違う土地で生きているの人たちと、日本生まれ日本育ちの大刀洗との、どうやっても埋められない溝を書きつつ、それを超えての温かさと、現実的な冷たさを表裏に抱えた、交流を書きつつ、この作品の一番のテーマの「知ることについて」が、多角的な視点をもちいて書かれている。

◯伊豆の踊り子

 私が、初めて読んだ近代文学。読書始めたての頃に、「伊豆の踊り子」という題名と、岩波文庫版の表紙の挿絵に惹かれて買った小説だ。川端康成氏の風景描写は凄まじいと思う。文章のどれをとっても、頭の中にパッととても美しい映像が浮ぶ。
 彼の若々しい感性が、情緒てきな美しさと、切なさがなんとも漂ってきていて、夏になる読み返したくなる小説だ。

◯守り人シリーズ(上橋菜穂子)

 東洋の文化を軸にした、ファンタジー小説であり、大河小説でもある。
 私の好みとして、女性がバリバリのアクションで、カッコよく立ち回っているというものが好きで、その点でバルスは、とても強く、カッコよく、プロフェッショナルで理想的だ。
 そして、守り人シリーズの魅力は2つほどある。
 一つは、バルサという個人の傭兵譚に注目して読んでも、チャグムに注目して国家間の壮大な争いを、歴史小説的な読み方をしても、とても上質な読書体験を得れるという点。
 2つ目は、バルスたちが生きている世界の作り込みがすごく細かいという点だ。世界の形、多種多様な国家、各国の豊かな文化、日々を一生懸命に生きている人達の確かな息遣い。などなど、実際に読めばわかるが、これらの要素の作り込みがほんとに緻密でレベルが高い。
 読書体験という観点だと、守り人シリーズが、今まで読書人生で一番よかった。

◯言の葉の庭(新海誠)

 雨の鬱々しさと美しさをこれでもかと詰め込んでる小説。
 私は、言の葉の庭を読むまで、新海誠氏の作った作品は、映画しか見たことなかったが、この作品で新海誠氏の小説を始めて読んだけど、彼は映画をつくる才能だけではなく、文才もあるのかとびっくりした。普通、映画のノベライズは、そんなに小説としては面白くないと思う作品が多い。けど言の葉の庭は例外だ。
 そして、新海誠氏自体、小学生の頃から密接に楽しいでいるから、間違いなく自分の趣味趣向に、とても大きな影響を与えるいると思う。「君の名は。」なんてもう30回ちかく繰り返し見ている。そのくらい映画も小説も好きな作品たちだ。

◯青がゆれる(雛倉さりえ)

 全体に漂う、青々しくて切ない雰囲気が、とても好きな連作短編集。
 特に「崩れる春」という、女子高生二人が学校をサボって海に行く話がすごく好きで、文章がずっと退廃的な雰囲気が漂っていて、それに思春期特有の、突飛で危なっかしい登場人物の感じが、とても好み。
 私は、自作の小説でこんな雰囲気が出せたらいいなと、いつも思っている。

◯ゲームの王国(小川哲)

 カンボジアの歴史的背景を軸にして、SFと、マジックリアリズムと、ちょっと下品で小気味よい下ネタが、ゲームの王国の魅力だ。
 こう小説は、貧しくても政治が不安定でも、必死に生きているの人たちの話であり、主人公の天才児のムイタックと、彼と対等に渡り合えるソリヤとの愛の物語でもある。
 私が、独裁下の生活を書いた小説が好きになった理由が、主にこの小説のおかげである。

◯15才のテロリスト

 この小説は、私がはじめて読んだ作品であり、一番最初に好きなった作家さんの作品でもある。
 私の読書体験の原点が、この小説であることに、結構誇りを持っている。
 作者の松村涼哉氏自体は、少年犯罪について書く作家さんだ。当然、この小説でも少年犯罪を扱っている。
 私が、この小説を読むまで、少年犯罪について別世界の出来事だと考えていたし、少年法についても、浅い知識のもと懐疑的に思っていた。だが、この小説を読んで少し認識が変わった。そして、松村涼哉氏の著作を読めば読むほど変わっていった。今は、犯罪行為を擁護する気は一切ないが、少年法は必要だなと思っている。
 さらに、この小説は社会派だ。これを読んでから、社会派というジャンルを初めて知ったし、社会派というものがとても好きになった。
 松村涼哉氏は、私の社会的弱者観と社会問題に対する考えの持ち方を、だいぶ教えてもらったと思う。そのぐらい、私にとってこの小説は、大事な一冊である。


 意外と、ダラダラと文章を書いてしまった。
 最後まで読んでくれた人、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?