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[詩]葉桜と墓標
◯葉桜と墓標
散り始めた桃の花。
桃色の小路を抜けた先。
薄紅と若緑を纏った。
桜の木が門をなす。
祖母が眠る寺。
がらんどうな本堂。
木々だけがざわめている。
葉桜に目を伏せて。
祖母に話に行く。
静けさに紛れ。
本堂の横の坂をゆく。
百日紅の木の下。
先祖の墓標の前。
佇んで風を受ける。
髪の靡くさまと空白。
間に漂う何かを思い。
墓標に手を合わせる。
思考の果ての世界に飛ぶ。
祖母に声かけて。
昔日のように空白を吐露する。
懐古的な感情に身を満たし。
空白を埋めていく。
思考が目を覚まし。
風が一陣、頬に当たる。
開かれた目には。
秩父の山稜が映り。
青空が立体になる。
墓地の西には。
甲府盆地と南アルプス。
荘厳な山々に抱かれた。
この地を感じ。
ただ受け入れる。
内に在る美しさを。
私の墓標に託している。
祖母に温かな背を向け。
坂を下ってゆく。
桜が散った。
桃の花が散った。
春の終わりの儚さ。
二本の葉桜を眺める。
風はまだ春を保つけれど。
日差しは初夏を届ける。
それでも内は満たされて。
私の終点を背に。
また小路を歩いていく。
◯ps
こないだ山内マリコ氏の「逃亡するガール」を読んだ。その小説のラストの方に『富山』もとい『地元』に居続ける人が抱く、地元の山に対する素朴な愛について描かれていた。主人公の両親が立山連峰に対して綺麗だねと言ったり、見えなければ残念そうにしていた。それに主人公は共感できず。みたな文章だった。
そこで私は作者は『富山』の象徴に立山連峰を置いたんだなと思った。もっと言えば『地元』の象徴に山を置いたと言える。
私はその場面が好きだ。私も所謂地元住みだが、地元の山をぼーと眺めるのが好きだ。山が綺麗に見えていたら少し幸せな気分になる。私の郷土愛の源泉だと思う。
この詩は甲府盆地を描いていて現住地ではない。でも、甲府盆地は私が生まれて四歳まで育った土地であり母方の祖母の家がある。だから祖母の家に帰るたびに、日没後の南アルプスの空の上の夕焼けと影がかかった秩父の山々に感動している。そんな詩です。