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[詩]牡丹一華の恋

◯牡丹一華の恋
牡丹一華ぼたんいちげが咲いている。
春風になびく黒髪が、目を塞ぐ。
左耳に掛けた朱色のアイデンティティー。
その朱色が、貴方を求める。
正午、制服を纏うまと貴方は同じ香りがする。
澄んだ目と閉じた目。
冷たい風が流れ込む。
耽美的世界たんびてきせかいに連れてゆく貴方。
その無自覚さが恨めしい。
貴方の寂しそうな微笑みから逃れられない。

私は風と血の世界に生きている。
だから、左耳の朱色に惹かれる。
私の欠乏感を満たしてほしい。
不安に揺れて震える手を握る。
さめた目で見つめる。
退廃的世界たいはいてきせかいに逃避する。
あなたがくれた暖かみ。
世界の残酷さで冷却される。
かじむ体を抱きしめて。
退廃的世界の暖に浸る。

落ちた牡丹一華。
春嵐に吹かれたらしい。
貴方が落とした雫はどこにあるの。
わからない、わからない、わからない。
出会いはさよならの意。
人生は、さよならに満ちている。
さようなら、牡丹一華の君。


◯ps
 牡丹一華はアネモネの和名です。
 恋は儚いものだと思います。そして人生はもっと儚いものだと思います。だから、人は儚さに美しさを見出すのです。

花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ

井伏鱒二