もういちどうまれる

 忘れ物を取りに戻って、放課後の学校の廊下を歩いていた。私の足音以外の音がしなかった。私は音を我がものにしたことが嬉しくてタタンタンとステップを踏んだ。だが、音楽室に差し掛かった時、音はふかふかな草むらに吸収されてしまった。そうか、もう夏休みだったとようやく私は思い出した。
 音楽室を扉の小窓から覗くと、中は木々が生い茂り、きらきらときらめく泉があった。私はかつてこの泉で母に拾われた。という考えがほとんど確信をもって去来した。泉の中で私は人間だって魚から進化したんだよと納得した。
 音楽室だからだろうか、木々の隙間を縫って音楽が聴こえる。知らない歌だけど、この歌を歌っている女の子は以前重い精神疾患で自殺未遂を繰り返していたことをテレビで涙ながらに語っていた。友達が好きになったものを好きになろうと頑張っていたのに、複数人の喪服を着た人達にぐちゃぐちゃにされた通学カバン。私は生まれるのではなく生まれなくなるんだと思った。まだ女の子は歌っていた。それが友達の声だったのに、いつまでも私は気づかなかった。

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