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小説の投稿 #8 「In my life」
第三章
メトロポリス
あの広場には、王と幹部らを乗せた車が来た。
よーし、あと少し…
今だ!ボタンを押せっ…。
押せ、早く…。
反応しない…
なんだって。
パーン。
突然、一発の銃声がした。
相手はサーモ・ゴーグルをつけている。
車からは、王等ではなく秘密警察が降りてきた。
お前らが仕掛けた爆弾は、反応しないぞ。
妨害電波だ…。
今なら、見逃してやるが、どうする。
秘密警察の隊長らしき男が言った。
すると後ろから王等が乗った車が来た。
ふっ…。
後ろにも仕掛けてある。
これは、反応するぞ。
なんたって、自ら引き金を引くんだからな…。
王等を乗せた車は、平然と広場を通り抜けた。
なに…!
反応…しない…。
ふひゃハッハッハッハッハッ
切っておいたさ。
隊長は甲高い声で言った。
いつ…いつだ。
いつだって。じゃあ教えてやろう、今さっきだよ。秘密警察の専用車には、センサー付きの爆弾をオートロックし、無効化させる電波を送る機会が備わっている。
無条件降伏を許可しよう。
降伏するかね…。
どうします…?
うーん。
分かった…。降伏だ。
王等の会議は、二日間…。
なんとしても、王直々の許可をえよう。
まだ、終わってない。
秘密警察は、その場を後にした。遅れて爆弾は爆破した。
ああ、まだ終わってない。
なんとしても…。
その頃barでは、不安そうにジョンと麗湖、マスターの三人が、天井を見上げていた。すると、若者たちは店に這入ってきた。
どうだった。とマスターが訊いた。
失敗さ…。
武力でだめなら、会議に乗り込む。
なんだって。
ああ、乗り込むんだよ。
地下の住民を地上へ戻すんだ。
王に直接会う。
それなら、ぼくも行こうか。
ジョン?
でも、あなたが…。
ぼくは、西側世界に、知性の容赦なさを取り戻すため、エンサイクロペディア編纂を任されたひとりでもある。
ぼくも、説得に付き合おう。
お前さん…。
ジョン………。
大丈夫ですよ。
ジョンは何が大丈夫なのか、あまり分からないでいた。
翌日、彼らは会場へ向かった。やはり、シャンペン・スーパーノヴァの調べは色濃かった。
扉の前にいる護衛を抑えろ…。
行くぞ…。
あなた達、ここからは立ち入り禁止ですよ。
分かってる。
2人がスタンガンで、護衛を気絶させた。
中に入り重い扉をあける。
暗い廊下をひたすら歩く。
護衛たちの人数は多くない。
彼らは、スタンガンで護衛たちを気絶させていった。
会議室の前は、警備が重い。
強行突破だ!
若者たちの何人かは、手にスタンガンを持ち、会議室の扉を見張る護衛たちと衝突した。
ジョンとリーダー、そして数名は中に入った。
何だ貴様等は…。
王様、我々は地下の…。
待ってくれ…。
ジョンは、言った。
それより、ぼくから貴方様にお願い申し上げたいことは、メトロポリスを解体して頂きたい。
なんだって。
メ…メトロポリスを解体するだと…。
ええ、お気を悪くする前に……、アゼルト階級の重鎮等は、失礼ながら王様の権力を凌駕しております。王政が、システムが機能していない以上、一度解体し、新たな社会システムを構築すべきかと思います。
それで、解体したとして、今のメトロポリス体制に取って代わるシステムとは、なんだね…君。
王様…聞き耳をもたれなくても…。
いや、是非とも聞こう。
確かにアゼルト階級は、今となってはメトロポリス体制に最も関わっている。
先代から階級どうしの闘争には、わしも手をつけられない。
かつて、西側世界に存在したヨーロッパ諸国の連合組織が行っていた政策、ユーロ・コミュニズム的政策、施行するのは、いかがでしょうか。
王政の様な中央中心的でなく、非中心中心的な民主主義を擁護した共産主義体制…、幾つもの自立した共同体が先ず有り、それぞれ共同体内の人々が知恵を集め、独自の自治を行う、所謂ミュニシパリズムです。
しかし、今のメトロポリスの民は、自立した共同体どころが、個々人でさえ、主体性が欠如している。明らかなシステム依存による影響と、計算可能な社会システムによる没主体化が見られます。
我々は、人間そのものに向き合うべきです。今のメトロポリスは、明らかに民主性に欠けています。かつて、20世紀の社会学者、アンソニー・ギデンズは、民主性には利己的なとのでなく、自立した共同体と自立した個人が、必要だと云いました。
EU体制の復活、それが先ず我々が目指す方向です。ただ、新しい時代に合わせるのではなく、それによって失われたものが何かを考えなければなりません。
王様…、先ずは民の解放そして、メトロポリス解体を承諾して頂きたいのです。
王様、今解体すれば…
分かった。
王様、なりませぬ…。
そうだ、君さっきの書類を…。
ジョンはリーダーに承諾書を出すように言った。
王様、こちらにサインを、お願いします。
王はそれに、サインをした。
そして、2時間後、ラジオ放送でメトロポリス解体と住民の解放を宣言した。
2123年9月4日、メトロポリスは40年の歴史に幕を閉じたのだった。
若者たちとジョンは、barに戻ってきた。
お前さんたち本当にやるとはな。
マスターは、驚いているのか、そうで無いのか、あまり分からない様子で、そう言った。
スタン…!
にゃあ…。
良い子にしてたか…!
その後民は解放され、新たにアトラスという国が建国された。王と議会は、58個の州を設立し、民の住所は、それぞれ一時的に割り振られ、一時的な権力者も決定した。
エンサイクロペディア編纂は、国内で行われた。そして2年後、エンサイクロペディアの第一号が完成した。