司法試験 令和6年 刑事訴訟法 再現答案
はじめに
論理の方向はあらかた再現できている気がしますが、設問2の方が再現度が低いです。
刑事訴訟法
6ページ目の19行目 途中訂正があることを考慮。
設問1
1 Pが本件カバンのチャックを開け、その中に手を差し入れ、その中をのぞき込みながらその在中物を探った行為(以下「本件捜索」とする)は適法と言えるか。
2
(1)所持品検査は、警察官職務法(以下「警職法」とする)2条1項に規定される職務質問の効果を上げるうえで有効な行為であるから、任意処分の範囲内であれば職務質問に付随する行為として許される。
(2)行政警察活動と司法警察活動は流動的であるから、強制処分に当たるか否かの判断も同様に行うべきである。そこで、後述するように「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項但し書き、以下「法」とする)とは、相手方の明示または黙示の意思に反して行われる、重要な権利利益に対する実質的な侵害ないし制約を伴う処分をいう。本件捜索は、「強制の処分」に当たるか。
(3)本件捜索を行うに際して、甲は明示的に反対していた。
(4)本件捜索は、カバンの中身をいちべつする場合と異なり、本件カバンの中身全てを確認するような態様で行われている。これは憲法上明示される「所持品」(憲法35条)に対するプライバシーの侵害と言えるので重要な権利利益に対する侵害と言える。
(5)以上より、本件捜索は強制処分に当たるので違法となる。
3
(1)鑑定書の作成の過程に違法な捜査が含まれているが、このような証拠を裁判で用いることは許されるか。
(2)違法な捜査によって収集された証拠を裁判で用いることは、国民の司法に対する信頼や尊敬を損なうことに繋がり、また、将来の違法捜査の再発防止の観点から問題となる。よって、法1条の観点に照らし、違法な捜査によって得られて証拠を用いることは許されないと思える。しかし、その一方で、証拠を排除することによって然るべき処罰がなされないことになると、かえって国民の信頼・尊敬を損ねることに繋がり、また、違法捜査の再発防止に対して代償が大きすぎることとなって妥当でない。そこで、これらをふまえ、令状主義の精神を没却するほどの重大な違法があり、かつ、将来の違法捜査再発防止の観点から見て、証拠を排除することが相当と言える場合には違法捜査によって得られた証拠を用いることは許されない、と言える。
4
(1)本件捜索は、「捜索」(刑訴法218条1項)にあたるほど、甲のプライバシーを害するものであり、重大な違法がある、と言える。
(2)また、Pは捜査報告書②を作成するにあたって、本件捜索を行なったことについては記載しておらず、このような違法捜査の隠匿は令状主義潜脱の意図を推認させる。よって、本件捜索には令状主義の精神を没却する程度の重大な違法が認められる。
5
(1)証拠の排除相当性が認められるためには、捜査と証拠物の間に関連性が認められる必要がある。
(2)鑑定書を作成するに至った直接の捜査は捜索差押令状に基づいて行われた捜索差押(以下「捜索差押②」とする)である。よって、関連性は乏しい。
(3)たしかに、本件捜索と捜索差押②は両捜査とも、甲を覚醒剤取締法違反で逮捕するために、これに関わる証拠を発見することを目的としているので、目的の同一性が求められ、関連性が一定程度認められる。しかし、捜索差押②は、令状裁判官によって審査され、発布された令状に基づいて行われている。疏明資料のうち、捜査報告書②は違法を帯びるものであるが、捜査報告書①のみで捜索差押を行う正当な理由を判断することができるといえる。これらを踏まえると、本件捜索の違法は、捜索差押②によってきしゃくされる。
(4)また、捜索差押②を行った発端は本件捜索にあることから本件捜索と鑑定書の関連性が相当程度認められるとも思える。しかし、注射器の発見がなくとも、そこに至るまでの経緯をもって捜索差押②を行ったといえ、いずれにせよ覚醒剤は発見されていたと言えるので、なお関連性は認められない、と言える。
(6)よって、排除相当性が認められない。
6 以上より、鑑定書の証拠能力は認められる。
設問2
第1 捜査①の適法性
1 捜査①は令状の発付を受けずに行っているが、適法か。
2
(1) 憲法33、35条で規定される権利利益を制約するに当たり、令状を要求するのは、侵害される権利利益の性質や侵害の程度の大きさに鑑みて、司法による慎重な事前審査し、権利を保護しようと考えるからである。この趣旨は、刑訴法が「強制の処分」と強制処分法定主義及び令状主義を結びつけていることに照らすと、刑訴法197条1項にも妥当するといえる。そこで、「強制の処分」とは、相手方の明示又は黙示の意思に反して行う、重要な権利利益に対する実質的な侵害ないし制約を伴う処分のことをいう。
(2) 喫茶店においては、他人から容ぼうを見られること自体は感受せざるを得ない状況にある、と言える。したがって、そのような状況を写真に撮られたとしても重要なプライバシーに対する制約とは言えない。したがって、重要な権利利益に対する制約は認められない。
(2)よって、「強制の処分」には当たらない。
3
(1) もっとも、強制の処分に当たらない処分(任意処分)であったとしても、何らかの法益を侵害しまたは侵害するおそれがある以上、無制約に捜査できると考えるのは相当ではない。そこで、任意処分は、必要性、緊急性なども考慮したうえで、具体的状況のもと、相当と認められる限度においてのみ許容される。
(2) 甲が受け取った本件封筒には覚醒剤が入っており、この本件封筒は本件アパート2階の201号室(以下、「本件部屋」とする)から出た人物から受け取ったものである。本件部屋の名義人は乙であり、乙には覚せい剤取締法違反の前科がある。そして、乙には首右側に小さな蛇のタトゥーがあることが判明しているので、本件部屋に住んでいるものの首に蛇のタトゥーがあれば、乙である可能性が高く、かつ、本件部屋に住んでいる者が覚醒剤の事件に関わっている可能性も高い。したがって、本件部屋から出てきた者の首を撮影し、蛇のタトゥーが入っているか否かを確認する必要性が認められる。
(3) たしかに、動画は写真と違って、連続的な映像を撮影するものであるから、制約する権利の程度が大きいと言える。しかし、蛇のタトゥーは小さく、首元にあるので、写真による撮影で首元を撮影できるとは限らず、動画でなければタトゥーの存在を確認できない。また、動画の撮影時間も20秒であり比較的短いものであり、覚醒剤に関わる事件は密行性が高いのでなお、撮影の必要性が認められる。
(4) 以上を踏まえると、捜査①は適法である。
第2 捜査②の適法性
1
(1) 捜査②は「強制の処分」に当たるか。
(2) 捜査②の撮影は、2ヶ月、連続して24時間本件アパートの201号室の玄関ドアやその付近の共用通路を撮影し続けたものである。玄関ドアを撮影していることから、玄関内側や奥の部屋に通じる廊下まで撮影されている。部屋の中は、公道上と異なり、他人に容ぼうを見られることはないというプライバシーに対する合理的な期待が存在する。そうであるにもかかわらず、上記態様の撮影をすることは、憲法35条で明示される「住居」への侵入に類似するプライバシー(憲法13条)の侵害であり、私的領域への侵入にあたる。
(3) よって、重要な権利利益に対する実質的な侵害ないし制約を伴う処分と言える。
(4) ビルの所有者や管理会社の承諾を得ているものの、侵害されるプライバシーは本件部屋に住んでいる者のプライバシーであるから、この承諾を持って適法とはならない。
(5) よって、「強制の処分」と言える。
2
(1) 捜査②は、五官の作用によって認識した情報を記録していると言えるので、「検証」(刑訴法218条1項)にあたる。したがって、「特別の定」(刑訴法197条1項但し書き)はある。
(2) しかし、検証は、「裁判官の発する令状」(218条1項、4項)に基づいて行われなければならないところ、本問では令状は発布されていない。
(3) したがって、捜査②は違法である。
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