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W_008 私立中1年数学のカリキュラム
こんばんは。このコンテンツは文章でお送りします。ますひこです。
松本先生のアンケートはご覧になったでしょうか。
【依頼】中1の皆さんにアンケートをお願いします。経緯は次のポストに記します。https://t.co/Z3F9cenH7Y
— 松本亘正 (@matsumoto1116) November 16, 2024
中学受験を経て入学する私立中、周りは良くも悪くも同程度の学力層の生徒となります。
しかし、現実は複雑で、1年もすると明確に上位層・下位層に分かれ、上位層から下位層への移動はあるものの、逆はほとんど見られないこととなります。
このことは、現在ご子息が私立中・高に通われている保護者の方は首是してくださることと思います。
多種多様なカリキュラムが存在する私学において、中1でうまく波に乗れるかどうかはその後の6年間に大きな影響を及ぼすのですが、カリキュラムが多種多様であるがゆえに、なかなか対応が難しくなります。
そこで、いくつかの副業の内容からある程度の数の私立中カリキュラムを把握している僕が、ここでまとめてみたいと思います。
これから受験校を決定する・受験を終えて中1を迎えるにあたりどんな準備をすべきか悩んでいる方には、参考になるものと思います。
偏差値の差
身もふたもないところから入りますが、我々教員が各教科のカリキュラムを組むにあたって,大前提とするものは「入ってくる生徒の質」です。
端的に言うと、「うちの子たちには無理だ」というカリキュラムは作りません。
質という単語を使うことが適切かどうかはわかりませんが、やはりいわゆる「高偏差値」な生徒は、難解な授業内容にも興味を持つ・授業内での作業、練習を終える速度が速い・授業で扱った内容を覚えている割合が高い傾向があります。
例えばユークリッド流の証明を私立中で扱いたいと思った場合、様々なハードルを生徒が超えられるか、という観点があります。
代表的なものは「ロバの橋」です。ユークリッドの言論第1巻命題5,二等辺三角形の両底角が等しいことを示す命題です。
この命題は循環論法を避けるためにある程度複雑なものになっていて、そのうえで証明できることは自明な「両底角が等しい」ということです。
はるか昔から「こんなことしなくてもわかるのに」といわれ、愚か者には取り組む意義が見いだせないことから、愚か者が渡れない橋として「ロバの橋」と呼ばれたそうです。
いくつかの論文でも話題として紹介されるのですが、概略を説明してくれている方を見つけたので残しておきます。
これを授業でやる、というときに、ある程度生徒が成熟していなくては「なぜやるのかがわからない」という反応が多く、また演習としてやらせてみても時間がかかること、さらにせっかくやった内容を次の授業ではきれいさっぱり忘れていることは想像に難くありません。
ここでは極端な例を出しましたし、今の図形指導でこの形に証明するところは寡聞にして聞きませんが、似たようなことがカリキュラムを組み立てるときの前提となります。
この内容をこのスピードで理解してもらうのは、うちの生徒はちょっと厳しい。
となると、教員はゆっくり目のカリキュラムを作ります。
単位数の差
これも非常に大きな問題です。文部科学省によると、標準的な授業時数として、1週間のうち数学は中1:4時間 中2:3時間 中3:4時間をあてるもの、とされています。
これに対して、よく聞く私立中の数学授業時数は
中1:5時間 中2:5時間 中3:5時間
というものがあります。
私立中は進みが早い、と言われることが多いですが、そもそも数学の授業をしている時間が公立より長いんですね。
それであれば、内容の消化が早いのも当然、といえます。
さらに、これまでに聞いたことがある授業時数の多いところで言うと
中1:5時間 中2:6時間 中3:7時間 や
中1:6時間 中2:6時間 中3:6時間 といったところもあります。
公立中が3年で11時間扱うのに対し、これらの中学は中2までで11~12時間扱うわけです。中2までに中学内容が終わるのもごく自然なことであると思いませんか?
けして早すぎるわけではなく、公立並みに丁寧な授業をしてもそれくらいに進むのです。
もちろん優秀な生徒が多い学校であれば、深い内容まで扱うことや、より早い進度で進めることも可能です。
僕個人としては、この一点のみをとっても私立中に入れる意義が出てくるのでは、と感じます。
6年間を共に過ごす学友と、周りと同じことをしているだけで自然と先取りができる、というのは理系進学を視野に入れた場合、かなり大きなアドバンテージになります。
無理のないペースで各学年の内容を扱い、そのうえで高3の1年間を入試演習に充てられる、という強みは、高校受験組ではまず間違いなくあり得ません。
今確認したところによると、横浜翠嵐さんは高1:6時間 高2:7時間 高3:7時間ですし、日比谷さんは高1:5時間 高2:6時間 高3:5時間です。
県立浦和さんは高1:6時間 高2:6時間 高3:6時間ですね。
こう見てみると横浜翠嵐さんの数学に充てる単位数の多さが際立ちますが、中高一貫校では中3:5時間 高1:5時間 高2:6時間 高3:6時間とあてても22時間扱えます。
進学校では高3の3学期はほぼ授業がないことが多いので、その分も含めてかなりゆったりと授業が出来ているという印象です。
僕自身も、確実に理解できない生徒が多いとわかっている単元については、教科書の10ページ分で一つの定期試験を作成したこともあります。
それくらいに余裕があるカリキュラムを組めるのは、数学科の教員としてはありがたいことです。
単線・複線の差
これは単位数が少ない学校を考えるときの話になります。
普通、私立中では標準授業時数よりも多い時間数が数学に充てられることが多く、代数と幾何の2本立てで授業をすすめます。
教員も2人つくことが多く、代数は代数、幾何は幾何でそれぞれに課題が出たり、試験があるのでその分やるべきことは増えていきます。
しかし、時間数が多くない中学では数学の授業を2種類に分けることをしません。
中学入学後はまず代数の授業をすすめ、連立方程式あたりまで進んだら幾何へ移り、立体図形まで進めたら代数へ…のように同じ授業の中で2種類のテキストを使うことになります。
さて、こうなると何が問題か、という話です。
時間数が多くないとはいえ、すべての時間を代数に充てるならば、さすがに単線型の中学の授業内容は複線型の中学より進んでいきます。
このような中学へ進学することが決まったならば、事前に予習しておきたいと思う場合、代数に多くの時間をかけるべきです。
方程式、あたりまで理解できていれば、躓くことはないでしょう。
担当教員の差
本来あってはいけないことなのですが、現実として学校次第で担当教員によっても差は出てきます。
中1ではあまり考えにくいですが、中3くらいになってくると生徒もだいぶ学校になじみ、いきなりの指示にも対応し始めます。
「この単元は来年学ぶ別の単元と同時に教えたいな」とか、「この単元はあっちの単元の記号を使えた方が便利だな」とか
「この単元中学でやることになってるけど高校でやる単元が完全に上位互換だから、中学でやる必要ないよな」などと考え、単元の順番を変えたり、ときには削除したりします。
おそらく数学の先生がこの文章を読めば、それぞれの「」に対して「あ、あの単元のことだな」とわかるでしょう。実はそれくらい自然なことなのですが、それでもやはりいきなり明日からテキストのページが飛ぶ、ということになると生徒も混乱しがちです。
「」に当てはまる単元変更を行うかどうかは、生徒の状況を見ての教員の判断によるところが大きいので、担当教員や学年の生徒によって変わってきます。
もちろん、このような教員の自己判断を全く認めない学校も多くあります。
学力推移調査への対応
多くは語りませんが、私立中でもやはり〇ネッセはかなり大きな影響力を持っているといえます。
〇ネッセとの関係を切らさないために、学力推移調査という模試のようなものを毎年受けている、という学校もあると聞きます。
そこまで難しいものではないはずなので、あまり受ける意味がないといえる学校も多いのですが、いわゆるボリュームゾーン近辺の学校では導入しているところも多いです。
これは僕がテキストの編集会議に出ているときに聞いた話ですが、「学力推移調査の範囲が終わるような編成にしてほしい」というリクエストをする学校もあるとのことです。
このリクエストはおそらく単線型の学校かと思うのですが、僕自身も「統計的な内容は中1、中2で分ける必要はないので、中2で一気に扱おう」と思っていたら、学力推移調査に出題されて学年全員わからない問題になってしまった、という経験があります。
学校によっては、この試験の試験範囲をつぶさに調査してカリキュラムを作っているところもあるようです。
まとめ
以上、考えうるカリキュラム比較のときに気にすべき変数について書いてきました。
3個目までの偏差値、単位数、単線・複線はどの学年でもほぼ変わらないのですが、4個目の担当教員は基本的に毎年変わると思います。
冒頭の松本先生のアンケートのように現役生の声を聴くときには、そのあたりを踏まえて考察することが必要です。
ここまで書いたので、ますひこはどんなカリキュラムを推してるんだ?学校説明会で何を聞けば?という質問に対する答えを置いておきたいと思います。
理系進学を視野に入れるならば、中学3年間で週5時間以上、つまり合計で15時間以上の数学の授業時数が確保されていて、毎年中2までに中学内容を終わらせられているか。
が基本となるでしょう。テキストまで考えると質問することはかなり増えるのですが、それはまたの機会にしたいと思います。