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予算管理の基礎から応用まで第2回:予算編成のプロセス

前回は予算管理の基本的な考え方と、その重要性について解説しました。
ただ、実際の予算編成となると、多くの企業で頭を悩ませているのが現状です。

「前年比3%増で提出してください」
「とりあえず去年の予算をコピーしましょう」
「年末までに何とか数字を合わせればいい」

こんな声が聞こえてきそうな予算編成の現場。

しかし、本当にそれで良いのでしょうか?

実は、予算編成は企業の成長戦略を具現化する重要な経営プロセスです。前回お伝えした予算管理の基本的な考え方を実践している企業では、予算編成を通じて組織の方向性を定め、社員の行動指針を示すことに成功しています。

今回は、トヨタ自動車やサントリーホールディングスなど、日本を代表する企業の実例を交えながら、効果的な予算編成のプロセスについて、より実践的な視点からご紹介していきます。


予算編成の新しい潮流

従来の予算編成といえば、前年実績をベースに一定の成長率を掛けて作成する「積み上げ方式」が一般的でした。しかし、市場環境が激しく変化する現代では、この方法では対応が難しくなっています。具体的には、以下のような重要な課題が浮き彫りになっています。

積み上げ方式の限界

従来の積み上げ方式による予算配分では、各部門が必要な予算を積み上げて要求するため、総額を効果的にコントロールすることが難しくなっています。特に、歳出総額が大きくなる一方で、個別の予算項目が細分化され、全体最適の視点が失われやすい状況となっています。

新しい予算編成の必要性

現代のビジネス環境では、以下の要因により、より戦略的な予算編成が求められています

環境変化への対応

市場環境の急激な変化に対して、従来の増分主義による予算配分では効果的な資源の再配分が難しくなっています。

戦略的な資源配分

限られた資源をより効果的・効率的に配分するために、事業の有効性、優先性、効率性を重視した予算配分が必要となっています。

新しい予算設計の考え方

このような課題に対応するため、トヨタ自動車をはじめとする先進企業では、未来志向の予算編成手法を採用し始めています。これらの企業では、将来のあるべき姿から逆算して予算を策定する新しいアプローチを展開しています。

トヨタ自動車の戦略的な予算編成プロセス

トヨタ自動車では、「未来予算方式」と呼ばれる手法を採用しています。これは、3年後のあるべき姿から逆算して予算を策定する方法です。例えば、EVシフトによる部品調達の変化や、新興国市場での競争激化など、将来の環境変化を織り込んだ予算編成を行っています。

サントリーHDの予算編成の具体的なステップ

サントリーホールディングスでは、7月から12月にかけて段階的に予算を編成しています。
まず経営方針の策定では、グローバル市場動向の分析や中期経営計画との整合性確認を行います。
続いて事業部門での予算案作成では、新商品開発計画との連動やマーケティング施策の具体化を進めます。
最後に全社調整と承認のフェーズでは、事業間シナジーの検討や投資優先順位の決定を行います。

味の素における予算編成の弊害と改善

味の素では、以前「予算必達主義」による弊害が発生していました。期末に向けて無理な販売促進を行い、結果として利益率が低下するという問題です。この反省から、現在は四半期ごとのローリング予算を導入し、予算と実績の差異分析を重視する方式に変更しています。

キリンHDでの効果的な予算管理のポイント

キリンホールディングスでは、「実現可能性」と「チャレンジ性」のバランスを取るため、「コミットメント予算」と「ストレッチ目標」を分けて管理しています。これにより、現場のモチベーションを維持しながら、着実な目標達成を実現しています。

次のステップに向けて

予算編成は、全社員が同じ目標に向かって進むための羅針盤となります。
経営環境が激しく変化する今だからこそ、効果的な予算編成・管理の重要性が増しています。本記事で紹介した手法を参考に、より戦略的な予算編成を目指してみてはいかがでしょうか。

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