見出し画像

実例に学ぶ経費予算設計

「今年度の経費予算、本当にこれで適切なのだろうか...」

経営企画部門で予算管理を担当していると、誰もが一度は抱く悩みではないでしょうか。
原材料費の高騰、人件費の上昇、そして予期せぬ経費の発生。これらの課題に直面しながら、適切な予算管理の方法を模索している方も多いはずです。

私も経営企画部門で予算管理を担当する中で、同じ課題に向き合ってきました。しかし、適切な経費予算の設定と管理があれば、これらの課題は必ず解決できます。

本記事では、予算管理シリーズ第4回として、経費予算の具体的な立て方について解説します。固定費と変動費の考え方から、部門別予算の設定方法、そして実践的なコスト削減のポイントまで、実際の企業事例を交えながらお伝えしていきます。


固定費と変動費の基本

費用の本質的な理解

「固定費を変動費化する」という言葉をよく耳にしますが、その本質的な意味をご存知でしょうか?
経費予算を効果的に管理するためには、まず費用の性質を理解する必要があります。
経費は大きく「固定費」と「変動費」に分類されますが、これは単なる費用の分類以上の戦略的な意味を持っています。

固定費と変動費の特徴

固定費は売上の増減に関わらず発生する費用です。
事務所の家賃、正社員の人件費、設備の減価償却費などが該当します。これらは事業の基盤を支える費用であり、一度発生すると簡単には削減できない性質を持っています。

一方、変動費は売上や生産活動に連動して増減する費用です。原材料費、商品仕入れ、販売手数料などが該当します。売上が減少すれば費用も自動的に減少するため、経営の柔軟性を高める要素となります。

戦略的な活用の視点

このような特性を理解することで、より戦略的な経費予算の立案が可能となります。

具体的な例で考えてみましょう。

売上高10億円、経費2億円(経費率20%)の部門があるとします。
この経費2億円の中身を見ると、固定費が1.2億円、変動費が0.8億円です。
来期は売上目標を110%(11億円)に設定します。
この時、変動費は売上に連動して0.88億円となりますが、固定費は業務効率化により1.02億円まで抑えることを目指します。
結果として経費総額は1.9億円(前年比95%)、経費率は17.3%まで改善します。
つまり、売上成長と経費効率化の両立により、収益性を大きく高めることができるのです。

このように、固定費と変動費の特性を理解し、戦略的に活用することで、より効果的な経費予算の立案が可能となります。

新規事業を立ち上げる際も、市場の不確実性が高い段階では変動費型の構造を採用し、市場が安定してから徐々に固定費型の構造に移行するといった戦略的なアプローチが取れます。

企業の実践事例

キヤノンの経費予算管理改革

キヤノンでは、経費予算の設定において、経営戦略と予算管理を密接に連動させています。

まず年度開始前に、全社の経営目標から各事業部門の目標値を設定します。この際、固定費と変動費を明確に区分し、事業特性に応じた予算配分を行います。新規事業部門では変動費比率を高めに設定し、リスクを抑えながら市場開拓を進めます。
一方、既存事業部門では固定費の効率的な活用を重視し、スケールメリットを追求します。この取り組みにより、2023年度には売上高経費率を前年比2%改善することに成功しました。

味の素の取り組みと成果

味の素では、全社的な経費予算管理の改革により、収益構造の改善を実現しました。特徴的なのは、固定費と変動費の明確な区分に基づく予算管理です。
まず、全社の経費を固定費と変動費に分解し、それぞれの特性に応じた管理手法を導入しました。固定費については、ゼロベースでの見直しを実施。特に、本社機能の統合や業務プロセスの標準化により、固定費の圧縮を実現しました。
変動費については、売上高との連動性を重視した予算設定を行い、市場環境の変化に柔軟に対応できる体制を構築しました。

この結果、2023年度には売上高経費率を3%改善し、営業利益率の向上につながりました。

効果的な予算管理の進め方

予算設定プロセス

予算設定は経営戦略との連動から始まります。
全社目標を部門別の具体的な数値へと落とし込む際には、市場環境や競合状況、そして自社の強みを十分に考慮することが重要です。キヤノンが実践したように、新規事業と既存事業では異なるアプローチを取ることで、より実効性の高い予算管理が可能となります。

予算実行と管理方法

予算の執行段階では、月次での予実管理が基本となります。
味の素が実践したように、固定費と変動費を明確に区分することで、より効果的な管理が可能になります。固定費については年間での総額管理を行い、変動費については売上高比率での管理を実施します。

予算差異への対応

予算と実績に差異が生じた場合は、その要因分析と対応が重要です。外部環境の変化による影響なのか、それとも内部の管理体制に課題があるのか、原因を明確にした上で必要な対策を講じていきます。

まとめ:実践的な経費予算管理に向けて

基本アプローチの確立

今回は経費予算の立て方について、キヤノンと味の素という二つの企業の実践事例を交えながら解説してきました。経費予算の管理は、決して難しいものではありません。固定費と変動費を明確に区分し、経営戦略と連動させた予算設定を行うこと。そして、定期的な予実管理と迅速な対応を心がけることで、着実な成果を上げることができます。

明日からの実践に向けて

まずは自社の経費構造を見直し、固定費と変動費の区分から始めてみましょう。その上で、各費用の特性を理解し、戦略的な予算配分を検討します。予算管理の改革は、一朝一夕には実現できません。しかし、小さな一歩から始めることで、確実な成果につながっていきます。

いいなと思ったら応援しよう!