AIとの対話から学ぶ、ビジネスコミュニケーションの盲点
「はい、それでは〇〇の売上データを分析して...」
カタカタとキーボードを打つ音が響く、いつもの静かなオフィス。私は急ぎの業務分析をAIに依頼しようと、画面に向かって入力していました。
送信ボタンをクリックする指が、少しだけ躊躇います。
でも、締切までそう時間がない。早く結果が欲しい。そう思って、いつものように手早く入力を終えて送信しました。
数秒後。
「売上データの分析について、以下のような統計的手法があります。まず、時系列分析では...」
画面に表示されたAIからの返答に、思わず目を疑いました。
いや、それを聞きたいわけじゃない。昨日から続けている商品カテゴリー別の分析の続きのつもりだったのに...。
そして、その瞬間、ハッとした気づきが訪れたのです。
「ああ、これは自分の言葉が足りなかったな...」
そう、これは単なるAIとのコミュニケーションの問題だけではないのかもしれない。
日々の業務の中で、私は同僚たちにも、同じように曖昧な指示を出していたのではないか—。
コミュニケーションの鏡としてのAI
私たちの日常業務において、一人で完結する仕事はほとんどありません。部署間の連携、取引先とのやり取り、チーム内での情報共有など、常に誰かとコミュニケーションを取りながら仕事を進めています。そこに最近では、AIという新しい「対話相手」が加わりました。
AIとの対話を重ねるうちに、私は自分のコミュニケーションスタイルの特徴に気づき始めました。特に顕著だったのは、「言葉の省略」という習慣です。「この程度は分かるだろう」という思い込みで、基本的な情報さえ省いてしまうことが多かったのです。
見えてきた課題
暗黙の了解という落とし穴
「先日お話しした件なんですが...」
「あの資料の続きを...」
「いつもの感じで...」
こんな会話、職場でよく耳にしませんか?
人間同士のコミュニケーションでは、共有された経験や文脈から意図を汲み取ることができます。
しかし、AIにはそれができません。
先日、中途入社の方に業務の説明をしていた時のことを思い出しました。「いつもの手順で」と説明したところ、困惑した表情を浮かべていました。AIとのやり取りは、この中途入社社員との会話によく似ています。相手の立場に立って考えれば、「いつもの」が通じないのは当然なのです。
5W1Hの重要性の再認識
「来週の会議の資料、お願いできますか?」
この依頼、一見問題ないように思えます。
しかし、これだけでは、実は不明確な点がたくさんあります。
どの会議の資料なのか
いつまでに必要なのか
どのような内容を含めるべきか
誰に向けた資料なのか
どのような形式で作成すべきか
AIは、このような曖昧な指示に対して、時として思いもよらない方向に話を展開させます。
例えば
「会議の種類について、一般的に以下のようなものがあります...」
といった具合に。
これは、人間同士のコミュニケーションでも起こりうる問題です。
コミュニケーションの非効率性
「すみません、もう一度説明していただけますか?」
「具体的にどういうことでしょうか?」
こういった確認の手間は、実は大きな時間的コストとなっています。AIとのやり取りで何度も修正を重ねる経験は、私たちの日常的なコミュニケーションの非効率さを映し出す鏡となっているのです。
より良いコミュニケーションを目指して
この気づきは、私の仕事の進め方を大きく変えるきっかけとなりました。
例えば
指示を出す前に、相手の立場に立って必要な情報を整理する
「〜について」ではなく、具体的な目的や期待する成果を明確にする
「いつもの」という曖昧な表現を避け、具体的な説明を心がける
AIという新しい対話相手は、私たちのコミュニケーションの課題を浮き彫りにしてくれました。
しかし同時に、興味深い疑問も浮かびました。
AIが人間のように「行間を読む」ようになることは、本当に望ましいことなのでしょうか。それはそれで、便利な反面怖い気もします。
コミュニケーションの質を高めることは、業務効率の向上だけでなく、チームの信頼関係構築にも直結します。
私たちは今、AIという新しい「鏡」を手に入れました。この鏡に映る自分のコミュニケーションの姿を、謙虚に受け止め、成長の糧としていきたいと思います。