放置された業務フローが招く"致命的な経営リスク"
「この業務は山田さんしかわからない」
「前任者が辞めて、手順がわからなくなった」
「部門間の連携でいつもトラブルが...」
「新人の教育に時間がかかりすぎる」
こんな悩みを抱えている企業は、実は危険な崖っぷちに立たされているかもしれません。なぜなら、これらの問題は、ある日突然、会社の存続すら脅かす大きな危機となって表面化する可能性があるからです。
衝撃の失敗事例 ~業務フロー欠如が招いた巨額損失~
DeNAのキュレーションメディア問題(2016年)
医療情報などの記事で信ぴょう性の低い情報を大量掲載していた問題が発覚。業務フローの管理体制が不十分で、記事のチェック体制が機能していませんでした。結果、10のサイトを休止し、謝罪会見を実施。企業価値の大幅な毀損を招きました。
日本郵政のトール社買収(2015年)
海外企業の買収後、業務フローの統合に失敗。結果として4,000億円以上という巨額の減損損失を計上することとなりました。買収後の業務プロセス管理体制の不備が主因とされています。
「今は回っているから…」その油断が命取りに
「うちの会社は大丈夫」
そう思っていた企業の多くが、実は同じような危機に直面する可能性を抱えています。現場では日々の業務に追われ、「とりあえず今は回っているから」と、業務フローの整備を後回しにしがち。しかし、この「今は大丈夫」という認識こそが、最大の経営リスクとなっているのです。
成功企業が実践する"4層構造"の秘密
では、こうしたリスクを回避している企業は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。その答えは、「階層的な業務フロー管理」にあります。成功している企業では、組織の階層に応じて異なる粒度の業務フローを整備しています。
劇的な改善事例 ~危機を好機に変えた企業たち~
ANAが実現した業務改革
「システムを入れれば効率化できる」
多くの企業がこの思い込みで失敗する中、ANAは異なるアプローチで成功を収めました。
2012年、ANAは大胆な組織改革を実施します。情報システム部門を「業務プロセス改革室」へと改称。この改称には、重要な意味が込められていました。それは、「システム導入が目的ではない。業務の本質的な改革こそが重要だ」という強い意志です。
改革は以下のステップで進められました。
まず、現状の業務フローを徹底的に可視化。「誰が」「何を」「どのように」行っているのか、細部まで洗い出しました。その結果、部門間の連携における問題点や、重複した業務プロセスが明確になりました。
次に、「事業の本質を侵さない」という明確な方針のもと、業務フローの再設計に着手。特に注目したのは、部門を越えた情報共有の仕組みでした。
そして重要なのが、「スモールスタート」という実行方針です。一度に全てを変えるのではなく、段階的に改革を進めることで、現場の混乱を最小限に抑えました。
この結果、驚くべき成果が生まれました。
・iPadの導入による業務のペーパーレス化で4億円のコスト削減。
・空港カウンターでの業務効率化により、人員配置の最適化と待ち時間の大幅短縮
を実現したのです。
しかし、これらの成果は「目的」ではなく「結果」でした。
本質的な成功要因は、業務フローの可視化と再設計にあったのです。
システムやツールの導入は、あくまでも最適化された業務フローを実現するための手段だったのです。
この事例が示すように、真の業務改革は「システム導入」や「ツール活用」ではありません。業務フローの可視化と、その本質的な改善にこそ、成功の鍵があるのです。
キリンホールディングスのDX改革
キリンホールディングスでは、コロナ禍を契機に大規模な業務改革に着手しました。
まず、グループ全体で約40社、15,000人という大規模な組織の業務フローを可視化。その結果、部門間での業務の重複や、非効率な承認プロセスなど、数々の課題が明らかになりました。
特筆すべきは、単なるデジタル化ではなく、業務プロセスそのものの見直しから始めたことです。「なぜその業務が必要なのか」「誰のために行っているのか」という本質的な問いかけから始め、約8ヶ月という短期間で、グループ全体のペーパーレス化と業務フローの標準化を実現しました。
その結果:
・グループ全体での意思決定の迅速化
・部門間の情報共有の円滑化
・在宅勤務体制の確立
・新オフィスでの100%ペーパーレス化の実現
を達成しました。
この成功の背景には、「システム導入ありき」ではなく、「業務の本質的な改善」を目指したという視点があります。現場の声を丁寧に拾い上げながら、段階的に改革を進めていったことが、短期間での成功につながったのです。
今こそ、行動を起こすべき理由
DeNAやトール社の事例が示すように、業務フローの欠如は、企業の存続すら脅かす重大リスクとなります。
一方で、ANAやキリンホールディングスの事例は、適切な業務フロー整備が劇的な改善をもたらす可能性を示しています。
問題が顕在化してからでは、すでに手遅れです。現状の業務知識が豊富にある今こそが、業務フローを整備する最適なタイミング。「後回し」にすることは、もはや経営判断の誤りと言えるでしょう。
次回は、具体的な業務フロー作成の手順と実践的なポイントについて解説していきます。失敗しないための重要なポイントと、効率的な作成方法をお伝えする予定です。
あなたの会社に潜む"見えないリスク"。
それは、明日突然の現実となるかもしれません。
今こそ、行動を起こすべき時なのです。