自己紹介でのヤラカシ
就職が決まり、初出勤の朝。
職場では全体朝礼というものがあり、自己紹介することを知る。
簡単で良いから挨拶を考えてと言われたが、一体何を言えば良いのやら。
学生時のノリノリな自己紹介という訳にはいかないだろう。
アルバイト経験はあるが、先輩が「今日からバイトの吉祥さん。優しく教えてあげて」と紹介してくれたので、自分は会釈をする程度だった。
自己紹介ねぇ……
そういえば昨夜観た時代劇、面倒な挨拶してたよなぁ
拙者とか…拙者ってなんやねん!
笑えるww
令和の時代で良かった〜
とりあえず名前言ってお辞儀すればいっか。
いざ、朝礼の時間。
周りは明らかに自分より歳上ばかり、予想以上に人が多いこともあり、緊張感が増して脳内が散らかり始めた。
「・・・それでは自己紹介お願いします」
え……もう?
一気に視線が集まった。
お…おはようございます…
緊張MAXで思うように声が出ない。
「大きな声でお願いします!」
その言葉で脳内真っ白になってしまった。
初っ端からしくじる訳にはいかない!
と、とにかく…えっと……
深く息を吸い腹に力を入れ
拙者、吉祥 あみと申します
皆様からのご指導、賜ります
不躾ではございますが、よろしくお頼み申し上げまする
「は?今なんて言ってた?」
「拙者って言うか?」
「ウケるw何時代の人間?」
「え?幾つの人?」
「拙者?何者?」
「もはや不安なのだが……」
「苗字が吉祥って珍しいし、良家のお育ち?」
「真面目か?ふざけてるか?」
ザワつく声、自己紹介を終えて安堵する吉祥あみには聞こえていない。
そして、緊張し過ぎて時代錯誤な自己紹介したことを記憶していない吉祥あみであった。