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【読了】つまらない住宅地のすべての家
またしても、なんて感想を書いたらいいかわからない本に出会いました。
女性作家さんが書く小説で、イイ感じだったなと思う本。
そういう本に限って感想の言語化に困る率が高いような。
そういう本に対する好意的な感想を上手に書けるようになりたい…。
そんなことを思いつつ、頑張って書いていこうと思います。
コンビニもスーパーも、10分以上歩いてようやく1店舗あるくらいの閑静な住宅街。
そこに刑務所を脱獄した女性が近づいているというニュースが流れます。
日頃特別ご近所付き合いがさかんなわけではない、一般的な10軒の家。
夜に交代で見張をすることになります。
隣近所に住んでいる人たち。
なんとなく家族構成はわかるけど、きちんと話したことはない人たち。
妻が出て行ったことを隠したがっている男性と息子。
建設業をしている、大家族でちょっと裕福な家。
育児放棄がちな祖母と母と子どもの家庭。
学校で問題を起こした子どもを家の倉庫に閉じ込めようと考えている夫婦。
女の子を誘拐しようと計画を立てている若い男性の一人暮らし。
どこにでもいそうな家庭から、事件のニオイがしてきそうな家も。
日頃関わりがないばかりに、近所にどんなことを考えている人がいるのかって、実はよくわかっていないですよね。
脱獄犯が近くにいると聞いて、そんな希薄な付き合いだった近所の住人たちが集まりはじめるのです。
いつもは仕事中くらいしか声を出さないような人も。
事件になりそうな悩みを抱える人も。
何気ない会話を、少しずつしはじめるのです。
読み終わると、完全な悪人がいないことに安心します。
どんな悪いことをする人も、考えている人も、そうなった原因があったり、悪い面ばかりじゃなかったり。
別に近所の住人と会話をした方がいいとか、そんなことを言う小説ではないと思うんですよね。
隣近所、もしくは知人の誰か。
それらの人たちの多面性というか、人間味というか。
善と悪に分けられるものではなくて、グレーな部分があったり、悩みがあったり。
そんな人間らしい多面性をみんなが持っていることが読み取れる小説でした。
レビューを見ると「派手さはないけど惹き込まれる」と書いている人がいて、まさに!と思いました。
派手さは本当にないんですよ。
いろんな人からの視点で書かれてもいるし。
それでも少しずつ悩みを抱えた人たちが、少しだけ関わったことで、一歩だけ前に進む感じがします。
終盤に夜が明けて朝になるところがありますが、物語の流れとリンクしていて心地良いのです。
大きく変わることはないけど、いつものように朝が来る。
最後はそんな、ちょっとだけ明るい気持ちになれるおはなしでした。