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[コラムに及ばない思考記文-02]不安定な造形が映し出す美学 ~シンメトリーとアシンメトリー~

※2022年10月更新 ※この記事は約4分で読めます

皆さまいかがお過ごしでしょうか。フリーランスヘアデザイナーのナカセコミユキです。恵比寿のOrBという大人のためのヘアサロンでお客さまを担当しています。

感じ方の“ものさし”は十人十色

バランスの捉え方は人それぞれです。左右が対象的なものほど美しいと感じる方もいれば、左右非対称なものが魅力と感じる方もいます。数年前まで、アシンメトリーな髪型やファッションといえば“特定のジャンルに属する方が好むデザイン”といった印象を持つ方が多かったのではないでしょうか。

しかし最近では、よっぽどエッジの効いたデザインでない限り、奇抜・個性的といった概念にはつながりにくくなっています。アシンメトリーが幅広い層に受け入れられるデザインのひとつとなったのは、あらゆるものが飽和状態になり、新鮮なものを求めた結果なのかもしれません。

個人的に、新鮮さと刺激はニアイコールな関係にあると考えています。

脳はシンメトリーであることに安心を覚える

10数年前のこと、当時の私はゴシックブーム真っ只中にありました。まんまゴシックロリータをまとうのではなく、モード系をベースにゴシックのエッセンスを取り入れるというファッションのおもしろさにハマっていたのです。

ご存知のように、童話の世界には、とてもドロドロとした闇のテーマみたいなものが存在します。ファンタジックとはひと味違う、大人解釈の童話の世界に入ったとき、自分はどんなキャラでいたいのかが服選びの基準となっていました。

アシメやフリル、プリーツ、レースといった要素が好きなのは、子どもの頃から変わりません。しかしこのときはじめて、飽きもせず好きでい続けるのはなぜなのだろう?という素朴な疑問を認識したのです。

[1]シンメトリーにまつわる心理

人間は、左右または上下、斜め対称なものに対して美しさや誠実さ、好感を抱きやすいと言われています。これは、シンメトリー効果と呼ばれ、安定感・安心感を与えたい目的で広告、インテリアデザインなどによく使われています。

[2]アシンメトリーにまつわる心理

逆にアシンメトリーなデザインを見ると、どのような心理現象が起こるのでしょうか。アシンメトリーには、躍動感・流動感を見た人に与えるという効果があるようです。アシンメトリーは、真ん中で線を引いたとき、片方の何かが欠如している状態にあるともいえるデザインです。

不安定な要素を目にすると、人間は目が離せなくなります。これは人として、本能的な心理現象なんだそうです。この心理を利用して、注目を集めたい部分にアシンメトリーの要素を取り入れると効果的なデザインが完成するんだとか。

その形状を保つことなく揺らぐもの

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不安定な要素を持つものに揺らぎが加わると、気になる心理はさらに増長されます。アシンメトリーなデザインは、単に左右上下を非対称にしたところで成立しません。この場合の成立とは、美しく見えることを意味します。日本人は古来から、アシンメトリーなデザインに美しさを見出していたようです。

たとえば、生け花や盆栽、日本庭園などはアシンメトリーな要素が折り重なって美しいデザインが構築されています。単体では不安定と感じる要素を組み合わせて絶妙なバランスを発見したとき、見事なバランスが生まれます。バランスが生まれれば、その場にとってナチュラルなデザインとして馴染むことができるのです。

多様な色の出し方、軸の傾け方

どんな色も自分の中にあるのならそれは自分のい色

デザインを考えるとき、ポイントはひとつに絞った方がシンプルで伝わりやすい表現になります。しかし長年ヘアデザイナーをしていると、ひとつのデザインをつくるにしても、あれもこれもとさまざまな要素を取り入れたくなるものです。私の場合、どのデザインでも大抵3つの要素が組み込まれています。

一つひとつのデザイン要素を骨格に合わせて絶妙なバランスで組み合わせ、ぱっと見ナチュラルなデザインに仕上げるのは、なんだかいたずらが成功したときの『してやったり』な気分に酷似しています。

自分らしい個性を保ちながら日常に溶け込むデザイン

とくに大人の場合、髪も服も個性を強調し過ぎた“いかにも”なデザインを際立たせるより、どこかエレガントな要素で丸め込んであげるとしっくりくるような気がしています。それは、無理のない個性的なスタイルづくりを成功させる事でもあります。

そんな私のカットと日常をともに過ごすお客さまは、どこがどうなっているのか、1か月後に何が変わるのかを知っておかなくてはなりません。そのため、インフォームドコンセントを重要視しているのです。今日、何をしたのかをお伝えするアフターカウンセリングには、しっかりと時間を割きます。

説明中、お客さまはずっとハテナをたくさん浮かべて聞いていらっしゃいますが、次回の来店時に「あぁこのことか!って分かりました」と言ってくださるので、私のカットと向き合って上手に付き合ってくれていることを幸せに感じています。

一度のカットで二度美味しいがモットーなので、レングスを問わず伸びきったタイミングで髪型を褒められるという事象が起きているようで、美容師冥利に尽きます!このように、ヘアスタイルもファッションも、アシンメトリーは不安定だからこそ、さまざまなバランスが発見できる面白さが隠れているのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。



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