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サッカーが少年の未来を拓く|映画『ある日突然に』≪6/17-23開催!ヨコハマ・フットボール映画祭2023≫
南イタリアで、プロのサッカー選手になることを夢見ている少年。精神的な問題を抱えている母親をケアしながら生活を支えている彼は、人よりも早く大人にならなければならなかった――
みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第86回を担当します、スタッフの細川です。
今回はヨコハマ・フットボール映画祭2023で上映のイタリア映画『ある日突然に』をご紹介します。本作は、17歳の少年の成長と、母子の愛憎を描いた作品です。
<作品紹介>
南イタリアの小さな村で、プロサッカー選手を目指す17歳のアントニオ。離婚のショックから精神的に不安定な母親との二人暮らし。家計を支えるためにアルバイトをしながら、練習に励む彼の元へ、ある日都会のクラブからスカウトが訪れる。夢のために母を残して街を出るべきか。17歳の決断と青春が描かれる。
ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門、イタリア映画祭2019出品作。
いびつな母子の愛
アントニオは学校へは行かず、午前中は家事と母親のレモン農園を手伝い、午後はサッカーの練習、夜はガソリンスタンドで働く毎日を過ごしています。
一方、母親は、アントニオの父親である元恋人の店や自宅に行っては騒ぎを起こしています。再び彼と一緒に暮らせると信じているのです。母親が問題を起こすたびに、なだめて事態を収拾させるのはいつもアントニオです。
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17歳の少年がこのような生活を強いられていることを、社会が放っておいているわけではありません。アントニオは定期的にソーシャルワーカーと面談をしています。ソーシャルワーカーはアントニオには学校に行って欲しいと考えていますが、本人は「学校より仕事をしている方がいい。」と聞き入れず、母親の問題についても何もないと答えます。
問題があれば母親と引き離されてしまうことを、アントニオは知っているのです。度々問題を起こすけれど、落ち着いている時の母親は陽気で美しく、アントニオにとっては大切な母親です。本来であれば、彼女の素行や就業状況ではとっくに親権は停止されているはずです。しかし、ふたりで暮らせるよう、担当のソーシャルワーカーが便宜を図ってくれているのでした。それでも、それにも限界はあります。
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ある日、スカウトの目に止まったアントニオに、セリエB パルマ・カルチョ1913 プリマヴェーラ(U20)のトライアウトを受けるチャンスが舞い込んできます。母親を苦しめているのは、父親が住んでいるこの町での生活だと考えていたアントニオにとっては、彼女を連れて町を出るチャンスでもありました。
子供らしくいられない17歳
アントニオはヤングケアラーと呼ばれる立場に立たされています。「ヤングケアラー」とは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものことです。「ヤングケアラー」という言葉自体が、1990年代にイギリスで生まれ、日本国内でもようやく認知されるようになってきました。日本では、中学2年生の17人にひとりの割合がヤングケアラーだというデータ(こども家庭庁特設ページより)があります。イタリアは国としての取り組みは日本より早く行われているようで、映画にも親身になってくれるソーシャルワーカーが登場します。
また、母親は経済的にも精神的にもアントニオに依存しています。そして、アントニオの母親に対する献身、自分が面倒を見なければならないという考えは、ある種の依存にも見えます。ふたりはいわゆる共依存の状態でしょうか。
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アントニオは学校には行っていませんが、サッカーチームの仲間がいます。仲間たちといる時は、背伸びをした下ネタを言いながらじゃれ合ったり、ガールフレンドもできて年頃の少年らしい時間も過ごしています。ただ、年頃の少女がボーイフレンドに求めるほどの時間は取れるはずもなく……彼女との会話から、いかにアントニオが17歳としての時間を過ごしていないのかがわかり、切なくなります。
イタリア映画界の新たな才能
本作はチーロ・デミリオ監督の長編デビュー作です。ケン・ローチ監督(『エリックを探して』)、アブデラティフ・ケシシュ監督(『アデル、ブルーは熱い色』)、ダルデンヌ兄弟(『トリとロキタ』)に影響を受けているそうです。作品レビューにもケン・ローチ監督の『スウィート・シックスティーン』が引き合い出されたりしています。
ナポリを首都に持つカンパニア州の出身ですが、18歳で故郷のすべてを否定してローマに逃げ、その後、多くのことを見逃していたことに気付き、デビュー作の舞台に故郷を選んだのは自然なことだったとインタビューで語っています。決して治安のよい豊かな地域とは言えなそうですが、優しい光に包まれたような美しさを感じるのは、監督の郷愁の思いからかもしれません。
2013年から企画し、4年半後になんとか資金が集まり、制作は24日間で撮影、編集も3週間というとてもタイトなスケジュールで行われました。時間が限られていたのは、困難であることを承知で、ヴェネツィア映画祭への出品を目標にしたためです。その甲斐あって、見事オリゾンティ部門に選出されました。
そして、ヴェネツィア映画祭を皮切りに、各国映画祭で絶賛され、合計25の賞を獲得しました。日本ではイタリア映画祭2019で上映され、好評を博しています。
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監督は、『おとなの事情』(2017年日本公開)で母親役のアンナ・フォッリエッタの存在を知り、彼女の演技力に惹かれて早い段階でキャスティングが決まっていました。子供に依存する精神的に不安定な母親は、害悪でしかないように感じますが、アンナ・フォッリエッタが演じたことで、愛を渇望しながらも愛せない苦しさ、若くして出産しながらも恋人に捨てられたという彼女の境遇にも寄り添いたくなります。
アンナ・フォッリエッタとアントニオ役のジャンピエロ・デ・コンチリオは、作品とともにその演技が高い評価を得ています。
タイトルに込められた思い
タイトルの『ある日突然に』とは、原題”Un giorno all'improvviso”の日本語訳で、33年振りにセリエAを制覇したSSCナポリやユベントスなど、イタリアのサッカーチームのチャントとして愛されている曲のタイトルです。
歌詞を見るとラブソングのようですが、サポーターの愛が伝わり、元気になれる曲ですね。
そして、英題は原題とはまったく違う”If life gives you lemons”です。
"When life gives you lemons, make lemonade. "<人生がレモンを与えたら、レモネードを作りなさい>という英語のことわざがあります。母親のレモン農園からレモンのことわざに繋がったのかもしれません。「つらいことがあっても、それをよいものに変えよう」という意味で使われています。
どちらのタイトルからも、酸っぱいレモンのような困難ばかりのアントニオの人生も、彼自身の力で甘いレモネードに変えてゆくだろう。という希望が込められているように思います。
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邦題:ある日突然に
原題 :Un giorno all'improvviso
制作国:イタリア
制作年:2018年
上映時間 91分
監督名:チーロ・デミリオ
出演者:アンナ・フォッリエッタ、ジャンピエロ・デ・コンチリオ、マッシモ・デ・マッテオ
<上映スケジュール>
●かなっくホール
6/17(日) 14:00-16:00
ゲスト:加藤遼也(love.fútbol Japan)
●シネマ・ジャック&ベティ
6/23(金) 20:00-
ゲスト:加藤遼也(love.fútbol Japan)
上映後のトークショーでは、サッカーをしたくてもできない子どもたちの「環境」を変える活動をされているlove.fútbol Japan代表 加藤遼也さんをお迎えし、日本の育成世代の選手たちの家庭環境の問題やその解決に向けての取り組みをご紹介いただきます。
「ヨコハマ・フットボール映画祭 2023」は6/17(土)-18(日)にかなっくホール(東神奈川)、6/19(月)-23(金) シネマ・ジャック&ベティ(連日20:00-追っかけ上映!)にて開催します。
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