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世の中お金?それとも?正解を探し続ける!土曜ドラマ「3000万」美術の仕事術

こんにちは!
土曜ドラマ「3000万」、楽しんでいただけていますでしょうか?
この記事では、ドラマを彩る美術の裏側を美術進行のアイカワとトクエがお届けします!
皆さまに現場の雰囲気やスタッフのドラマ制作に対する情熱が少しでも伝わればと思います。

筆者・アイカワ

美術進行 アイカワ
初めての現場は連続テレビ小説「あまちゃん」。
以降、大河ドラマ「西郷どん」、連続テレビ小説「エール」「らんまん」などの作品を担当。
好きな事は音楽&踊り!露天風呂&ビール!つまり酒好き!

筆者・トクエ

美術進行 トクエ
2017年NHKアート入社。初めての現場は大河ドラマ「西郷どん」。
担当作品は大河ドラマ「青天を衝け」「どうする家康」などなど。
とにかく舞台好き!ストレス発散はカラオケと焼き肉!つまり大食い!


”お金”よりも必要なのは“アイデア”! 助け合いの撮影現場!

助け合って乗り越えろ!

今回の記事では美術部の仕事を中心にお伝えしますが、
もちろんドラマは美術部(デザイン・大道具・小道具・造園・扮装等)だけでは成立しません。 
特に技術部(カメラ・照明・音声等)との協力が不可欠で、協力関係が築けるかどうかは作品の仕上がりに大きく影響します。
例えばこの作品でも、こんなできごとがありました。

ドラマの冒頭、佐々木家はとある交通事故に遭遇します。
その事故現場となるロケ現場は夜の山道。
月明かりも届かないほど、真っ暗な場所でした。
外灯を設置しようにも、設置費・撤去費がかかるし、どうしても不自然になってしまいます。
でも明かりがないと役者の顔は真っ暗・・・という厳しい環境です。
そこで、照明部と美術部が協力してアイデアを出し合って、作戦を考えました。

その作戦とは、
「車のヘッドライトを美術部で設置する看板に当て、看板をレフ板のように使い自然な反射で照らす!」
というもの。

看板設置はお手の物!美術部にお任せあれ!
これなら車に合わせて自由な位置に設置できるし、現場になじむ!

美術と照明の協力プレーで、夜中の山道で自然に俳優の顔を照らすことに成功しました!

レフ板代わりの看板と追加の明かり

アイデアで乗り越えろ!

もうひとつ、事故現場のシーンで知恵と工夫で成立させたのが、道路についているタイヤ痕です!

タイヤ痕

これは、車を奪ったソラが必死で逃げるスピード感を表現するために、美術部でつけたものです。
指定の場所にタイヤ痕をつけたい、けれども塗料で描くと撤去が大変だし、洗い流しても環境によくない。
どうしたらよいものか、と悩みながらカフェでコーヒーを飲んでいたところ・・・

目の前の店員さんがコーヒー豆のガラを捨てる際に、床にこぼしてしまいました。
アッと思って足元を見ると、なんと床にくっきり靴の跡が残っていたのです!
これは使える!

すぐにNHKに戻って画用紙にタイヤの跡を切り抜き、
スプレーのりとコーヒー豆のガラを持って、NHKの駐車場へ!

アスファルトの上に切り抜いた型を置き、
ノリを吹きかけて豆ガラをかけると、そこには・・・まさにタイヤ痕が!!

この方法ならば撤去も簡単!食品由来なので自然にも優しい!
まさに一石二鳥の結果でした。

といった感じで私たち美術部は、
さまざまな壁にぶつかるたびに各部とのコミュニケーションやアイデアで乗り越えることができました!
もう一度見る機会があれば、ぜひご紹介した点も注目してみてください。

美術発注は“攻めの場”!

ドラマ番組制作の現場では、台本をもらった後、台本に沿って監督のイメージを共有&発注する「美術発注」という打ち合わせを行います。
主人公の衣装や持ち物など含め、この場で決まることがドラマの世界観を決定づけるといっても過言ではありません。
私たち美術部としては、最大の難関、勝負ポイントです。
もしイメージと違えば、ドラマ全体を壊してしまうことになる勝負の場です。

「3000万」では、私たち美術部の提案や意見、主張を監督や演出部が尊重してくれたので、ベテランから新人まで発言がしやすく、方向性を決める時などもざっくばらんな意見が出て、よりドラマとしてのリアリティを追求することができたのではないかと思っています。

美術発注の様子
オンラインでの美術発注の様子

あまりにも打合せが盛り上がってしまい収拾がつかない時は、
装飾ベテランチーフがみんなの意見をまとめてくれたり、
衣装さんが発注で説明しきれなかった部分をくみとって絶妙なバランスの衣装を用意してくれたりして、作品が形になっていきました。

美術部の裏話!作品を作っていたのはこんな人!

せっかちあわてんぼうな装飾チーフ

この作品の家具や家電、自転車から張り紙まで用意してくれたのは、
常に集合30分前のせっかち行動、
けれども百戦錬磨で笑顔が素敵な装飾チーフのコータローさんです。
装飾部とは、家具や家電など、生活感や人柄を表す小道具を用意する部署です。

佐々木家のセット

ドラマのメイン舞台である「佐々木家」。
室内はすべてセットで撮影されたのですが、そこには装飾チーフ・コータローさんの繊細なこだわりが詰め込まれています。

端々から感じる絶妙な生活感、それは例えば・・・

リビングの隅には、片づけきれなかった年齢に合わない子どもグッズがあります。
これには、こんな裏設定がありました。

「子どもが大きくなり、もう遊ばないので本当は押し入れにしまいたいおもちゃ。でも忙しくて整理ができずリビングに放置されている」
というイメージです。

さらに、夫婦の寝室の義光側だけにあるアイマスク。(お気づきでしたか?)
それはこんな具合です。

几帳面きちょうめんな性格で、奥さんと寝てはいるが・・・本当にリラックスできているのか疑ってしまう」
というようなイメージです。

また、義光の半生が見え隠れする物置部屋は・・・
本編での説明は少ないですが、「義光の荒々しく激しいバンド時代を感じる」
といったイメージで作られています。

私自身も同じ美術部ながら、細かく設定されたイメージに思わずうなりました!

俳優を盛り上げるマスコット的な持道具さん!

持道具という部署は、カバンやスマホ、書類や本など俳優が手に持つものを用意する仕事です。
今回、持道具を担当したココロさんは、ただ道具を用意するだけでなく、俳優の方と一緒に役を盛り上げていく、そんな感覚を持った持道具さんです。

ドラマの後半で、義光が車内で待ち伏せするシーンがあります。
時期設定は、真夏の7月。

お金に困っている設定なのでクーラーもつけられず、
暑い中待ち伏せをしているという表現をしなければいけないのです。
そこでココロさんが持ってきたのは”うちわ”。

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それも、タイトルでもある3000万円で購入できる物件情報を紹介する
不動産会社の”オリジナルうちわ”を作ってきてくれたのです。
お金の使い道を考えている家族なら、思わずもらってしまいそうだと思いませんか?

予定にはなかったこの小道具ですが、義光役の青木崇高さんにも気に入っていただけたようで、相談して一連のシーンはうちわを持っていただくことになりました。
時にはあおいだり、顔を隠したりと、暑さと尾行の表現に活躍しました。

ウチワを持って歩く青木さん

実はこのうちわ、他のシーンでも活躍しているのでぜひ探してみてください!
ヒントは○○○家!

持ち道具の“思い”に俳優の方も共感していただき、
お芝居の表現に力添えできたのではないかと思ったできごとでした。

うちわが置かれたテーブル

無理難題もアイデアで解決! みんなの相談役のメイクさん!

今回メイクを担当したのは、歯にきぬ着せぬ物言いで定評のあるハナダさん。
そんな彼女がいたから成功したカットがあります。
 
ショッピングモールのバリアフリートイレで、犯罪者集団の蒲池が坂本にボッコボコにされるシーン。
監督からは「緊張感のあるシーンにしたいのでワンカット撮りしたい」
とオーダーがありました。

台本通りだと、傷を表現するメイクにかけられる時間はバリアフリートイレが閉まってから開くまでのわずか数秒。

しかし、このような特殊メイクには通常だと数時間かかることを知っていた私は、カットを分けるか編集で処理した方が良いのではないか?と考えました。

そんな中、監督が過去にタッグを組んでいたメイクのハナダさんに相談したところ、
「表現によっては数秒で特殊メイクをすることが可能かも!」
というまさかの答えが返ってきました。

心強いハナダさんの言葉に後押しされ、
このシーンをワンカットで撮影することに挑んだのです。

現場のバリアフリートイレ&ココロさんとハナダさん ※許可を得て撮影しています

作戦を成功させるため、
トイレの中にあらかじめメイクのハナダさん・持道具のココロさん・美術進行のアイカワが物陰に隠れて待機し、俳優の3人が入ってくるのを待ちます。

3人が入ってきて、扉を閉めたと同時にハナダさんが傷メイク。
(短い時間でどこまで傷を作れるか、事前に助監督にモデルになってもらい何度もシミュレーションしました)
ほかの2人でトイレに血の汚れをつけました。
この間わずか5秒!

傷だらけメイクをされた蒲池
実際の傷メイク 蒲池役の加治将樹さん

次に扉が開いたときには、私たち美術部の3人は隠れて、ボコボコの蒲池が倒れている・・・
という作戦を立てました!

打合せやテストを重ねて、いよいよ本番当日。
一同が撮影場所のショッピングモールのバリアフリートイレ前に集まりました。
最初はタイミングが合わず、ぶつかって血のりをこぼしそうになったり、思ったよりも時間がかかったりしました。
ですが、何度も繰り返すうち、俳優とスタッフの間に自然とチームワークが芽生え始めます。

最終的に目くばせやハイタッチなどでコミュニケーションをとり、
完璧なタイミングで傷メイクと血の汚れの設置を遂行することができたのです!

誰ひとり失敗できない緊張感もあって、カットがかかった後は自然と拍手が起こりました。
VTRを見たところ、みんなの決死の作戦がワンカット撮りによってトリックのように表現されていて、挑戦できてよかったなと思いました。

絶妙な感覚とセンスで寄り添う衣装さん

今回の作品で、「どの部署が一番大変だったか?」と聞いた時、
間違いなく1位,2位を争うのが衣装部だと思います。
 
衣装チーフ・ウエノさんはいつも笑顔で柔軟に各部からの声を取り入れ、衣装を準備してくれます。
今回の監督のイメージは繊細で、なかなか言葉で表現しづらいものでした。

例えば、
「犯罪者っぽさはありつつ、悪者には見えたくない」
「目立たないように地味すぎず……」
といった感じです(笑)。

普通のレストランや居酒屋であれば、メニューが決まってから注文してくださいと言われそうですが、
美術という仕事は、メニューも一緒に考えていく!
そこに空間作りの楽しさがあると思っています!

さまざまなイメージから俳優の方の表情やキャラクターなどを掛け合わせ、
監督の求める絶妙なニュアンスを衣装で表現していました。

特に注目していただきたいのは坂本の衣装です。
「どこか親しみやすさもあるけども、非日常で生きている」
そんな彼の独特な恐ろしさがにじみ出た衣装だったと思います。

衣装写真が載った香盤表
坂本の香盤表

「3000万」の美術!

「3000万」という作品の中で、美術の工夫やエピソードを紹介してきましたが、正解がひとつではないのが美術の仕事です!
知恵とアイデアの足し引きで現実と脚本のギャップを埋めて、より脚本の世界観を強調する!
美術とは、脚本の世界観を視覚的に道具で演出する仕事だと思っています。

お金は大切だけど、お金がすべてではない! と人生の迷いを暗示させるこの作品。
いくつもの可能性の中から、スタッフがみんなで新しい正解を作っていく美術という仕事。
答えのない命題にぶつかっていく姿勢には、何か通ずるものがあるような気がします。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

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