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土曜ドラマ「3000万」ができるまで~脚本開発「WDRプロジェクト」とは?~

10月5日からスタートした土曜ドラマ「3000万」プロデューサーの中山です。
このドラマは海外ドラマの手法を取り入れたWDRプロジェクト発、
複数人の脚本家が執筆するライターズルームによって生み出されたドラマです。
私はふだん、ドラマ部ではなく、音楽番組などを制作するエンターテインメント部に所属していますが、縁あってこのプロジェクトに参加することになりました。


日本発の面白いドラマを作りたい!

プロジェクトの概要を聞いたのは、2022年の年明けのこと。
発起人であるドラマ部の保坂慶太ディレクター(「鎌倉殿の13人」などの演出を担当)が唐突にやってきて、脚本開発プロジェクトをやろうと思っていると語り始めました。

とにかく海外にも負けないドラマが作りたい、そのためには土台、根幹である脚本を強くする必要がある。
でも脚本家の育成は進んでおらず、ものづくりの才能がマンガ界やゲームに流れてしまっている現状を何とかしたい…などなど、彼が抱える問題意識を熱く語られました。

保坂は、NHK局内の海外派遣プログラムに参加し、米UCLAでシリーズドラマの脚本執筆コースで学んでいました。
そんな彼が考えだしたのがWDR(Writers' Development Room=直訳すると脚本開発室)プロジェクトというもので、アメリカで学んだメソッドを彼なりに咀嚼そしゃくして、シリーズドラマの脚本開発をしよう!というのです。

私はもともと海外ドラマや映画を見るのが好きで、保坂とも語ったりしていました。
話を聞いた2022年の初頭は、まだまだコロナ禍という状況。
巣ごもり効果で配信プラットフォームなどによる海外ドラマが存在感を増し、まさに「黒船襲来」が本格化していた時期でした。

特に韓国ドラマの勢いはすごかった。手に汗握る展開、グイグイ引き込まれる推進力、信じられないくらい心揺さぶられ、気づけばイッキ見をしている自分がいる。
漠然と「日本発のこういう面白いドラマって出てこないのかな?」と思っていたところに保坂の話です。
「面白いドラマを自分たちで作れるチャンスがあるってことか!」とワクワクしたのを覚えています。

と同時に、私は昔、志村けんさんのコント番組を制作していたのですが、志村さんが信じられないほどの集中力で脚本を読み込み、細かな点まで徹底的に詰めていく姿勢を目の当たりにしていました。志村さんと2人で飲んでいる時の締めは、ほぼ必ず「コントの根幹は台本だ」と熱く教えられていたので、ちゃんと脚本というものと向き合えるチャンスだとも思いました。

何より保坂の熱量がすごかった。
ゼロからイチを作る体験は制作の醍醐だいご味ですし、彼の志を後押ししたい気持ちもあり、参加を決めました。

まだ見ぬ仲間を探して

プロジェクトがスタートしたのは2022年の春先です。
やると決めたのは良いものの、まずはチームに参加してくれる肝心の脚本家を探す必要があります。メンバーは公募すると決め、2022年6月から2か月募集を行いました。
応募条件は、連続ドラマの1話を最長15ページ、冒頭からでも途中からでも構わないが「続きが気になる脚本であること」が条件です。
これ、かなり敷居を低く設定しています。
漫画・コント・小説・演劇・映画・アニメ・ゲームなどの分野で物語を作ってきた方、脚本家を志したけど諦めた人など、あらゆる人に門戸を開き、才能を集めたいと考えました。

キャッチコピー:世界を席巻するドラマ NHKで一緒に作りましょう
募集時のフライヤー

ドラマの広報を担当している川口俊介さんと一緒に広報活動を展開し、各媒体に取材して頂いたり、募集促進のプロモーション動画を手作り(撮影場所は当時の保坂の自宅!)したり、それぞれのつてを頼ってチラシを地方局や知り合いの店や劇場に置かせてもらったり…。
「世界を席けんするドラマ」(そんなドラマが生まれて欲しいという私の願望でした)なんてキャッチコピーをつけ、大風呂敷を広げてスタートしたものの、実態は本当に手探りで、締切ギリギリまで応募が集まらなかったこともあり、本当に仲間はいるのだろうか?と疑心暗鬼になる日々を過ごしました。

結果、応募総数は2025件。この数字には驚きました。
想定の倍以上、一般的な脚本コンクールの倍近い応募が集まったのです。
中には私でも名を知る脚本家やクリエイターの方もいました。
「これだけ期待してくれている人がいる」
この結果は、プロジェクト推進の大きな力となりました。
やる気スイッチがもう一段階上がった感じです。

1つ1つ熱や思いのこもった脚本を、保坂・上田明子プロデューサー・私の3人で分担して読み、審査しました。
どこに才能があるか分からないので、どんな小さな可能性も見逃すまいと2025件、全ての脚本を最後まで読み込み、気づけば夏が終わっていました…。

書類選考を経て、2次審査に進んだのは42名。

全ての人と面接、応募脚本のフィードバック(感想・修正点などを伝える)を行い、コミュニケーション力や修正力を含めて判断しました。
今回はチームでの脚本づくり、ただ書けるだけではダメで、聞く力も必要です。ここに重きを置いたのも、このプロジェクトの特徴かもしれません。
結果、10人の方にWDRプロジェクトメンバーとして参加して頂くことになりました。

プロジェクトメンバーの10名
アニメーション作家・劇団主宰・大学院生など幅広いメンバーがそろいました

このプロジェクトのもう1つの特徴は、開発期間中も報酬をお支払いしたことです。
業界では、アイデア出しや開発の時点では支払いが発生しないことが多く、実際に映像化したときに成功報酬として支払う形がほとんどという現状がありました。つまりドラマ化されるまでノーギャラがほとんどなんです。
このことにジレンマを感じていた保坂が、脚本家の環境を少しでも良くしたい、と開発期間中も対価をお支払いする形を作りました。

目からうろこのドラマ分析

2022年10月31日、WDRプロジェクトは約1か月の座学から始まりました。

特に興味深かったのは、連続ドラマの「第1話」の作り方です。

海外ドラマでは、第1話の作り方として、ティーザー(と呼ばれる“つかみ”)+5つのアクト(幕)で展開させ、その中でも4つ目のアクトに最大級の出来事を起こさせ、最後に切り抜けるというスタンダードになっている手法があります。
この最後の“切り抜け方”に意外性があればあるほど面白くなり、次の視聴につながっているのです。

何気なく見ていたドラマを見返すと、たしかに作り方には一定の法則があるものが多く、
「イッキ見したくなる理由の1つはこれか!」「こうやってとりこにさせられていたのか!」と、目から鱗だらけでした。
保坂による解説付きでドラマを見ると、謎解き感もあって、めちゃくちゃ面白かったです。

脚本家の皆さんも体系立てる分析の仕方に驚いている方が多く、みんなで一緒に海外ドラマの第1話をとにかく何本も見て、構造やキャラクターの作り方、展開の仕方を分析し合いました。

特に物語の推進力となる“エンジン”のかけ方、エネルギーとなる“ガソリン=燃料”のくべ方の重要性を確認しながら、プロジェクトがめざす形、共通言語を作っていきました。

分析会で集まる様子
海外ドラマの分析会

プロジェクト本格始動

準備段階を経て、いよいよ7か月に及ぶプロジェクトのスタートです。

活動は週に2・3回のミーティング(それぞれのメンバーが参加するのは週に1・2回)、多い時には個別も含め週に4回程度行いました。
プロジェクト期間の7か月を二分して、
まず前半の3か月で、10人それぞれがオリジナルドラマの第1話を執筆。
そして再度1か月間の海外ドラマを分析する座学を挟んで、
後半3か月も同様に別の第1話を執筆して頂きました。

脚本執筆の流れは、おおまかに以下の通りです。
ログライン(ドラマの内容や要点を記したもの・1~3行程度)
プロット(ログラインよりも少し詳しく展開を含めて記したもの・1~5枚程度)
台本執筆
それぞれの工程で、フィードバック⇒修正⇒執筆…を繰り返しました。

基本スタイルとしては、ログライン・プロット段階では10人全員からフィードバックを行い、台本段階からは3人・3人・4人と班を分け、意見の偏りが出ないように不定期でメンバーを入れ替えながらフィードバックを行いました。
脚本家の皆さんは、ただ自分の脚本を書けば良いだけじゃありません。
他の人たちが書いた脚本に対しても意見をしなければなりません。
「どうすれば面白くなるか?」「どうすれば狙いを悟らせずに驚かせる脚本になるのか?」さまざまな角度から面白くするための意見を言い合いました。

これが相当に大変で、フィードバックするには脚本を読み込まなければ、書いた人の意図や狙いがくみ取れないし、言えても無駄な意見になってしまったり、結局は無口になるしかありません。
ましてや自分の脚本のことだけを考えたいのに、他の脚本家が書いた別の要素を脳みそに入れなければならないのですから、相当な負担です。
だって、書いていない僕でも読み込むだけで脳みそが空っぽになる日々でしたから。

例えが良いのか分かりませんが、自分の車を運転しながら、別の車を運転する人にも気を配り「そこは右。いや、やっぱり引き返そうか」と目的地まで道案内しなければならない。結構な無理難題ですよね?

車座になって打合せ
―10人でのフィードバックの様子―

脚本家の皆さんは、普通1人での活動がほとんどです。
ましてや、話すよりも言いたいことを台本に込めることが得意な人たち。

最初はみんなと対話しながらコミュニケーションを取っていくことに戸惑いがあったようです。ただプロジェクトの趣旨を理解してくれて、せっかくの機会だからと挑戦してくれました。
気づけば、相手にとっては結構キツい指摘でも遠慮なく言い合える仲になっていました。

色んな人の視点から出る意見やアイデアをどう取り入れるかは各々に判断を委ねつつも、全員の脚本の完成度がどんどん上がっていく様は見事でした。メンバーみんなの「絶対におもしろいものにする!」という熱が支配する空間…僕は、プロジェクトの成功を確信しました。

ドラマ制作をしていない私が、何が驚いたって、その労力のかけ方です。尋常じゃない。ふだんは執筆・推こうと1人でやっている脚本家の皆さんを心から尊敬しました。
でも、参加した脚本家の方々は言っていました
「みんなと話すことで、こんなに自分の世界や幅が広がるんだ!」と。

後に「信頼感があったからできた」と脚本家の皆さんはおっしゃっていましたが、ともに学ぶ座学から始めたことで同級生のような意識が芽生え、共に作っていく作業は初めてながらも、1人では味わえない新鮮な体験ができたそうです。

後半も基本的にはこの繰り返しで、各々に全く別のテーマで1本ずつ書いて頂きました。

プロジェクトメンバーとの集合写真
みんなでゼロイチを成し遂げた、言わば戦友の皆さん(筆者は2列目左)。
メンバーの清々しい笑顔が、プロジェクトの達成感を物語っているのではないでしょうか。

2023年5月。
連続ドラマの第1話を19本仕上げた時点で、WDRプロジェクトは解散しました。

たった1人の想像から脚本づくりが始まり、1人1人、書くペースも違えば、内容も「宗教2世」「時代もの」「SF」「青春」だったりバラバラです。しかし、全ての脚本にみんなの意見が少しずつ練り込まれ、最終的には、合計19本のオリジナルの第1話の脚本が出来上がりました。
お世辞抜きで全ての脚本が、どこに出しても恥ずかしくない完成度でした。

その中から実際に何をドラマ化していくか、制作陣や脚本家の皆さんの投票も加味した上で、「3000万」の制作をめざすことに決めました。

そして、2023年7月。
原案を書いた弥重早希子さんを中心に、WDRプロジェクトメンバーから脚本家4人を再召集。新たにライターズルームを結成。
制作統括の渡辺哲也、演出の小林直毅も合流し、全8回の執筆がスタートしました。

「3000万」を、どうドラマ化していったのか。
この続きは、プロジェクトメンバーに託します。

プロデューサー 中山 英臣

土曜ドラマ「3000万」ポスター

◇プロジェクトメンバーの記事は後日公開予定。お楽しみに!

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