「何もしない」を読んで

アーティストのジェニー・オデルによる注意経済に抵抗する「何もしない」ということを実践するための一冊。本書では、注意経済という現代社会を飲み込む資本主義の動きを指摘し、その中で、人がどのように振る舞うようになっていったのかを描き出します。その中で、わたしたちから何が失われているのか、ということを著書の経験や哲学などの領域から指摘をします。わたしたちの注意が失われることで、私たちは人間としての動物性を喪失する。注意を取り戻す、という実践を著者は「離れる」ということから取り戻すことを提案する。ただし、「離れる」とは社会的に離れるのではなく、社会の中にとどまりながら、離れる、ということを意味しています。ここでは、生きる拒絶としてのディオゲネスなどを例に、どうあるかを示します。そして、そこから何が始まるのか、を連携というキーワードで示していきます。私たちの注意を意識に取り戻すことで、私という存在に欠けているもの、私と他者との関係性といったものも、その姿を変えていきます。この注意のありようにより、現実はより豊かな姿を見せていきます。こうして見えてくる世界の生態は、自分と他者という境界線を溶かしていきます。そのように思考をしていくことで、復元されていく世界で、私たちはケアをされていくのだということが見えてきます。社会に対する責任を持つことを自覚し、そして、何もしない、という抵抗が、現代社会にどのように育まれるのか、そのことを本書は指し示します。

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