「落語―哲学」を読んで

中央大学教授の中村氏による、落語と哲学を論じた一冊。落語と哲学の交差点、といった景色が、この本から見えてきます。この交差点は、落語という道を歩いていくか、哲学という道から向かうかで、異なる景色が見えてきます。落語の噺で語られていることから想起される哲学の問題。哲学の問いから見えてくる事象が、落語の噺に立ち上がってくる。この交差点を描き出したのが本書です。有名な「芝浜」からは、「多世界解釈」というキーワード、そして、デカルト的懐疑。哲学として、世界を考えていったときに、通過するこの道を歩んでいきます。この歩みの中で、想起されるものとして「芝浜」が浮かび上がってきます。この噺と話の関係を「この世界は夢ではないか」という問いを立てて見ていきます。ここでの著者の議論は、まさに、落語と哲学が交わって見えてくる景色です。ここに、著者が落語とは「業の否定」と述べる一端が見えてきます。

本書で語られるテーマは、「世界とは何か」「私とは何か」「顔について」「恋について」「死について」というものが、大きく語られていきます。どのテーマも、対応する落語の噺と、どのように絡み合っていくのか、ということを述べる著者の語りは、非常に面白い。本棚から本をスッと引き出して、ほら、この話って、この噺を思い出すよね、という言葉が聞こえてきそうな語りは面白かったです(この面白い、という言葉も付録を読むと、また考えさせられるものがあります)。付録も、本章に劣らず、面白みのある内容となっています。本書の試みは、非常に面白く、現代に必要な視点があるな、と思いました。

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