「翻訳 訳すことのストラテジー」を読んで

オックスフォード大学のマシュー・レイノルズ教授による翻訳研究で考えられていることを概観する一冊です。翻訳とは「何」なのか、ということを具体例とともに、境界線が曖昧になっていく姿を、最初に示します。テストの問題での翻訳、多言語で話しているときの一コマ、医者の言葉の言い換え、言語、というもの自体が持つ個別性を示しながら、翻訳の姿を考えていきます。翻訳、という言葉が持つ意味を、実際の翻訳の場を見ながら、「翻訳」というものを考えていきます。「厳密に定義された翻訳」という言葉を示しながら、そこに含まれない翻訳の姿を示していきます。翻訳が行われる場、翻訳がなぜ行われるのか。翻訳は、原文と訳文を一対一に対応させる作業ではない、ということを論じます。言語というものが、文化に結びついているという関係。スコーンを例に、訳される言葉が訳す言語にない場合、そこには、どう訳せば良いのか、という問題があります。また、訳される文章が、訳す言語のコンテキストにない場合、どうすれば良いのか。「直訳」と「意訳」という二つの訳され方の問題。また、翻訳という作業は単純に言語だけに留まらないという例。翻訳された文章が埋め込まれたコンテキストの問題を、様々な翻訳の実例から示します。様々な問題が提示されていることを示しながら、翻訳が向かう方向を探ります。翻訳と解釈、多言語創作といった力を多数の実例から示しながら、翻訳が向かう未来を考えていきます。翻訳によって提示される言語や文化の姿を楽しみ、さらに創作へ向かう力を本書は示しています。

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