「文庫版 惹句術 映画のこころ」を読んで

東映の惹句師関根忠朗、映画評論家の山田宏一と山根貞男による「惹句を切り口として、映画を語る」という一冊。惹句とは、心を惹く名文句であり、映画が観客を引き込む声でもあります。惹句を作ってきた関根氏を中心として、時系列を追いながら、惹句と映画の談義を見ていきます。実際に惹句を作ってきた人間と、映画を評論してきた人間の談義は読み応えがあります。映画制作の現場で、惹句がどのように出来上がるのか、そして、時代を追うにつれて、惹句からコピーへと変わっていく流れがどのように見えていたのか、など、作る側から見た映画史の変遷の話。映画評論家として、映画を語る人間から見た惹句の面白さ、惹句から見る映画など、見る立場として、惹句がどのように映画の一部であったのか、という評論としての話。この二つが話を行き来し、その当時の映画が社会の中でどのように受け入れられていたのか、という生々しい話が展開されます。演者は誰なのか、ストーリーの核は何なのか、どういった線にある映画なのか、など、映画の要素をどう取り込んで、惹句を作っていくのか。観客を惹きつけるために、どういうことを考えているのか、という惹句の話と、それを受け取った映画評論家の反応や実際の動員の話など、映画にまつわる話は読んでいて、興味をそそられます。本書で語られている内容は映画社会学とでも呼べるような内容です。惹句を作る人間という映画製作に関わる人間と映画評論家という点で、生々しい語りとなっています。本書は、一つの時代として映画を見ていく上で、非常に面白い内容となっています。

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