「ナラティブでひらく言語教育」を読んで

立命館大学の北出教授、関西大学大学院の島津教授、武蔵野美術大学の三代准教授の編集によるナラティブ・アプローチを言語教育でいかに取り入れていくか、ナラティブ・アプローチを取り入れることで言語教育から社会問題の解決へといかに開かれていくのか、ということを理論面から実践面から説明した一冊です。本書では、ナラティブに注目をした背景を社会のグローバル化などの変化から、大きな物語から個人の物語へと動いていったところから解説します。ここには、ナラティブがどのように言語教育で捉えられるのか、そして、ナラティブを通して、どのように社会につながっていくのか、ということが述べられます。ナラティブが、どのように現実を構築していくのか、語り手と聞き手の関係はどのようになっているのか、という理論的な概観を与えていきます。また、ナラティブ・アプローチにおける注意点にも触れていきます。第二部の実践編では、さまざまな場で行われたナラティブ・アプローチが紹介されます。ここでは、実際の言語教育の場で、どのようにナラティブ・アプローチを取り入れていったのか、その中で生徒、学習者は、どのようなことを考えていったのか、また、この先の展望はどのように社会に向けられていくのか、といった内容が語られます。ここでは、私たちの眼前にある現実が、他者のストーリーによって、どのように変わっていくのか、という例が提示されています。また、その中でどのように語る場が作られるのか、といった心構えも提示されます。本書は言語教育という実践を通して語られますが、ナラティブ・アプローチを通して得られるものの大きさを感じられる一冊でした。

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