「われらみな食人種」を読んで

本書は、人類学者レビィ=ストロースが日刊紙「ラ・レプブリカ」に連載された論考をまとめたエッセイ集です。様々なニュース、例えば、狂牛病やプッサンの絵画など、を出発点として、著者の深い考察が展開されていきます。他者理解を目指す人類学が、現実の具体的な社会の中で、どのような役割を果たすのか、そのことが非常によく分かる内容となっています。訳者が述べるように、本書は、ストロースの著作に入る前に読むと良い「ストロース入門書」として良い書だと思いました。専門的な用語が多くなく、本書を通して、著者の広い思考の世界を感じることができる、という点から、まさに役者の言葉通り、「入門」という内容だと思いました。

巻頭の「火あぶりにされたサンタクロース」では、1951年フランスでのサンタクロースの受難から、論考が始まります。「火あぶりにされたサンタクロース」という事件から、クリスマスにおけるサンタクロースの受容の歴史を「刺激伝搬」であったり、古代の歴史から紐解いたり、通過儀礼の考えを示したり、と、クリスマス儀礼の謎を解きほぐしていきます。そして、元の事件が、どういったことを示しているのかを明らかにしていきます。この論考の組み立てにおける、遠いものと近いものの交差していく人類学の役割、というものが伝わってくるのではないでしょうか。

どの論考も話の出発点の身近さ、そして、考察の過程での遠いところからの思考と我々の社会における考え、古代(場合によっては、人類の誕生まで)の社会構造における見方と現代の社会における構造、と大胆に連想を繋げていく著者の論理は非常に面白く、読み応えのある一冊でした。

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