「ネガティブ・ケイパビリティ」を読んで

ネガティブ・ケイパビリティとは、「どうにも答えのでない、どうにも対処のしようのない事態に耐える能力」をさします。
「はじめに」より

小説家であり、精神科医でもある帚木氏による「ネガティブ・ケイパビリティ」、そして「共感」についての本です。詩人キーツが、どのようにして、ネガティブ・ケイパビリティという考えを発見したのか、そして、その考えが、どのように再発見されたのか、ネガティブ・ケイパビリティが、なぜ、私たちの人生にとって重要で、必要なものなのか。本書では、それらのことを、順に概観していきます。ネガティブ・ケイパビリティと対極にある、目の前の事態を理解し、即座に答えが導き出すポジティブ・ケイパビリティが、脳が面前の出来事を理解したがる(そして、それにどう対処すれば良いかを即座に提示する)、という性質から重要視されているということを指摘します。このポジティブ・ケイパビリティの限界を、著者自身の実感を伴った例で示しつつ、ビオンの言葉、「答えは好奇心を殺す」を引用します。「身の上相談」という診療所の景色から、「日薬」「目薬」という、医師と患者の関わり方、その中で働くネガティブ・ケイパビリティを見ていきます。そこには、画一的な答えも、はっかりとした答えもないですが、ただ、医師と患者が、目の前の状況に、耐え続けていく、という状況があります。著者が印象深かった言葉として挙げた、インドネシアの精神科教授の一言は、同じく、読者にとっても印象的な言葉だと感じました。

治せないかもしれませんが、トリートメントはできます

ここには、伝統治療師のネガティブ・ケイパビリティにも通じるものがあるではないか、と思いました。治療するだけではなく、医師が患者にどう向き合うのか、ということが凝縮されている一言だと思いました。

ネガティブ・ケイパビリティの力は、さらに広がり、創造的行為、教育、人生と広がっていきます。目の前の事態に対し、表面をなぞったような解決を目指すのではなく、どうにもならなさに耐えるためには、ネガティブ・ケイパビリティが必要になるということを歴史から描き出していきます。そして、ネガティブ・ケイパビリティに支えられた共感が、いかに未来を開いていくのか、ということを、本書は示しています。

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