「「かわいい」の世界」を読んで

ロンドン大学キングス・カレッジのサイモン・メイ教授による「キュート」とは何なのか、「キュート」から読み取れる現代社会の精神は何なのかを論じた一冊。ハローキティ、ミッキーマウスなど、キュートなマスコット、E.T.のようなキュートだが、不気味なもの。キュートという概念は、幅広い。著者は、政治家にもキュートさがある、と指摘します。現在、世の中にはキュートなものがあふれているが、このキュートとは何なのか。キュートには、境界線を曖昧にする、捉え所のなさがある。では、このキュートとは、何を意味しているのか、を著者は問います。境界線を曖昧にするキュートを歴史の中で、どのように現れ、どのように変化していったのかを追っていきます。そして、現代、キュートは、どのように扱われているのか、といったことを考えていきます。キュートは、生物・非生物などの二分された概念の境界線を曖昧にする作用があり、それがどのように働くのかを、様々な例から考えていきます。そして、キュートに対する批判が、どのような時代の精神を反映しているのか、といったことを検討していきます。著者は、キュートの精神を、さまざまな角度から検討していきます。キュートの持つ流動性、境界線を曖昧することで、社会の中の問いを浮かび上がらせる。それは、現代社会において、私たちをがんじがらめにする誠実さという窮屈さにどう向き合うのか、ということを考えさせるものだと、著者は述べます。本書は、現代社会で我々は、どのように位置付けられ、方向付けられているのか、そこにキュートがどう働くのかを考察した興味深い一冊です。

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