「トレイルズ 「道」と歩くことの哲学」を読んで

ロバート・ムーア氏によるアパラチアン・トレイルを歩くなかで浮かんだ、「そもそも道とは何なのか」「そもそも道はなぜあるのか」といった、トレイルに関する疑問に対し、さまざまな道を辿っていく一冊です。本書では、道というものがどういうものなのか、ということを、個人の視点、他者の視点と、複数のレイヤーで考えていきます。この他者の視点とは、人間の視点もあれば、ほかの動物の視点という場合もあります。本書は、素朴な疑問から始まり、その答えを深い場所まで探しにいきます。本書では、道とは何なのか、その歴史と役割をさまざまな視点から見ていきます。エディアカラ生物群まで遡り、その足跡は道なのか、という問い、それが道ではないなら、道とは何なのか、とほかの動物の道から考えていきます。動物たちの道を見ることで、トレイルとは、外在化した記憶である、と指摘します。そして、人間のトレイルはどうなのか、を見ていきます。チェロキー族、アパッチ族といった人々の道は、そこに先祖の記憶があります。歩くという行動が道を作り、道は景観となり、記憶となります。また、道は変化していきます。変化の中で、生き残る道もあれば、廃れる道もあります。この変化とは、どういうものか、ということも考えていきます。ここには、私たちがもつジレンマがあります。そのジレンマにどう道筋をつけるのか、ということも論じています。著者は、さまざまな探求から、道とは何なのか、道の役割とは何なのか、そして、わたしたちはなぜ歩くのか、ということの答えを提示します。道は、他者と自分をつなぐものであり、実践的な知性でもあることを、著者は示します。

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