「おしゃべりと嘘」を読んで

樋口氏による「ことば」と「文化」を探求する一冊。「おしゃべり」をキーワードにし、著者の実体験を踏まえて、「おしゃべり」と「嘘」、「芸術」と「嘘」と、「嘘」に迫っていく一冊です。「長めのプロローグ」で語られる、著者が実際に体験したニースでの嘘にまつわるエピソード(なかには、嘘とも言えない、事実が誇張されたものも含まれる)は、ニースの人々の風習、文化から読み解かれていきます。その中で、「おしゃべり」というものがキーワードとして立ち現れてきます。この「おしゃべり」という場と嘘の関係を舞台のようなものとして見つけていきます。「おしゃべり」をキーワードとして、言葉と人の繋がり、小さなおクニとしてまとまるのか、ということを考えていきます。ここに作用するものとして、即興の演劇の舞台としての「おしゃべり」の役割を指摘します。「おしゃべり」の場から、「かたる」ということを振り返り、「嘘」というものを見ていきます。「嘘」とは、素朴に理解される意味がありつつ、その定義は、古代ギリシャの時代、ソクラテスから、近現代まで、と様々に考えられています。この嘘の定義の歴史を辿りながら、嘘と行動を結びつけたジャック・デリダの指摘を提示します。この指摘が、のちの議論をさらに発展させていきます。そして、「嘘」と「芸術」という議論へ本書は進んでいきます。「芸術」という「嘘」で作られたものを、実例と解釈を踏まえて、論を展開していきます。そして、ここまでに出てきた素材を用いて、イメージとリアリティという、現代の嘘へと向かっていきます。現代において変化した「現実」と「現実感」という私たちの感覚の変化、そして、「嘘」と、どう私たちは付き合っていくのか、ということを示します。

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