「不道徳的倫理学講義」を読んで

本書は、運の存在、そして、人生には「賭け」の側面がある、という観点から、道徳や倫理についての倫理学の歴史を辿っていきます。「運」とは、どのような概念なのか、それを眺めていく第1部、そして、古代から近代までの倫理学史を辿っていく第2部。現代の倫理学で、「運」がどのように扱われているのかを探る第3部。「運」に左右される世界を生きている人間の行為、人生をめぐる議論が繰り広げられていきます。人間の生をどのように捉えるのかを、様々な議論、問題を元に、問いかけてきます。それは、「いかに生きるべきか」を、改めて問い直していくという問題を考える、ということになります。「運」という概念が、倫理学の中から無視されていくにつれて、この問いは「人間はいかに生きるべきか」という問いへ変わっていきます。しかし、「運」というものを個人の人生で無視することは難しく、その人生では、この問いは「私はいかに生きるべきか」という問いとして捉えれます。いわば、人間として「不道徳」的行為も、個人という見方では「道徳」的行為とも見做せる、という緊張関係があります。本書は、そこに至るまでの倫理学史の概観とともに、現代の議論は、どのような意味をもたらすのか、ということを探っていきます。

個人としての生を捉えるとき、我々が、いかにその生を検討するか、「運」という、どうしようもなく危ういものを、どう捉えるのか、その道筋を本書は与えてくれます。我々は、ここでなされた議論を頭に置きつつ、「運」について、そして、「いかに生きるべきか」を考えながら生きていく事が求められているだと思いました。

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