「戦争体験 ─一九七〇年への遺書」を読んで

評論家、安田武の戦争体験を語る一冊。著者の戦争体験への固執、固執せざるを得ない理由を淡々と語っていきます。さまざまな矛盾を孕んだ戦争体験の語り。戦争体験の伝承というものに対する絶望感。自分が戦争を生き残った致命的な偶然、「アイツが死んで、オレが生きた」ということの納得ゆかなさ、論理的に説明されたら腹が立つ、という憤怒のどうしようもなさから、戦争体験の語りにくさを述べていきます。そこには、戦前派とも違う、戦後派とも違う、戦中派がどうあったあのか、ということの記憶を他の人々の語りとともに、自分の場合とで語っていきます。自分に立ち返っていく「挫折」を、ただただ自分で抱え、それを矛盾を抱えたままに語っていく、ということの複雑さを自覚しながら、考えていきます。この「挫折」が故に、戦争体験の語りがたさとは何なのか、ということを語っていきます。そこには、憤怒、挫折、断絶などのさまざまな状況があります。かつての自分の戦争体験から、「臆病者に甘んずる勇気」を抱えて、戦争体験をただ伝承を拒絶して語る、ということをしていきます。伝承というものが繰り返されること、分かりやすく伝承されること、そのことによって、一般化されてくことを拒否し続ける、ということを拒絶していくこと。「不生産的」と言われながら、そこに頑として居続ける、ということを耐えていく。その中で、戦争体験を語ることを、ただただ直視し続ける著者の立ち方にある勇気が現代に投げかけるものは、とても大きいと思います。

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