「発話の権利」を読んで

本書は、言語学者である定延氏による「発話の権利」という言葉をキーとして、語用論、会話分析、人類学などの研究者の論文をまとめた一冊です。伝統的なコミュニケーション観で言語、会話を捉えようとしたときに、その扱いが難しい言葉が存在する、という実例を踏まえた解説をしながら、編者である定延氏は問題を提起していきます。そして、そこには「発話の権利」とでも言えるものが存在しているのではないか、ということを指摘します。編者である定延氏の問いに対して、それぞれの分野から「発話の権利」とは何なのか、それは普遍的なものなのか、何を語る権利なのか、といったことが議論されます。中村氏は、チンパンジーを中心に観察をしながら、動物にも「権利」はあるのか、と問います。インタラクションにおいて、社会的優劣、コンテクスト、関係といったものによって、行動の自然さが生まれるときに権利が生じるのではないか、とまとめます。複数の言語を比較する中で、権利はどのように生じるのか、権利とは何を意味するのか。そのことが人類学、会話分析などの視点から、検討がされていきます。この複数の視点から、会話、コミュニケーションのなかで、発話の権利というものの輪郭を論じていきます。この中には、我々が自然に感じる「発話」がなぜ自然なのか、といったことが解説されていたり、なぜ我々は、その場で「そうではない」表現ができないのか、といった事情が説明されます。私たちの発話を支えるものは何なのか、という問いが問いのまま、いったんの回答が提示される、という本書は、今後、更に考えていくことで、答えの意味が深まると思いました。

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